ピーデ離脱
リリーメルたちがウグナペリン伯邸に戻ってくると、ピーデが出立の準備をして待っていた。
フェーンとアディとポルメが、「姫様が戻るまで待て」と言って引き止めている。
「これからは宮廷内の争いだ。もう俺の出る幕はねえ。ここらで契約終了ってことにしたいんだが?」
「ピーデ……」
「せっかく帝都に来たんだ。俺もやりてえことがあるしな」
「分かりました。これまでの報酬をお支払いします」
「いや、騎士殿からもう受け取った」
「では、これは私個人からです」
リリーメルは、ピーデの手のひらに金貨を置いた。ピーデが手を握ると、チャリンと鳴った。
「まいど。いい稼ぎになったよ。じゃあな」
「待ちなさい、ピーデ」
キーゼロイデが呼びとめた。
腕組みに仁王立ちでピーデを睥睨している。
「あんたもピーデって呼ぶのかい……」
「これまで、リリーをよく守ってくれました。これは私からです。持って行きなさい」
キーゼロイデは、ゼレベレンの腰から短刀を外してピーデに突き出した。
「おいおい、これ伯爵のものだろう」
「夫の体形では短刀など宝の持ち腐れ。あなたなら使いこなせるでしょ。短刀など何振りも倉庫にあるんだから気にする必要はありません」
ピーデは、抜刀して刀身を眺めた。
「こいつぁ……業物だ。報酬としちゃ破格過ぎるぜ」
「リリーの命代だと思えば安過ぎるくらいよ。遠慮するなんて、平民のくせに生意気ね」
「全く、姉妹そろって変わってるな」
「最高の褒め言葉ね。平民としては上出来。気に入った」
ピーデは、初めて大笑いした。斜に構えて常に冷笑を浮かべていた男が、声を上げて笑った。
「じゃあな、嬢ちゃん、騎士殿、侍女殿、詐欺師さん」
ピーデは、振り返らなかった。
リリーメルが振り返ると、妻に短刀を強奪されたゼレベレンが笑いながら肩をすくめた。頬がぷるるんと揺れた。
「伯爵邸に来てから、ピーデは居心地が悪そうだった。ヤツには、ここで別れるのが正解だと俺も思うよ」
ポルメは、そう言ってリリーメルにへへへと笑った。
彼女に「何です、その笑いは」と問い詰められると逃げていった。
フェーンとアディは、少し離れた所からリリーメルを見つめていた。
「どうも、姫様は元気がないように見受けられる」
「明らかに元気がありません」
「あんな様子を見せられると、美男を追いかけ回している方が姫様らしくてよかったな」
「本当にそう思うのですか?」
「えっ?」
「殿方を追い回す姫様のままでよいのですか? フェーンはそれでよいのですか?」
「何が言いたいんだ」
「分からないのですか? 分からないふりをしているのですか?」
「持って回った言い方はアディらしくないな。君はもっと直截的だろう?」
「……」
翌朝、フェーンの父であるディランエルがウグナペリン伯邸にやって来た。
そして――
「ああ! 四の姫様、なぜこんなところに!?」
「ああ! デルバーエル卿、なぜこんなところに!?」
ついに、リリーメルたちが帝都に居ることが露見した。




