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一目惚れ伯爵令嬢と下僕たち  作者: 中里勇史
キーゼロイデは高らかに

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キーゼロイデの笑み

 翌日、体力を完全に回復した三人は、活力を持て余して夜明け直後には宿の外をウロウロしていた。


「おい、あいつらもう復活してるぞ」

(わけ)ぇな……」


 ピーデとポルメは、まだ痛む腰と尻をさすりながらあくびをした。


「歳を取ると一晩寝たくらいじゃ復活しねえな」

「俺はそこまで歳じゃないぜ?」

「似たようなもんだろうが!」

「ちっ」「ちっ」


「で、詐欺師さんに話持ってきたのは本当に宮内伯の被官なのか」

「間違いねえ」

「何でここまでややこしいことして、簡単に足が付くんだ?」

「俺が何も知らねえと思ってんだろうな」


 かつて、自分の失敗を押しつけてポルメを追放した宮内伯、フェルカーデ。彼は、ほどなく新たな被官を召し抱えた。

 ポルメは、それを見ていたのだ。復讐する機会を窺ってフェルカーデを監視していたときに。そして、新たな被官はポルメのことを知らない。


 新たな被官は、詐欺師として裏の世界で名を売っていた男に目を付けた。フェルカーデとのつながりはない方がいい。帝都ではなく、カルテマイセーを拠点にしているところも好都合だった。

 だが、ポルメは危険を察してベーベンに話を回した。


 こうしてポルメは罠を回避し、さらに呪符とフェルカーデの接点が残った。

 ポルメとしては、フェルカーデに復讐する絶好の機会を得たことになる。リリーメルに雇われなくても帝都に付いてきただろう。


「まずは、フェルカーデの屋敷を監視するか」


 宮内伯の屋敷に乗り込むわけにはいかない以上、迂遠な手段しかない。できれば、ポルメに仕事を持ってきた例の被官が宮内伯の屋敷に出入りする現場を押さえたいところである。


 しかし……。


「こうして眺めていても何も起こりませんね……」


 ――姫様、飽きましたね。

 ――姫様、飽きたんだな。

 ――嬢ちゃん、飽きやがった。

 ――姫さん、飽きたな。


 四人は嘆息した。まだ、太陽が三〇度ほど移動した程度の時間しかたっていない。一カ月も監視していたことがあるポルメにとっては、始まったばかりである。


「ああ、今日は良い天気ね」などと言いながら、リリーメルは空を見上げた。


 ――姫様、やっぱり飽きましたね。

 ――姫様、やっぱり飽きたんだな。

 ――嬢ちゃん、やっぱり飽きやがった。

 ――姫さん、やっぱり飽きたな。


 そのとき、宮内伯どころか諸侯が用いるような豪奢な馬車が五人の後ろで停止した。


「あなた、リリーなの?」

「えっ?」

「やっぱり。リリー、あなたこんなところで何をしているの?」

「キーゼ姉様!?」



 一同は、帝都にあるウグナペリン伯の邸宅に居た。


「リリー、久しぶりねぇ。私の婚礼以来だから二年ぶりか。すっかり大きく……なってないわね」


 キルエルト伯の次女にしてウグナペリン伯妃のキーゼロイデは、リリーメルの胸を見ながらふふっと笑う。


「私の体が薄々なのはもういいのです!」


 リリーメルが顔を炭火のように赤くしてそっぽを向いた。


「それより、姉様は帝都で何をやっているのですか?」

「先日義父上がデズダウロン(死者の国の神)の下に召されたの。そこで、夫の叙任式のために帝都に上っていたというわけ」

「そうでしたか……。前伯爵に安らぎとデズダウロンの寵愛を」

「あなたの祈りに感謝を」


 二人は、弔いの定例句と答礼を交わした。


「まさか帝都で姉様にお会いできるとは思ってもみませんでした」

「見覚えのあるマヌケ面が見えたときは驚いたわよ。あんた一体何やってるの? エーメ姉様のところで大暴れしたって話は聞いてるけど」


 キーゼロイデは、後ろに控えるピーデを一瞥して「流浪の傭兵姫ねえ……」とつぶやいた。

 キーゼロイデは、おっとりした長女のエーメレイアとは異なり、せっかちで表現も強い。リリーメルのことをうっすら小馬鹿にしている面がある。

 リリーメルもそのことはうっすら感じているが、今は姉の協力が大事と思い直して、帝都にやって来た経緯を語った。


「父上の件がそんな事情だったとはね……。夫も調べてはくれていたのだけど、呪術院なんてものが絡んでいたとは。よく調べたものね。えらいぞリリー」

「それで! それで、これからどうしたらよいか!」

「まあ、落ち着きなさい」

「父上の一大事に何をのんきなことを!」

「ここで慌てても仕方がないでしょう、このおっちょこちょい。要は、その宮内伯の被官を引きずり出して、『キルエルト伯の使い』であると証明すればよいのでしょう?」

「できるのですか?」

「それは知らない」

「……」

「だから、落ち着いて考えましょうって言ってるの。あんた、慌てるばかりで、考えないで答えだけ得ようとしてるでしょ。横着したって結果は出ない。その過程をすっ飛ばすクセ、いい加減直しなさい」

「姉様も、説教ばかりしてないで考えてください。父上の命が懸かっているのですから」


 リリーメルは、やり込められ続けた鬱憤で涙目になって抗議した。彼女の抗議など、キーゼロイデにとっては、微風のようなものである。


「その何とか……フェルカーデ?って宮内伯に直接当たっても警戒されるだけでしょ。後ろ暗いことを絶賛実施中なんだから。宮内伯に接触したいなら、他の宮内伯を経由したらいいじゃない」

「他の……宮内伯?」

「宮内伯なんて山ほどいるんだから、味方になってくれる宮内伯を作って、そこからたどるの」

「他の宮内伯が味方になってくれるのでしょうか……」


 宮内伯同士が結束して隠蔽するのではないか――リリーメルならそうする。仲間の不利になるようなことはしないし、できない。


「あんた、ホントに世間知らずね。宮内伯って、派閥を作って足引っ張り合って、隙あらば出し抜こうとして、機会があれば相手を失脚させようとしている連中なの。他の派閥の宮内伯を見付ければ、喜々として協力してくれるわよ」


 キーゼロイデは、獲物を見付けた猛禽類のような目をしてニヤリと笑った。

 リリーメルは思い出した。キーゼ姉様は、社交的で暴力的で陽気な謀略家だということを。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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