父親の目
ポルメを加えた五人は、馬に揺られながら帝都を目指している。
「ところでいまさらですが、ポルメは何者なのですか?」
「姫さんあんた、訳も分からず俺を雇ったのかよ!? イカレてるぜ!」
「姫様にイカレているとは何ごとか。正直なことは必ずしも美徳ではないぞ」
フェーンが長剣を抜いてポルメに突き付ける。
「フェーン、今の少し引っ掛かるのだけれど」
「何がです、姫様」
「悪気がないのならいいのです。もう、いいです……」
「姫さんのお供も、結構どうかしてるよな?」
「そうなの。アディもフェーンも変わっているけど悪い人ではないのです。気にしないであげてください」
「姫様!?」「姫様!?」
アディとフェーンはひどく傷ついたような顔をして、がくりとうなだれた。
「ところでいまさらですが、ポルメは何者なのですか?」
「結局そこに戻るのかい。……そうだな、今は詐欺師だな」
「まあ、詐欺師さんなの」
「詐欺師にさんを付けるヤツと会ったのは初めてだな」
「『今は』ということは、昔は? 呪いや皇帝宮殿に妙に詳しいようですけれど」
「昔はな、呪術院の宮内伯の被官だった」
「ええっ!?」「ええっ!?」「ええっ!?」
「こういうときの息はぴったりだな、この三人は」
ピーデは、興味なさそうに黙っている。
「宮内伯の被官が、なぜ詐欺師などをしているのだ」と、フェーン。
「被官なんてもんは、詰め腹切らされるもんよ。ある日、主人がちょっとした失敗をしでかした。その罪を全て着せられて、宮殿から追放された。よくある話だ」
「そんなことがよくあるのですか」
「宮内伯なんてのは、皇帝の使用人よ。勘違いして威張ってるが、ただの下っ端だ。器もちっせえんだ。クズみてえな連中ばかりだぜ」
「……」
「ま、平民に落とされなかっただけでもマシと言えるかもな」
「え? 平民ではないのですか?」
「一応は騎士身分だ。ソド・ポルメターベ・ベリウンが全名だ」
「えっ!?」「えっ!?」「えっ!?」
「ホントに息ぴったりだな」
「すっかり平民だとばかり思っていました。まあ身分などどうでもよいことです。よろしくね、ポルメ」
「やっぱりポルメなんだな……。そうか、ピーデというのも……」
ポルメがピーデを見た。ピーデは、悲しそうな目をして肩をすくめた。それを見て、ポルメは色々と諦めた。
「しかしな、俺が帝都に行ったところで宮殿の奥深くに潜り込んでるヤツに接触するのは不可能に近いぜ。どうやって宮内伯たちの陰謀だって証明すんだよ」
リリーメルは人さし指を頬に当てて首をかしげた。
「ん~。まあどうにかなるでしょう。できることをやりましょう!」
「……前向きなのはいいことだな」
「ありゃ、ただの行き当たりばったりだ」
ピーデが覚めた目でつぶやいた。
◆
往復十二日間の旅は、一同を著しく消耗させた。ピーデですら疲労の色が隠せない。帝都に戻ったものの、今後の方針も定まっていない。
「さ、さあ、宮内伯を、捕まえるのです……」
それでも皇帝宮殿に向かおうとするリリーメルに、ピーデの一喝が飛んだ。
「いい加減にしろ! そんな状態で何ができる。主君なら家臣の状態も見ろ! アディの顔色はどうだ? 焦るのもいいが、態勢を整えることも考えろ!」
「でも……父上が……」
「今動いても何もできねえ。嬢ちゃんの顔色も最悪だ。寝ろ! 休め! さっさと寝台に入れ!」
ピーデはリリーメルらを宿の部屋に蹴り入れると、扉を閉めた。三人とも、抵抗はしなかった。
宿の一階にある酒場に下りると、ポルメがヘラヘラと笑っている。
「完全に保護者だな。傭兵風情がよ」
「うるせえな詐欺師さん」
「ちっ」「ちっ」
二人はしばらく睨み合ったが、馬鹿馬鹿しくなって視線を外した。
「なあ詐欺師さん、平民が宮殿に入り込んで呪符を埋めるなんてことができるのか?」
「それ。騎士殿の話で最も腑に落ちないところだ。恐らく、埋めたって事実すらない可能性があるぜ、傭兵」
「どういうことだ」
「呪符を持ってる時点で捕まった、ってことだ」
「手際が良すぎるな」
「手際が良すぎるんだよ。だから埋めたなんて嘘を付け加えたんだろうな」
「嘘は入ってるが、ベーベンと呪符は事実だから信憑性はある、か」
ピーデが蒸留酒を喉に流し込む。
「皇帝だか宮内伯だかは、何がしてえんだ。平民使って伯爵罠にはめて、どうしようってんだ」
「……なあ、この話……もっとチンケなんじゃないか?」
「チンケ?」
「皇帝宮殿を舞台にした陰謀なんて大きなもんじゃない。もっと個人的な、つまらねえ話な気がしてならない」
「単に、伯爵を罠にはめることだけが目的ってことか」
「ま、単なる勘だがな」
「そのチンケな陰謀のために、俺はくたくたになるまで移動し続けてんだぜ」
「嫌なら抜けりゃいいじゃないか。だが……姫さんに何かあるんだろ?」
「ねえよ」
ポルメは横目でピーデを睨んだ。
「詐欺師さんをごまかせると思うなよ、傭兵。姫さんのこと、目で追ってるだろ。俺は人の視線をたどるのが習い性になってる。最初は色ボケ野郎かと思ったが、欲情はしてないようだ」
「嫌な野郎だ」
「あれは……父親の目だな」
「それ以上戯言吐くなら、短剣でその口縫い付けるぞ」
「傭兵は野蛮だねえ」
ピーデは、殺意を込めた目でポルメを見ていた。
――今まで、この剣呑な目であの子供たちを守ってきたってわけか。
傭兵は不器用だねえ……。




