呪術院
「呪いとは、マジナイではなく技術だ。『呪ったという事実』を相手に信じさせることによって発動する、実在するものだ。言い換えると、呪われたことを相手に知らせないと発動しない」
「まあ、そうなるか」
「さっきのやり方は下策中の下策よ。相手の目の前で『呪った!』と宣言する。解かなければ嬢ちゃんは死ぬわけだが、俺もその騎士様に手討ちにされてたかもしれねえ。呪うと嬢ちゃんと俺の墓、二つ必要になるんだよ」
「それで?」
「だから、呪ったという事実だけを相手に伝え、信じさせる必要がある。その方法の一つが呪符だ」
「呪符……」
「呪符を埋めたんだろ? だが、それだけじゃ効かねえんだよ」
「そうか。『呪符が埋まっているぞ』と相手に教える必要がある」
「そう。まずそこが危うい。伝えようとして足が付いたら墓二つだ」
「それで、本物とは? 呪符に本物とか偽物があるのか」
「あるんだよ。本物ってのは、呪術院の宮内伯が作ったものだ」
「呪術院?」
「皇帝宮殿には紋章院とか司法院とか典礼院とかがある。こりゃ誰でも知ってる」
リリーメルもアディもフェーンも知らなかったが、黙っていた。
「俺は知らねえ」
ピーデだけが正直に白状した。
「知らねえのか。まあいい。で、呪術院は一般に秘匿されてる。ここは、呪術を専門とする宮内伯が皇帝と皇帝宮殿を呪術的に守護している」
「そんな……」
「極秘なんだから知らなくて当たり前なんだよ。とにかく、そういうとこがあるんだ。で、そこが作った門外不出の呪符が出てきた。それを埋めろってんだからヤベえよ」
「……」
「んで? 俺はその呪符がどうなったのか知らねえ。帝都で何があった?」
「私が説明しよう」
そう言って、フェーンが情報屋で得た事件のあらましを伝えた。
◆
「なるほどな。その何とか伯爵とベーベンははめられたってわけだ。厄介なことになったな」
「でも、本物の呪符が使われたのなら、父上は無実なのでは?」
「父上? 嬢ちゃん伯爵の娘か? そうなのか!? おいおい。残念だが、皇帝宮殿では多分話がこじれてるぜ。呪術院は呪符の流出を認めない。一体この呪符はどこで手に入れたって話になる。呪符はな、皇帝家が独占して管理下に置いてることが前提なんだ。管理下にない『本物』の呪符があるってことになったら、許されねえよ。伯爵の首は明日にでもポトリと落ちるかもな」
「ち、父上が!?」
「姫様を怯えさせるな!」
激高するアディ。だが、ポルメターベは顔をしかめて彼女を睨んだ。
「冗談じゃねえんだよ。帝国の暗部に手突っ込んでんだよ。それを自覚しろよ」
睨み合うアディとポルメターベの間にピーデが割って入って、話を進める。
「で、ポルメターベに元々話を持ち込んだ者とは?」
「確証はねえが、ありゃ宮内伯の被官だ」
「では、伯爵の無実を証明するには……」
「宮内伯の被官、そして宮内伯本人を締め上げるしかないだろうぜ」
「宮内伯か……」
蒼白になってうつむいていたリリーメルは、ゆっくりと顔を上げるとポルメターベに人さし指を突き付けた。
「ポルメ、あなたを雇います。あなたの知識が必要です。私たちと一緒に帝都に来てください」
「ポ、ポルメ!?」
「ポルメターベだからポルメ。とても愛らしいでしょう?」




