呪い
ピーデは、話を仕切り直した。
「アンタ、イモ引くって言ったな。呪符埋めるのがそんなにヤバいのか」
「ヤバいね。呪符ってのは埋めただけじゃ発動しねえ。しかもありゃ多分本物だ。関わったらろくなことにならねえ」
「本物って何だ。発動!? あんなもの、『痛いの飛んでけ』みたいなオマジナイじゃねえのか」
「オマジナイと一緒にすんな。呪いはあるぜ。舐めない方がいい」
ポルメターベは、突然真面目な顔になった。
「舐めるなって言われてもな。今どき呪いがどうのとか……」
ピーデの冷笑がポルメターベの癇に障ったらしい。つるつるの頭を赤くして、リリーメルを指差した。
「いいだろう。この嬢ちゃんに呪いをかけてやる。いいか嬢ちゃん。これから一年以内に、アンタの親族が死ぬ。アンタには、悪いことが立て続けに起こる。転ぶ。怪我をする。家畜が死ぬ。身の回りに居る人間が死ぬ。体調も徐々に悪くなる。頭が痛い。気分が悪い。食欲もなくなっていく。悪い夢を見るようになる。周りの人間がアンタを中傷し、嘲笑うようになる。何もかもがアンタの敵になる。それが三年続いて、アンタは死ぬ。間違いなく死ぬ」
ポルメターベは一気にまくし立てた。
フェーンが、長剣に手を掛けてポルメターベににじり寄った。無表情だが、目が充血している。
「貴様、姫様に何ということを。そこにひざまずくがいい。手討ちにしてやる」
「俺を殺すか? いいぜ殺せよ。その代わり嬢ちゃんは助からねえ。三年間苦しみ抜いて死ぬことになる。呪いを解かない限りはな!」
「まだ呪いなどと世迷い言を……」
「信じないなら好きにしろ。だが、三年後にどうなっているかな?」
「三年後……」
「そうだ、三年後だ。呪いを解かなければ三年後に死ぬ。三年後になれば分かる」
「……」
「いいのか? 呪いを解かなくても。だが、解くには条件がある。嬢ちゃんには、一晩俺の自由になってもらう」
これにアディが逆上した。
「この下郎! 姫様に何ということを。そんなことはさせません。死にたくなければ今すぐ呪いを解きなさい!」
「命だけは助けてやる。だから今すぐ呪いを解け!」
フェーンが長剣を抜いてポルメターベの首に突き付けた。
リリーメルは、蒼白になって床にしゃがみ込んだ。
「分かった! 呪いを解くから! とにかく剣をしまえ!」
「やはり呪いなんてインチキか」
ピーデが、「このクソが」と言いながら頭を振った。フェーンの激怒は収まらず、まだ剣を突き付けている。
ポルメターベは、剣から逃げようと身をよじりながら叫んだ。
「とにかくお前ら落ち着け! 既に呪いは効いてるんだ。ちゃんと解かないと嬢ちゃん本当に死んじまうぞ。とりあえず、呪いを解かせろ!」
「……」
「見ろ。この嬢ちゃん、顔が真っ青じゃねえか。まさに呪いにかかってる状態だ。このままじゃ、三年も持たないかもしれん」
「呪いは……解けるのか?」
「解けるよ。嬢ちゃん、俺の話をちゃんと聞けば呪いは解ける。だから、まずは落ち着いて俺の話を聞け。いいな? 他の連中もだ!」
「……はい」「分かった」「分かりました……」
ポルメターベは椅子に座り直すと、リリーメルにも椅子に座れと促した。顔をしかめて、「お前らも座れって」と言ってフェーンたちも座らせた。
「呪いとは、『呪われた』と信じさせることだ」
「どういうことですか?」
「呪われたという恐怖こそが呪いの源泉よ。そして、俺がまくし立てたことは、呪いとは関係なく起こり得ることだ。毎年、冬のはやり病で親族の一人や二人は死ぬだろ? 転んだり体調を崩すことだってあるだろ? 生きてりゃそんなこともある。だが、『呪いのせいだ』と思ったらどうなる。呪いがどんどん実現しているんだ。怖ぇだろ。そうなりゃ食欲もなくなるし、悪夢だって見るかもしれねえ。そんな状態が一年二年と続けば頭もおかしくならあな。みんなに悪口言われてるような気分にもなる。そんな状態が続いたら、生きてられねえよ」
「一晩自由になれというのは……」
「そりゃ呪いを信じさせるための演出ってやつだ。感情を逆撫でして論理的な思考を妨げる。感情で判断させる。要は、相手を馬鹿にさせちまうのさ。『今から呪います。はい呪った』って言って信じるか? これじゃ呪いは発動しねえ。だが、一晩云々って言ったら、そこのガキと姉ちゃんが『呪いを解け』とわめいたろ。すっかり信じた証拠だ」
「……」
「あそこまで信じるとはな。普通は、うっすらでいいんだ。『信じられない。だけどもしかしたら』でいいんだ。だが、誰か死ぬ。頭が痛いってことがあると信じちまう」
「それで、呪符が本物というのは?」
ポルメターベは、怖い顔になった。
「それだ。それこそが皇帝宮殿の闇ってやつだ」




