失言の価値
一度に多くの情報を得ることができた。
父上が捕らえられた原因も分かった。
これで、父上は――
「全然助からないじゃない!」
分かったようで、何も分からない。「キルエルト伯の使い」が原因だとして、だから何なのだ。この広い帝都で、何万人も居る帝都で、この情報だけでは誰なのかを特定することは不可能だ。
大きく前進したような気がするが、結局手詰まりではないか。
「そう悲観することもねえさ。ベーベンってヤツから何か分かるかもしれねえ」
ピーデが顎をさすりながら、私を見つめていた。目付きが悪いなりに、何だか優しい目のような気がするような、しないような。
「といっても、ベーベンってのもどこのどいつなのやら……」
ピーデは、フェーンに向き直って顎をしきりに左右に振った。フェーンはその意味が分からず、ぼんやりしている。私も、彼が何をしたいのかさっぱり分からない。彼のクセだろうか。
いや、そんなことはどうでもいい。とにかく、ピーデは苛立っていた。
「ったく、貴族様は面倒くせえな」
ピーデは、フェーンに銭袋を出せと言う。フェーンが袋を取り出すと、中から小銀貨を取り出して店主に「手出せよ、コラ!」と怒鳴った。彼は一体何を怒っているのだろう。
後で聞いたら、あれは「顎をしゃくる」といって、何かを促すという動作だそうだ。知らなかった。
顎を動かすだけで命令できるなんて、便利そうだ。後でやってみよう。
店主は苦笑した。
「色が違うぜ」
「何だと? ボリ過ぎだろうがコラ」
「情報の価値は、需要と重要性だ。欲しいんだろ? なら安くは売れねえな」
「このクソ野郎が!」
ピーデは苛つきながら、金貨を店主に握らせて睨んだ。普段から目付きが悪いから、単に見ただけなのかも知れないけど。
「ベーベンは、ガレーナの酒場に出入りしてた。あそこなら、ベーベンを知っているヤツも居るだろうよ」
「それだけか?」
「それだけだ」
「金貨だったんだぞ?」
「でも、手詰まりだったんだろう? その嬢ちゃん――ホントに伯爵の娘か?が『手詰まり』って言ったじゃねえか。だから、ベーベンの出入り先は金貨一枚分だ。情報屋を前にしたときの駆け引きも教えとくんだな」
店主はげらげらと笑った。
どうやら、私の余計な一言で情報の価値がつり上がってしまったらしい。
私が知っている世界とは全く異なる法則がここにはあるのだ。帝都に来てから、いやピーデと会ってから、多くのことを学んだ。
ガンデも、もしかしたらあのとき平民の世界の法則を使っていたのかもしれない。だが、私は気付かなかった。私が見ていなかったからなのか、ガンデが見せないようにしていたのか、今となっては知る由もない。
とにかく、新しい世界の法則を学ぶ必要がある。知らなかったでは済まない。今回は金貨一枚だったが、命が懸かることもあるだろう。
第三者の前で余計なことを口走ることが、致命傷になるかもしれないのだ。
フェーンとアディも、多分同じことを考えている。
私たちは、世間知らずだった。




