キルエルト伯の使い
ある日、皇帝と大公を呪い殺す呪符を皇帝宮殿に埋めたという男が捕らえられた。確か、ベーベンっていったな。
ベーベンは、キルエルト伯に命じられたと証言した。
え? キルエルト伯はそんなことしない?
知らねえよ。
話混ぜっ返すな。
で、ベーベンが「ここに埋めた」ってところで確かに呪符が発見された。
ベーベンは命じられただけだと抗議したが、処刑された。
そんで、ベーベンの証言に基づいてキルエルト伯も捕らえられた。
ああ? キルエルト伯は無実だ?
だから、知らねえって。俺に言うなよ。
キルエルト伯はいまだに無罪を主張してる。
んで、キルエルト伯と呪符の関係は断定できない。
キルエルト伯とベーベンの関係も確定できない。
そりゃそうだろ。
平民の証言だけで諸侯様を処罰できねえだろ。
だが名前が出た以上、放置はできねえ。
何か理由があるはずだってことになった。
まあそんなわけで、呪符に関係してんなら反逆罪ってか大逆罪なわけだが、証拠はねえ。
捕まえた手前、ほいと釈放するわけにもいかねえ。
帝国にもメンツがあらあな。
◆
「くそ、うっかり無料分以上喋っちまったぞ。その貴族の嬢ちゃんが混ぜっ返すから混乱しちまった」
店主は、不機嫌そうにリリーメルを睨んだ。
「父上が皇帝陛下を呪うはずがない!」
「父上だあ? 嬢ちゃん、キルエルト伯の娘か」
ギーレンがリリーメルの顔をのぞき込んだ。フェーンが、リリーメルとギーレンの間に割って入って質問した。
「店主、つまりキルエルト伯が捕縛された後、釈放もされず処罰もされないのは、有罪の証拠も無罪の証拠もないから、ということだろうか」
店主は、手のひらを上に向けて中指をクイクイと動かした。
「ん?」
店主は、手のひらを上に向けて中指をクイクイと動かした。
「ちっ」とギーレンが舌打ちして、フェーンに耳打ちした。
「ここから先は有料ってことだ。小銀貨を握らせてみろ」
フェーンは「ああ、そういう……」とつぶやきながら、小銀貨を店主の手のひらに乗せた。
「宮廷内の内情としてはそんなところだ。宮内伯から聞いた話だから、信憑性はあるだろう」
「宮内伯から聞いた!?」
「だから、そういう情報は無料ってわけにはいかねえんだ。こっちもカネかかってんだよ」
リリーメルは顎を指で挟んで考え込んだ。
――父上の無罪を証明するにはどうしたらいいのか。
「まず、父上――キルエルト伯とベーベンという男のつながりね。二人が関係ないことを証明できれば、父は無実ということになる」
「簡単に言うがな、『関係がなかった』ことを証明するのは不可能に近い。しかもベーベンは既に刑死している」
ピーデはあっさり否定したが、不自然なことも理解している。伯爵様がどうして家臣でもない平民に依頼するのか。
「家臣じゃないなんてどうして分かる?」
ギーレンがピーデを睨んだ。
「家臣なら、伯爵様はもうお終いだろ。証拠不十分なのはつながりがねえからだ」
「ああ……」
店主が、手のひらを上に向けて中指をクイクイと動かした。
ピーデがフェーンに目で合図する。フェーンはうなずいて小銀貨を乗せた。
店主は、手のひらを上に向けて中指を再びクイクイと動かす。
「足りねえってよ」
「そういうことか……」
フェーンは小銀貨を一枚追加した。
店主は、手のひらを上に向けて中指を再びクイクイと動かす。
「おい店主、ちっとがめついんじゃねえか?」
「あんたらが欲しいとっておきの情報だぜ?」
フェーンは小銀貨を二枚追加した。
「まあいいだろう。実は、ある男がキルエルト伯の使いと名乗ってベーベンに依頼したらしい。しかも、しかもだ。呪符の存在がなぜ発覚したと思う? おかしいだろ? 密告だよ。何者かが宮殿に、呪符が埋められてると密告したんだ。犯人はベーベンだ、と」
「どういうこと? それって罠じゃない。犯人がベーベンだと知っているのは……」
「そう『キルエルト伯の使い』ってヤツだろうな」
「父は……誰かにはめられた、ということ?」
リリーメルは、事件のおぞましさに寒けを覚えた。
「おい店主、てめえ何者なんだ?」
ピーデが店主に詰め寄る。この異常な情報力は何だ?
「俺か? 俺は情報屋さ。片っ端から情報を買い取って、それを売りさばく。ま、結局売れなかった情報がほとんどだからいつも大赤字だがな」




