奇跡の合流
大都市の喧騒の中で、同郷の知人に偶然出会うこともある。
プルティスラは時に残酷であり、時に出会いをもたらす。秋の空のように気紛れだ。ゆえに、大昔の人々は運命の神は女神であると考えた。
血で汚れた体を清めて着替え、意気揚々と進むリリーメルと既にゲンナリしているピーデは、帝都を目指して北上を開始した。
一刻も早くリリーメルと合流しようと焦るフェーンとアディは南下した。
二つの動きが、ストルン街道でついに相まみえたのである。
「あらフェーンとアディ、こんなところで何してるの?」
「姫様!」「姫様!」
リリーメルは、大きな目をぱちくりさせて二人を眺めた。眺めていたら、驚きに続いて形容し難い感情が沸き起こってきた。
「何? なぜ二人? 何してるの? 何で? どうして? 遠乗り? 私を除け者にして? 仲がよろしそうで何よりね? 楽しい? お邪魔だったかしら? そうね私は邪魔ね。そうよね! ええ邪魔ですとも! じゃあ、さ よ う な ら!」
「姫様!?」
「さあ行きましょうピーデ。邪魔をすると馬に蹴られますよ」
「姫様!?」
「私は忙しいのです。おっと、お二人も忙しいのでしょう?」
「姫様!?」
「何ですかしつこい! お二人はその辺りの茂みにでも入り込むがよいでしょう。さあ行ってらっしゃい! ヤッてらっしゃい!」
「姫様、何を怒っているのですか?」
「怒ってなどい ま せ ん!!!!」
首まで真っ赤にしているリリーメルに、フェーンとアディは狼狽した。何を言っているのかさっぱり理解できない。新雪のような肌は熟したリンゴのようになり、目の周りがひどく充血している。
脳天から湯気でも出しそうな勢いだ。
追ってきたことが、そんなに気に入らなかったのだろうか。
フェーンは、いつもとはまた異なる異常行動をするリリーメルはともかく、その後ろに居る男が気になった。
ひどく目付きが悪い。人相が悪い。血色も悪い。身なりも悪い。
平民……しかも傭兵か。
腰には長剣を下げている。
男の油断ならない気配を感じて、街の市民や農夫でないことを察した。フェーンの動き次第では、リリーメルの首に剣を突き付けて人質に取るだろう。一瞬でリリーメルを確保できる距離を保っている。
フェーンたちの距離では、男がリリーメルに取り付くのを阻止できない。刺激したら危険だ。
「姫様。それより、そちらにいらっしゃる御仁は?」
「それより? それよりとは何ですか! そもそも……」
「嬢ちゃん、少し黙りな。騎士さんが緊張しまくってるぜ」
「緊張?」
「俺が敵じゃねって説明してやれよ。あの騎士さん、さっきから間合いを計り続けてやがる」
フェーンは心の中で舌打ちした。全て見抜かれている。姫様が弱みであることも相手は分かっている。相手は圧倒的に有利な状況にいる。それを知って、余裕を保っている。
姫様を介していると話が進まない。
「申し遅れた。私はソド・デルバーエル・フェーンエルと申す。そこな姫様の護衛である。よければ貴殿の名をお聞かせいただきたい」
――敵か味方かも分からん相手に情報を与え過ぎだ。
かつてそう教えてくれた男がいた。
男は、ふっと笑って答えた。
「俺はピーディント・エゲイン。傭兵だ。この嬢ちゃんに雇われた。この嬢ちゃんを『犯さずに帝都まで送り届ける』ってな」
「犯さっ……何だって?」
「だから、手出ししねえって言ってんだよ。ヤラねえって」
「ヤラ……」
フェーンの顔が赤くなる。アディはそれを見てため息をついた。
「だからよ、どいつもこいつもソコにこだわるなって。とにかく、敵じゃねし、敵になるつもりもねえ。いいから、剣を抜く間合いを計るのはやめてくれ。疲れるぜ」
「そうよ。ピーデは私が雇ったの。彼に手出しをすることは許しません!」
「ピーデ!?」「ピーデ!?」
フェーンとアディが目を丸くしてピーディントを見た。ピーディントは嫌そうに、とても嫌そうに顔をしかめた。
「もう何でもいいからよ。好きにしてくれ」




