奇行の行方
デルベーレンは、最初の宿場町に到着した。
ここまで、リリーメルには遭遇しなかった。ということは、さらに先に進んでいるということだ。
論理的に考えればそうなる。
であればこの宿場町を通ったはずであり、彼女の奇行の痕跡が残っているに違いない。
これで論理的な仮説の裏付けが得られる。
だが、リリーメルが通過したと思われる奇行談は得られなかった。
「なぜだ。なぜ姫様の奇行の痕跡がないのだ」
「実に不審ですな。姫様の行状からは考えられぬ」
「まさか目立たずに通過したのであろうか」
「そんなことが姫様に可能なのか?」
「我らに感づいて、辺りに潜んでいるのでは」
「そんな知恵が姫様にあるだろうか?」
「天に昇ったか地に潜ったか、さてもさても面妖な」
一行は、リリーメルがおかしな事態を巻き起こしていないことをしきりに不思議がった。果ては、「悪鬼羅刹に攫われた」「天変地異の前触れか」などと口走る者も出てくる始末。
主君の姫をかなり悪し様に中傷していることに気付いていない。あの主君にしてこの家臣ありである。
フェーンとアディも、ここでようやくデルベーレン隊に追い付いた。
「帝都に向かうなら、この宿場町を必ず通るはず」
「デルベーレン卿たちは、姫様を発見できなかったようですね」
「ルルーは良い馬ではあるが、ここまで引き離されるとも思えない。この宿場町よりも先に進んでいるとは思えないのだが」
「ではこの宿場町のどこかに?」
「デルベーレン卿たちは困惑しているように見える。探したが見付からなかった、ということではないだろうか」
フェーンは、馬の脚力などを改めて検討した。想定よりも早く行動しているとしたら、どういうことか。
この宿場町で替え馬を使った?
だが、あの姫様がルルーを置いていくだろうか。
ルルーのまま突き進んでいる?
だが、あの姫様がルルーを酷使するだろうか。
……。
「アディ。戻ろう」
「戻る?」
「姫様はまだここまで来ていない。途中で追い抜いてしまったんだ」
「まさか、一本道ですよ?」
「姫様なら、かわいいウサギを見付けて脇道に逸れるくらいのことはするだろう。我々が追っているのは姫様なんだ」
「ああ、私はいつの間にか、普通の人を想定していました。そう、相手は姫様でした」
「とにかく、姫様お一人では危うい。合流することが最優先だ」
フェーンとアディが街道を南に走り去った頃、デルベーレンたちはさらに北を目指すことにした。
「我々が追っているのは姫様だ。我々の常識では考えも及ばぬ奇行で北に突き進んでいらっしゃるのであろう。皆、急ぐぞ」
◆
一方、リリーメルはナルファスト公国方面の宿場町で入浴していた。
「ああ、やはりお風呂はいい。アディに香油をすり込んでもらえないのが残念だけれども」
ピーデは、風呂付きの宿を探すために宿場町を右往左往させられて疲れ果てていた。
「誰か、あの馬鹿女引き取ってくれねえかな」
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