目付きの悪い男
ガサッ。
茂みが揺れる音に、男たちが注目した。
目の前に、目付きの悪い男が立っていた。
「何だてめえ」
「知らねえよ。人がクソしようとしたらテメエらが女転がしてきたんだろうが」
「さっさと消えろ」
「邪魔する気はねえ。勝手にしろ」
目付きの悪い男は、そのまま立ち去ろうとした。が、リリーメルを一瞥すると目を見開いて止まった。
「行けよ。それともてめえもヤルか? 俺たちの後なら好きにしな」
「……その女を離せ」
「ああ?」
「その女を離せと言ったんだ」
「何だてめ……」
叫び掛けた男の声がやんだ。
代わりに、ドサリと音を立てて、その男の首が茂みに落ちた。
続けてリリーメルの足を押さえていた男が脳天をかち割られ、右腕を押さえていた男の首に剣が突き刺さった。
ほぼ一瞬で三人の男が殺され、吹き出した血がリリーメルに降り注ぐ。男たちの血で、リリーメルは全身血まみれになっていた。
「きききき……きゃあああああああ」
喉を締め付けていた何かから、やっと解放された。
リリーメルは、絶叫した。
状況を理解したとは言い難いが、とにかく絶望的な状況を脱したと本能が告げている。その本能が、全身の硬直を解除したのだ。
そしてようやく、汚い、気持ち悪いという感情が湧き起こった。
目付きの悪い男は、リリーメルを無視して、男たちの馬を品定めしている。
「ふん」と言うと、一頭に跨がってそのまま立ち去ろうとした。
「待って! お待ちください! 礼を、礼をさせてください」
「礼? 要らねえな」
男は振り向きもしない。
「お願いです。少し、お話を!」
「ちっ」
男は舌打ちしつつ振り向いた。
目の前に、全身血まみれ血だらけの、大層気色悪い女がいた。
まるで、モドウデイン(罪人の死者の国を司る神)の国から来た亡者だ。
事情を知らない人間が見たら、絶叫して逃げ出すだろう。
本当に気持ちが悪い。
男は迷惑そうな顔をした。
実際心底迷惑だった。
それなのに、無気味な血だらけ女が妙な笑顔で迫ってくる。
グイグイ近づいてくる。
本当に気持ちが悪い。
「何か用か」
「あなた、お強いのですね」
「強い!?」
男は困惑した。
「あの三人はしゃがんで、自分のイチモツを出そうとしていた。俺は立ち上がっていて剣に手を掛けていた。三対一なら確実に殺られていたが、あの態勢なら相手が立ち上がる前にカタが付く。強い弱いの問題じゃねえよ」
――それより、本当に気持ちが悪い。
「あなたを護衛として雇いたいのです。ダメでしょうか?」
「あんた、馬鹿か? 俺が護衛? 笑わせるな。俺もその三人と大差のねえクズだぜ。俺がその三人みてえなことをする気になる前に、さっさと消えな」
「でも今はする気がないのですよね? 今後も『それはナシ』という契約で何とか」
「ああ!?」
契約に何の価値があるのか。
力が全てだ。
だが、目の前の女は可能だと思っているらしい。
この馬鹿女……明日の朝を迎える前に男たちにボロくずにされていることだろう。
俺の知ったことじゃねえ……。
じゃねえ、が……。
「あんた、どこに行くんだ?」
「帝都です」
「帝都だぁ!?」
「ええ。この街道でいいのですよね?」
「それはそうだが……そっちはナルファスト公国だ。帝都は正反対だ」
「ええっ!?」




