追討開始
姫様は戻ってこなかった。
ようやく、姫様に騙されたことに気付いた。
まさか、姫様に私を欺くような知……いや、家臣が口にすべきことではない。とにかく、ラーエメルデ様にお知らせせねば。
城館は騒然となった。
捜索の結果、姫様の愛馬ルルーが居なくなっていることが分かった。厩舎番のベンベによると、得意げな顔で歩き去ったという。
「得意げな顔」という報告を聞いたラーエメルデ様のこめかみに青筋が浮かんだ。
「デルベーレン卿! すぐにリリーメルを追いなさい。あの娘は帝都に向かっています」
こうして、気苦労が絶えないデルベーレン卿はまたしても姫様を追うことになった。
こうしてはいられない。
フェーンを探していると、彼も私を探していた。
「姫様が逃亡したというのは?」
「先ほど、デルベーレン卿が追討を命じられました」
「いや、追討じゃなくて追跡だろう」
しまった。少し単語を間違えた。
もう、追討でもいいのではないかと思うが。
「我々も行こう。こうなったら死なば諸共だ」
「本当に、困った人を主にしてしまいました」
無駄に行動力がある姫なのである。
◆
デルベーレンと麾下の十騎は、ストルン街道をひたすら北上した。
帝都までは一本道。この街道を北上しながら宿場町をしらみつぶしに捜索すれば必ず姫様に追い付く。旅慣れない小娘一人、そう遠くまでは行けないはずだ。
デルベーレンは堅実な男であり、その思考も論理的かつ明晰だ。そして、彼には経験に基づく勝算もあった。
「姫様は行く先々で奇行を示されるであろう。必ず手掛かりが残っている」
彼は、リリーメルを単なる小娘と断じているわけではない。リリーメルの個性も加味して追跡している。ラーエメルデの人選は、彼の経験も考慮したものだった。
アディとフェーンは、そのデルベーレン隊の後を追っていた。まだデルベーレン隊は見えないが、ストルン街道を北に向かっているのは間違いない。
「フェーン、これからどうするのです? いずれ姫様はデルベーレン卿に捕捉されるでしょう」
「デルベーレン卿をどうにか出し抜いて帝都に向かうしかないだろう。私たちもラーエメルデ様に処罰されるな」
「本当に、困った人を主にしてしまいました」
だが、デルベーレンもフェーンとアディも、リリーメルをなかなか発見できなかった……。
◆
ラーエメルデは、私室の椅子にふらりと座り込むと眉間を押さえた。
家長たる伯爵の奇禍に際し、家中の動揺を抑えてまとめねばならない大事なときに騒ぎを起こすとは。貴族の娘としての自覚がなさ過ぎる。
あのバカ娘には、キツい、キツい、キツい罰を与えねばならない。絶対に許さない。徹底的にその性根をたたき直さねば。
「そのためにも、無事に戻るのですよリリー」
次回から新章「帝都に向かって」が始まります。
帝都への道中で、リリーは己の愚かさと無力さを思い知ることに……。




