城館からの脱出
母上がこれほどの知将だったとは知らなかった。
厄介なことに、敵は城館の人員の支配権まで握っている。
まあいい。敵が強大であれば強大であるほど燃えるというものだ。
「姫様、こ、こちらにいらしたのですか」
アディが駆け込んできた。ひどく疲れている。何があったのだろう。
「アディ、そんなに息を切らしてどうしたのです?」
「い、いえ……。ちょっとお着替えをしておりまして、遅くなりました。朝食のお時間です」
「アディにしては珍しい。気にすることはありませんよ」
怪訝な顔をしているアディに鷹揚に答えると、食堂に向かった。アディの疲労も気になるが、まずは知将ラーエメルデを何としても出し抜かなければならない。
食堂には、既に母上と姉上がいた。母上は、私を一瞥すると何ごともなかったかのように食事を続ける。
私も何ごともなかったかのように食卓につくと、食事を始めた。
翌朝。
アディに促されて、食堂に向かう。何ごともなかったかのように、食事をした。
「アディ。私はお庭の花を少し眺めてから戻ります。その後お茶を飲みたいので、用意しておいてください」
アディが私に一礼して私の部屋に向かった。
ふふふふふふふふふふっ。
「まんまと引っ掛かったわね、アディ! こうもあっさりと私を一人にするなんて! 胸の成長に頭の栄養を奪われたのね!」
いや、体形のことなど気にしていない。
全然気にしていない。
本当だ。
外に出ると、自室の真下に向かった。そこには、昨夜のうちに投げ落としておいた荷物があった。夜露でちょっとしけっていて、ちょっと萎えた。
思っていたのと少し違う……。
気を取り直して、厩舎に向かう。
厩舎番のベンベが私を眺めている。まだ不審に思われてはならない。
「ルルーに人参を持ってきたの。食べさせてもよい?」
「ええ、ルルー様も喜ぶでしょう」
ふっ。チョロい。
私は愛馬ルルーに荷物をくくりつけると、手綱を柱から外してルルーに飛び乗った。
「さあルルー、帝都に参りましょう。あなただけが頼りですよ」
私はルルーを前進させ、そのまま厩舎を後にした。ベンベは不思議そうな顔で私を見送っている。「遠乗りに行く」という通告があっただろうかと考えているのだろう。
そのまま「ごく当たり前の日常」を演出しつつ、城館の敷地から抜け出すことに成功した。ここまで来れば周りをたばかる必要もない。
「ルルー! 行きますよ!」
私はルルーを走らせた。
母上、私は頭ぐりぐりくらいで諦めるような娘ではないのです。
勝った、と思った。
まだ、この後で大失敗することなど、私は知らなかった。




