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一目惚れ伯爵令嬢と下僕たち ~イケメンを探していたら陰謀を暴いてしまいました~  作者: 中里勇史
キルエルト伯領

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部屋からの脱出

 母上から話を聞いた三日後の夜明け前。私は寝台からそっと抜け出した。

 以前の私なら、あのような話を聞いたらすぐにでも飛び出しただろう。

 母上は何か感づいている。私の行動を当然予測するはずだ。


 ふふっ、だが私は以前の私ではないのだ。〇・五セル成長したのだ。

 ひと味違うのだ。いやふた味くらい違うのだ。

 もしかしたら、さん味くらい……何の話だっけ。

 とにかく、動きのない私を見て、「リリーは成長したのね」などと思っていることだろう。

 すっかり油断しているはずだ。


 このときを待っていた。母上が気を許すのを待っていた。

 毎晩、私室の扉の外に監視役を配置していたことは分かっている。彼らが発するわずかな息遣いや咳払いに、私は気付いていた。

 予想通りだ。

 そして予想通り、監視は解除された。

 いよいよ計画を実行するときだ。

 この日のために準備しておいた荷物を持っ……持って……。


 重っ!!

 持ち上がらない。

 誤算だった。私には力がないことを忘れていた。

 残念だが、持ち物を再考するしかない。


 日持ちする焼き菓子は……やはり必要だろう。

 お気に入りのお茶碗……これも捨てがたい。保留。

 かなづち……何でこんなの入れたんだろ。

 小さめの短剣。これも要らないかな。

 刺繍道具。旅には時間つぶしも必要でしょ。

 それから……。



 伯爵家所有の厩舎付近に、二つの人影がたたずんでいる。

 フェーンとアディである。


「来ませんね」

「動くとすれば今日だと思ったのだが……」

「まさか姫様、城館を抜け出すおつもりはないのでしょうか」

「我々はまだ姫様を十分に理解していなかったのかもしれない」



 その翌朝。

 まだかなり重いが、持ち上がるようになった。

 準備は万全だ。

 よし、今日こそ出発するのだ。

 廊下に通じる扉に耳を押し当てて、廊下の様子を窺う。

 人の気配は感じない。

 よし、行くぞ!


 扉をそっと開ける。

 さらに、そ~っと開く。

 誰も居ない。

 廊下に出て、玄関に向かおうとしたら……。


「何をしているの、リリー」

「母上!」


 こめかみに青筋を浮かべた母上が背後に立っていた。


「こんなことだろうと思っていました」


 母上は、両手の拳で私の頭を挟むとぐりぐりと締め上げた。


「ぎゃあああああ。母上、痛い痛い痛い! エーメ姉様より痛い!」

「当たり前です。これをエーメに教えたのは私なのですから。年季が違うのですよ」

「ぎゃあああ」


 隣の部屋の扉が開いて、シーラ姉様が顔を出した。


「リリー、うるさい!」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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