帝都からの知らせ
朝、シーラ姉様と共に食堂に集められた私は、母上のお顔がいつになく険しいことに驚かされた。
殿方を追い掛けて廊下を走っているのを見とがめられたときの三・七倍くらい険しい。母上が大切にしていた紅を猟犬のヴェンテに塗ったときの……。
「伯爵が――あなたたちの父上が、帝都で捕縛されました」
「えっ?」「えっ?」
私と姉様は、驚くというよりも母上の言葉の意味が分からなくて声を上げた。
母上は、しばらく黙って私たちを見つめていた。私たちが自分で言葉の意味を理解するまで待つかのように。
「捕縛……そんな。父上がなぜ? 帝国諸侯が捕縛!?」
事実は理解したけれど、理由が全く分からない。帝国諸侯が罪人のように捕縛されるなど、聞いたことがない。
そして、あの善良と温厚をこねて固めて人の形にしたような父上が、どうして捕縛されるのか。
母上が、私たちを騙そうとしているのか。娘たちにこんな嘘をつくなんて、何て趣味の悪い――。
違う。
逃げるな。目を背けるな、リリー。
私は、覚悟を決めて母上の目を見つめた。
私の準備はできている、と。
姉様も顎を上げて、背筋を伸ばして母上を見つめていた。
私たちは準備ができている。
母上は、優しくほほ笑むと小さく頷いた。
「まだ詳しいことは何も分かりません。とにかく、伯爵は反逆罪の嫌疑を掛けられているとのことです」
「は、反逆……罪」
よりによって、反逆罪。
両手で口を押さえた。
顔が震えているのが自分でも分かる。
「皇帝宮殿に、皇帝陛下と大公殿下の死をモドウデイン(罪人の死者の国を司る神)に願う呪符が埋められていた。それを指示したのは伯爵である。そういうことのようです。今はそれ以上のことは分かりません。伯爵の生死すらも……」
「そんな……父上がそのようなことをするはずが……」
「私も同意見です。リリー」
母上は、毅然とした態度で私に頷いた。だが焦燥の色は隠せない。もしかしたら、この知らせはもっと早く届いていたのではないだろうか。母上は昨夜、眠れなかったのではないか。
私たちが眠れるように、朝になってから伝えてくれたのか。
シーラ姉様が、わっと泣き出した。「父上はもうお終いよ! 今頃斬首されて犬の餌にでもされてしまったんだわ!」と叫んで、食卓につっぷしてしまった。
「姉様、まだそうと決まったわけでは……」
いくら何でも帝国諸侯の死体を犬の餌にはしないだろう。一体、どこからそのような発想が生まれたのか。
妹の私が言うのも心苦しいが、シーラ姉様はうっすら変なのだ。いや、結構変なのだ。
困った姉なのだ。
ふうとため息をついて母上を見た。母上も人さし指を眉間に当てて首を左右に振っている。変な姉様に、頭を悩ませているのだろう。少し大人になった私は、母上の心中を察した。
母上は、姉様が少し落ち着くのを待ってから言葉を続けた。
「それから、ガディー伯家との縁談は一時棚上げ――事実上の破談となりました。シーラの嫁ぎ先は、改めて探すとしましょう」
それを聞いたシーラ姉様は、再びわっと泣き出した。
「もうお終いよ! 私は行き遅れてしまう。未婚のままお婆さんになってしまうのよ。赤ちゃんも生めないのよ。もうお終いだわ!」
かわいそうな姉様。こうしてはいられない。何とかしなければならない。父上と姉様を助けなければ!
椅子からおもむろに立ち上がると、母上に宣言した。
「何が何だか分からないけど、父上をお助けしなければ!」
母上は、表情を和らげて私を見つめ、そしてこう言った。
「お座りなさい、リリー。それから、訳の分からないことをして話をややこしくしないように」
叱られてしまった。




