再会と別れ
川に落ちて行方不明になったマヌケ姫の生還によって、キルエルト伯の城館は大騒ぎになった。
父ゲーメルドは、何も言わずリリーメルの頭をぽんぽんぽんと三回たたいた。父は久しぶりに娘に会うと、いつもこうする。
母ラーエメルデは、無言で娘を抱き締めた。彼女のクセは、抱き締めつつ手のひらでぽんぽんぽんぽんと四回たたくことだった。
両親の態度は、いつもと変わらなかった。
ただ、いつもよりもたたく力が心持ち強く、包み込むように感じた。
「ガンデとダガベとやらに褒美を取らすのは無論だが、本当に召し抱えなくてよいのか。お前が望むなら、騎士にしてやってもいいのだが」
ゲーメルドは、ガンデたちを見つめるリリーメルの目に何か思うところがあったらしい。リリーメルと同様、ゲーメルドも人を見る目は確かだった。
リリーメルは、「じゃあな姫さん」と言ってあっさり背を向けたガンデとダガベを見送りながら、首を振った。
「私には、やはり彼らの主たる器量はありません」
「器量、か……」
「いつか、私にそれだけの器量が備わったら……と思ったこともあります。あの高潔な者たちを従えるに足る器量があれば、彼らを身辺に置くことも可能ではないか。そんな思い上がりがありました」
「……」
「でも、彼らはそもそもそんなことは望んでいないのです。彼らは伯爵にも公爵にも、皇帝陛下にすら仕官しないでしょう。彼らは『傭兵ごとき』なのではなく、『傭兵』を選んだ者たちなのです。彼らを手に入れたいなどと、おこがましいことなのです」
ゲーメルドには、リリーメルの言葉の全てを理解することはできなかった。だが、それはリリーメルの奇行ゆえではない。
彼女は、自分が知らない何かをこの旅で学んだのだろう。その学びから、正しい結論を導き出したのだ。
ゲーメルドは、だからリリーメルの言葉を全て受け入れた。
リリーメルとアディとフェーンは、ガンデとダガベが見えなくなるまで、彼らを見送った。
この翌年、ガンデはナルファスト継承戦争に参加する。奇襲を受けて総崩れになりかけた傭兵部隊を叱咤し、態勢を立て直して監察使軍の勝利に貢献したが、このとき重傷を負ってアルティリットの野に眠った。
ダガベはその後も戦乱を生き抜き、この時代を代表する傭兵隊長ベルウェン・ストルム、ラゲルス・ユーストの次の世代の傭兵隊長「隻腕ダガベ」として歴史に名を残すことになる。
だが、それはまた別のお話。
マイツァーデイン公イルセエルはこの事件の数年後、三兄弟と孫たちに囲まれて、砂粒ほどの憂いも残さず静かにこの世を去った。
エレアーデンとカルアーデンは、兄ゾルアーデンをよく支えた。公位を継いだゾルアーデンは弟たちを信頼して、公領は大いに栄えた。人々はこの三人を「兄弟の鑑」と称え、後世「マイツァーデイン中興の三兄弟」と呼ばれることになる。
ガンデたちが参加した戦いについては、
『愚者たちの輪舞 ―ブランタール公の凱旋―』第一章
https://ncode.syosetu.com/n1332ko/
の「アルティリット会戦」をご参照ください。
次回、最終回「私の騎士」、お楽しみください。




