旅立ち
ロルセエルの供述によって、彼の領地にあった赤い媚薬の工房が接収された。製法を知っている者は全て斬首に処され、赤い媚薬の元は絶たれた。これで、アレナエリンを苦しめた忌まわしき薬はいずれ消え去るだろう。
赤い媚薬を巡る物語も、こうして終わった。
ガンデは、副将格の傭兵を呼んで「集合地に先に行ってろ」と命じた。
「俺はいいけどよ、怒るぜラゲルスは。知らねえぞ」
「アイツ、ナリはでけえのにこまけえからなぁ」
「まあうまく言っとくけどよ、殴られるくらいは覚悟しとけよ」
「しょうがねえ。野暮用が残ってんだ」
一〇〇騎の騎兵は、ガンデとダガベを残してモデイレイムを後にした。
エーメレイアは、リリーメルを手招きする。
「最後に、もう一度抱き締めさせて。リリー」
「姉様……」
移動が不自由なこの世界では、輿入れは本来今生の別れとほぼ同義だ。この姉妹のように再会できるのは稀なことであり、二度目は期待できない。遠く離れた外国に嫁ぐことすらあるのだから。
エーメレイアは、これまでで最も強く長くリリーメルを抱き締め、彼女の頭を優しくなでた。
「姉様、大好き」
「私もよ、かわいいかわいいリリー。あなたが生まれたときから、ずっと大好きでした。これからも、ずっと」
もう会うことはないかもしれない。
だが、きっとどこかで幸せに暮らしている――。
二人はそう信じて、そっと離れた。
エーメレイアは、リリーメルを引き戻すと最後にもう一度だけギュッと抱き締めた。
そんな二人を見守っていたアディにイルセエルが近づいてきた。
「これからも、あの姫は余計なことをしでかしてお前や周りの者たちに多大な迷惑をかけることだろう」
「はい……」
「だが、それ以上に多くの者を助け、幸せにするであろう。よい主に恵まれたな」
「はい!」
ゾルアーデンが、頃合いを見計らって進み出た。
「本当に護衛をお付けしなくてよいのか。公爵の名に懸けてキルエルト伯領にお送りしたいのだが」
「ありがたいお申し出ですが、心配はご無用です。私には、とてもとてもとても、とっても!心強い護衛が付いておりますので!」
リリーメルの後ろで、フェーン、アディ、ガンデ、ダガベ、デルベーレンらが整列してイルセエルらに一礼した。
「では、みんな出発です! 目的地はキルエルト伯領!」
こうして、彼女の短い旅の最後の旅程が始まった。
それはそれは楽しいひとときだった。
リリーメルは、美男子を見付けていなくなり、一同を慌てさせた。
フェーンは、休憩の合間にガンデと稽古を続け、傷だらけになった。
アディは、リリーメルの奇行の尻拭いに奔走した。
ダガベは、失敗して皆に蹴られた。
ガンデは、やれやれと言いながら一同を見守った。
デルベーレンらは、そんな一同にいちいち振り回された。
リリーメルは、笑った。
ずっと笑っていた。
楽しくて仕方がなかった。
ずっとずっとこうしていられたら、どんなに楽しいだろうか――。
もうすぐ、旅は終わる。




