友と飲む酒
戦闘は終わった。
安全が確認され、リリーメルたちも宮殿の奥から解放された。
「あら、デルベーレン卿じゃないの。こんなところで何をしているの?」
「姫様ご無事で! 我々は、川に流された姫様を追ってまいりました。ポーディレン卿のお屋敷やペルナーデルを通って……」
「まあ、そうだったの。私を探すのは大変だったでしょう」
「姫様が先々で奇行を繰り返していらっしゃったので、割と容易……」
「えっ?」
「いえ、何でもございませぬ」
残敵を掃討していたフェーン、ガンデ、ダガベも戻ってきた。
ゾルアーデン、エレアーデン、カルアーデンの三兄弟も無事だった。三人は、互いの顔を見合わせて笑った。
危機を脱した安堵感に満たされる一同。だが、エーメレイアだけが浮かない顔で嘆息した。
「リリー、私はあなたに失望しました。あれほど練習したのに、あの『姉上~、ど~したのですかぁ~』はないでしょう。全然気持ちが入っていませんでした。さあ、もう一度。はい、『姉上、どうしたのですか?』」
「も、もういいではありませんか! それを言うならエーメ姉様の『誰か~! ゾルア~デンが~!』って何ですか。全然危機感が感じられませんでした。私、笑うのをこらえるの大変だったのですよ!」
「まあ! 私の迫真の演技を笑うだなんて」
そこに、こめかみを押さえたゾルアーデンが割って入った。
「二人とも、その件は二人だけでゆっくりやりなさい」
そして……。
捕らえられたロルセエルがイルセエルの前に引き出されてきた。
「久しぶりだな、我が弟よ」
「兄上……私をまだ弟と呼んでくださいますか」
「残念だが、これが最後だ」
「……」
「できれば、兄弟で力を合わせて父祖から受け継いだ地を治めていきたいと願っていたが……それはかなわぬ夢であった」
「……」
「ゾルアーデン、エレアーデン、カルアーデン。我が不様な姿を目に焼きつけよ。敵味方となったこの兄弟を心に刻め。今回の事件をお前たちの糧とせよ。願わくは、お前たちがこの愚かな父の轍を踏まぬことを」
父の血を吐くような言葉に、三兄弟はひざまずいて涙を浮かべた。
「さてロルセエルよ。言いたきことはあるか」
「私は何もかもあなたよりも優れていた。ただ、生まれたのが遅かっただけだ」
「……それが最期の言葉か。そうか。そうだな。お前は間違っていない。お前は私よりも優れている。認めよう。私は先に生まれただけで公爵になった男だ。不公平だな。不公平よの。だがこの世は不公平で不公正で不平等なのだ。皆、それをのみ込んで生きている。私もな、お前のような才があったならと、神を呪ったものだ。全く、不公平だな」
「……」
イルセエルは、ガンデとダガベをちらりと見た。
やるべきことをやり遂げ、誇りに満ちた目をした彼らを見た。
「ロルセエルよ。死一等を減ずる。これより、お前の貴族身分を剥奪する。ケールファイン家を名乗ることも許さぬ。マイツァーデイン公領から追放する。どこかでただの平民として生きるがいい」
ロルセエルは、何も言わずただうなだれるだけだった。
連行されるロルセエルを見送った一同は、鉛のような空気に包まれていた。
「あー、終わった。終わった!」
ガンデは、地面にへたり込むとそのまま手足を投げ出して倒れた。冷たい地面が、優しくガンデを受け入れた。
「寝るなら寝台を使え」
ゾルアーデンがガンデを見下ろしていた。
「ああ、伯爵。平民にとっては地面も立派な寝台でさあ」
「立て。寝ている場合ではない。父上が酒蔵を開放される。平民が絶対口にできない高級酒が飲み放題だ」
そう言って、ゾルアーデンは右手をガンデに差し出した。
ガンデはその手を見つめた。
にやっと笑うと、その手をつかんで起き上がった。
「平民ごときが貴族様の酒宴に入り込んでいいんですかい」
「勝利の祝杯は大勢で飲む方がうまいのだ。特に、共に戦った友と飲む酒はな」
「それは知らなかった。さすが貴族様は難しいことを知ってらっしゃる」
「ふっ」「へっ」
◆
笑いと喧騒で満たされた宮殿で、イルセエルが一人で激怒していた。
「ああっ! その酒は二〇年モノの高級品だぞ! 水みたいに飲むな! 香りを楽しめ! 舌で味わえ! この味音痴どもめ!」
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