勝利の女神
新手の騎兵は、約一〇〇騎。
速歩と常歩の間のような速度で接近してくる。
彼らは、門まであと一〇〇メルというところまで近づくと、駈歩に増速して突っ込んできた。
これに最も驚いたのは、南門を攻撃していたロルセエルの兵たちだった。
新手の騎兵は一瞬で彼らを粉砕すると、ロルセエルの兵たちがこじ開けた門から突入してきた。
「兄貴! 遅くなってワリい!」
「上出来だ!」
ダガベが、乗っていた馬から飛び下りる。
ガンデは立哨台から駆け下りると、ダガベが乗ってきた馬に飛び乗った。
「さて、楽しい時間の始まりだ!」
ガンデは、ダガベが連れてきた騎兵を率いて走り去った。
「ダガベ、これは一体……」
フェーンは、まだ事態がのみ込めなかった。
この騎兵はどこから沸いたのか。
どんな魔法を使ったというのか。
「川で姫さんたちを拾う前に、騎兵の招集を命じられてた。で、オイラたちは騎兵の集合地に向かってる途中だった。その騎兵を連れてきたってワケ」
「それで突然騎兵が……」
「ああ。先に招集かけてなかったら騎兵なんて用意できねえよ。運が良かった」
「またダガベに助けられたな。礼を言う」
「えっ、いや、別に……当たり前じゃねえか。何だよ。騎士様が平民に礼とか言うなよ!」
耳まで赤くなったダガベはそっぽを向いてしまった。
「では、私たちも行こうか」
フェーンは、ダガベの肩に手を回して引き寄せると戦場に向かって歩き出した。
◆
イルセエルが守る宮殿の一角は、切迫していた。
敵は扉をまず徹底的に破壊して突入口を広げることを優先した。さらに、よろい戸を破壊して窓からの侵入も試みている。
「ふん、やっとそこに気付いたか。ひよっこの成長を眺めるのは悪くない気分だ。その学びを生かせず死んでいくと思うと不憫よの」
イルセエルは槍をしごいて敵兵を次々に討ち取る。
言葉とは裏腹に、長くは持たないことも痛感していた。家臣たちはよく戦っているが、数的劣勢は戦場において絶対的だ。
彼は、「少をもって多を滅す」などたわごとに過ぎないと知っている。奇策をひねりだす前に、敵より多くの兵をそろえる方法を考えるべきなのだ。
そして今、イルセエルは敵よりも少ない兵士しか用意できない。
イルセエルは、家臣たちに向かって叫んだ。
「お前たちは、女子供を連れてどこかで突破口を開け! ここは私だけでいい」
「しかし公爵!」
「女子供を道連れにしたなど末代までの恥よ。最後くらい格好を付けさせよ!」
大笑いしながら、破壊された扉に向き直ったイルセエルは怪訝な顔をした。
「ん? 敵はどうした」
敵の攻撃がやんでいた。
突然、静かになった。
イルセエルが扉から外に出ると、二〇騎ほどの騎兵の一団が近づいてきた。だが、全く敵意は感じない。
騎兵たちからは、むしろ戸惑いの雰囲気が漂ってくる。
隊長格の騎兵が、下馬してイルセエルの前に近づいてきた。
「その甲冑、名のある方とお見受け致す。我はキルエルト伯の家臣デルベーレンと申す。我が主君の姫がこちらにいらっしゃると聞き及び参上仕ったが、これは一体……」
「ここにいた兵どもはどうした」
「我らを見ると、一目散に逃げ散り申した。彼らは一体……。いや、何が何やら」
イルセエルは、大笑いした。
おかしくておかしくてたまらない。
腹の底から笑った。
「またキルエルト伯の姫に救われたか! 我が公爵領の勝利の女神だな!」
イルセエルは腹を抱えて笑った。
デルベーレンは、あ然として立ち尽くしていた。




