死の感触
宮殿に残ったイルセエルは、宮殿内の指揮を始めた。
「女子供は奥へ。宮殿内にいる男は扉を塞ぎ、よろい戸を閉めよ」
そして、扉の前で佇んでいるリリーメルを一喝した。
「そんなところに居ても役には立たん! 今のお主にできることは、皆の無事を祈ること。危険な所に居ても何の足しにもならん」
「しかし……」
「彼らが戻ってきたとき、お主が死んでいたのでは意味がない。彼らの献身を無駄にするな。やれることをやれ」
「心得違いをしておりました。教えに感謝を」
イルセエルはふんと言って、他の箇所の指揮に向かった。
「さあ姫様、行きましょう」
アディとエーメレイアに促されて、リリーメルは宮殿の奥に向かった。
◆
ガンデは、南門に走りながら周りの兵たちに付いてこいと叫んだ。
「南門だ! まずそこを守れ!」
「あれが南門だ」
「全く、疲れるぜ!」
南門に居た兵士たちと協力して、南門を閉ざす。かんぬきをかけて封鎖すると、門の上の立哨台に上った。
「来たぜ、敵さんだ……一〇〇はいるな」
「一〇〇!?」
「この門を守るのは一〇……か。ちっとキツイな」
「でも、やるしかない」
「ふん、覚悟がキマッてきたじゃねえか」
騎兵では門や壁を突破できない。敵は下馬して攻城戦の態勢に移った。
「攻城戦の準備してきたのか。用意がいいことだな」
壁に梯子をかけ、兵が次々に上ってくる。ガンデとフェーンは梯子を落とし、上ってくる兵に剣を突き刺した。
二、三人はどうにかなる。だが、敵は数が多い。次々に上ってくる敵兵にいつまで対抗できるか……。
「敵の攻撃地点はここだけなのか。他の門は大丈夫だろうか」
「知るか! 増援が来ねえところを見ると、他も攻撃されてるのかもな」
「ロルセエルはなぜそんなに兵を持っているのだ!?」
「俺に聞くな!」
フェーンは、梯子を上ってくる敵兵の顔や首めがけて剣を突き立て続けた。
剣を通して、肉に突き刺さる手応えを感じる。その一撃一撃が人の命を奪っていく。
きっと次は自分の番だ。
敵の剣が自分の体にザクリと突き刺さって、動脈や心臓や肺を傷つけ、人生が終わる。
これが戦。
これが殺し合い。
これが……。
「ーン! フェーン! おい! フェーン」
「えっ!?」
「ボケッとするな。死にてえのか。死にたくなければ殺せ」
「殺せ……」
「良いとか悪いとか、考えるな。生き残ってからのんびり考えろ」
ガンデの大剣が、敵兵の首を跳ね飛ばす。頸動脈から吹き出した血がガンデに降りかかる。続けて上ってきた敵兵の顎を蹴り飛ばす。
「こんなところでくたばったら、姫さん泣くぞ」
「姫様……」
「それとも泣いてほしいか? フェーンって」
「姫様は泣き顔より笑顔の方が美しい」
「なら笑わせるんだな!」
フェーンは、新たに掛けられた梯子を蹴り落とし、その横の梯子を上り切った敵兵の腹に長剣を突き立てる。さらのその右の梯子に飛び付いて、梯子を横に蹴って倒した。
「周りがよく見えてるじゃねえか。上出来だ」
「……」
フェーンの答えはなかった。余裕がないのか、集中しているのか。
ガンデは、視界の端にフェーンの無事な姿を捉えると、フッと笑いながら大剣を敵兵の頭にたたきつけた。
「後は……持たせられるかどうか、だな」




