貴族の資格
一瞬、きょとんとした顔でリリーメルを眺めたロルセエルは、肩をすくめて苦笑した。
「リリーメル殿、いかがなされた」
「それは私がお聞きしたい。ダルナー副伯は何をそんなに焦っていらっしゃるの?」
「公爵家の恥辱を逃がすわけにはいかぬ。当然であろう」
「それで、『殺しても構わぬ』と? それとも、殺してしまいたいのでしょうか?」
「何が言いたい」
リリーメルは、ふふっと笑った。
優しく、艶やかに。
「せっかくですから、皆でお話を致しましょう。私、賑やかなのが大好きなのです」
リリーメルは、ぱんと手を打ち鳴らした。
それを合図に、複数の足音が玄関広間に響いた。
フェーン、アディ、ガンデ、エーメレイア、イルセエル。
そして、ゾルアーデン、エレアーデン、カルアーデン。
「なっ、ゾルアー……」
ロルセエルは、目を見開いて一同を見た。驚愕したまま顔がこわばり、歪んだ。
それでも美男だった。
「色男ってのはどんな顔しても色男なんだな。世の中不公平だぜ」
ガンデが「けっ」と毒づく。
エーメレイアは、にこにこして妹を見守っている。
「何だこれは。何がどうなっているのだ! なぜ貴様らが生きている。エレアーデン、貴様裏切ったのか!」
「う、裏切ったのは貴様だろう」
エレアーデンが叫んだ。
「シルテン副伯のお部屋でこれを見付けました」
フェーンが、暗号文と木の筒を取り出した。
「それは……」
「シルテン副伯にカプテディーン伯を暗殺させ、凶器をダルテルン卿の部屋に隠して罪を着せる。一見、これでシルテン副伯が公位継承者になるように見えます」
「……」
「しかし変です。シルテン副伯は誰かに命じられている。この黒幕は、一体何がしたいのか。明らかにおかしいのです」
フェーンは、そこで口を閉じた。
リリーメルが引き継ぐ。
「実はダルテルン卿の狂言で、シルテン副伯に殺人を行わせて告発するつもりだったのか、それとも三兄弟を全て排除しようとしてる者がいるのか。私たちには、誰が黒幕なのか分かりませんでした。だから、公爵にご相談してカプテディーン伯を死んだことにしたのです」
「……」
「家畜の血をこぼして死体のふりをしていただきました。シルテン副伯には暗号文と筒を見せて、減刑を条件に協力していただきました。ダルテルン卿は激しく動揺しており、この犯罪計画の黒幕ではあり得ませんでした。こうして、三兄弟全てが排除された後で残るあなたが浮かび上がったのです」
「なるほど。ゾルアーデン殺害から、全て嘘まみれだったというわけか」
「その通りです。あなたが全て嘘まみれだったように」
「ふん」
「先日の、媚薬密輸事件もあなたの仕業ですね?」
「その通りだ。まずあの事件でゾルアーデンを廃嫡させる。ついでに、失意のあげく自害したという筋書きで念のため暗殺するつもりだった」
「それでは継承権は得られませんよね?」
「エレアーデンとカルアーデンの共謀による陰謀だったという証拠を捏造して、その二人も排除する予定だった。リリーメル殿たちのご活躍で実行不能になったがね」
「そこまでして公爵位がほしかったのですか? ここまで卑劣な手段を使うほどの価値があるのですか?」
「あるさ。手に入れようとして何が悪い。そこにいる男は、私よりも先に生まれたというだけで、私よりも劣っているのに公爵なんぞになっている。私が公爵になれなかったのは、生まれたのが遅かったというだけだ。不公平ではないか!」
「不公平? 不公平ですか?」
「そうだろう。不公平ではないか」
リリーメルの目に、初めて怒りの色が浮かんだ。顔が紅潮して、熱くなっている。
彼女は両足を開いて仁王立ちになり、再び人さし指をロルセエルに突き付けた。
「あなたに、不公平などと言う資格はありません!」
「何?」
「不公平だと言えるのは平民たちです。彼らは、単に平民に生まれたというだけで、貧しい生活を強いられる。そこに居るガンデは、高潔な戦士です。何もできない無力な私を、危険を冒してここまで連れてきてくれました。ダガベは、傷付いた足で私の手を引いて走ってくれました。騎士階級のフェーンとアディも、私を守ってくれました。不公平ではありませんか。なぜ彼らの身分は低くて、あなたのような卑劣漢が貴族なのですか。なぜ!」
「……」
「あなたに、貴族の資格などありません!」
「黒幕は誰だ」編完結。次回から「最後の戦い」編です。
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