黒幕
数日後、事態は急展開を見せる。
エレアーデン夫妻の部屋の掃除をしていた女官が、不審な箱を発見した。彼女がおそるおそる開けると、中から血まみれの短剣が出てきたのである。
さらに、宮殿の裏庭でエレアーデンの家臣の死体が発見された。その家臣は、「ゾルアーデンを殺害し、家畜の血を塗った短剣をカルアーデンの部屋に隠すように」という命令書を持っていたのである。
「やはりエレアーデンの陰謀だったのか!?」
ロルセエルは驚愕し、エレアーデンの捕縛を命じた。
宮殿は騒然となった。
「殺しても構わぬ。絶対に逃がすな!」
ロルセエル自ら陣頭に立ち、捜索を指揮した。
だが、エレアーデンはどこにも居ない。
「何としてでも探せ! 草の根分けてでも探し出すのだ!」
だが、エレアーデンはどこにも居なかった。
ロルセエルは拳を執務机にたたきつけると、窓から外を見下ろした。公爵の家臣たちが、宮殿の周りを右往左往しながら捜索している。
「役立たずどもが!」
廊下に出ると、各部屋をのぞいて回る家臣団が視界に入った。
公爵の宮殿は広大だ。広大ではあるが、部屋の数は有限であり、隠れられる場所も限られる。これだけの人数で探しているのに見付けられないとはどういうことなのか。
玄関広間に出た。
そもそも、なぜエレアーデンは居ないのだ。凶器や家臣の遺体発見以前から姿を消していたとしか思えない。
犯行が露見することを事前に察知したのか。
それとも……。
「ずいぶん焦っていらっしゃいますね、ダルナー副伯」
「おお、リリーメル殿か。いや、見苦しいところをお見せした」
ロルセエルは苦笑しつつ、乱れた髪を整える。
「兄を謀殺して弟にぬれ衣を着せるなど、言語道断。公爵家にとって許しがたい恥辱となりましょう。必ずや下手人を捕らえて正義を貫かねばなりません」
「正義……ですか」
「左様」
リリーメルは、うつむいてふうと息を吐き出すと、射るような目でロルセエルを見つめた。
「私は世間知らずで、このような場合どうなるのかさっぱり分かりません。三兄弟を失った公爵家は、これからどうなるのでしょうか」
ロルセエルは、眉間を指で押さえて苦痛に耐えるように天井を見上げた。何をやっても絵になる男である。
「本当に残念なことです。兄上の心痛を思うと、同情を禁じ得ない。私たちは歳が離れていたゆえ、兄上には父のようにかわいがっていただいた。兄上に尽くすことが我が使命。これからは、私が子代わりとなって兄上を支える所存」
「それがダルナー副伯の目的というわけですか」
「何?」
リリーメルは右手をゆっくり上げて人さし指をロルセエルに突き付けた。
「あなたが黒幕だったのですね」




