完璧な美男
翌日、一同は公領の中心都市モデイレイムの宮殿に居た。リリーメル一行も同行すると聞いたゾルアーデンは、苦笑しただけで何も言わなかった。
エーメレイアは、「もの好きな連中だ」と思ったのよ、と言ってほほほと笑った。
マイツァーデイン公イルセエルの前に立ったリリーメルは、貴族の令嬢として完璧な礼を施した。
イルセエルは「よく来た。楽しんでいくがいい」と言って大笑いすると、どこかに行ってしまった。この状況で「何を楽しめ」と言ったのかは定かではない。
大貴族にしばしば見られるように、「下々のやることに本当に興味がない」のではないか、とフェーンは感じた。
アディは、宮殿での面々を観察している。
ゾルアーデンはそれなりに整った顔立ちだったが、姉の夫ということで姫様は関心を示さなかった。次男エレアーデンも既婚者なので、やはり姫様は反応しないだろう。
問題は、独身の三男カルアーデンだ。
私は、公爵家で姫様が奇行を晒すのではないかと心を痛めていたが、俊才カルアーデンは容姿には恵まれなかった。
姫様は、「そう、彼がカルアーデン……。ふうん」と言って肩を落とした。多分、すごく期待していたのだ。
「アディーメ、問題はダルナー副伯よ」
エーメレイア様が耳打ちしてきた。
「ダルナー副伯はね、独身なの」
「そうなのですか」
「しかも、とても美男なの。驚くわよ。母親似なのね」
「ええっ!?」
エーメレイア様とこそこそ話していると、後ろから快活で歯切れの良い、低くて渋い声がした。
「エーメレイア殿、久しぶりだね。妹君がいらっしゃっているとか? ぜひ挨拶させてほしい」
振り返ると、今までに見たこともない美男が立っていた。あまりのまぶしさに、よろけてしまった。
私が、である。
「ダルナー副伯、ごきげんよう。では早速。面白い娘ですのよ」
「それは楽しみだ。エーメレイア殿の妹君なら、さぞや美しいことだろう」
「まあお上手ですこと」
ダルナー副伯。これはまずい。私でさえ目が眩んでしまった。姫様があの方を見たらどうなることか。
それにしても、全く動じないエーメレイア様、恐るべし……。
我に返って振り返ったときには、既にダルナー副伯と姫様の顔合せは終わっていた。姫様は顔を真っ赤にして、口をぱくぱくさせている。
姫様の視線がぐるぐる回っている。ああ、みっともない。
だが、どうせすぐに欠点を見付けてスンとなるだろう。
私には分かる。
姫様に挨拶を済ませたダルナー副伯は、洗練された物腰でエーメレイア様と姫様から離れると、他の一団に向かってさわやかに声をかけた。
私には、今のところ欠点らしい欠点は見付けられなかった。
姫様は……スンとなっていない!
うっとりとした目でダルナー副伯を眺めている。放っておくとフラフラと付いていってしまいそうだ。
今回は、公爵家にはびこる陰謀の可能性を探るための一族参集の場なのである。部外者の姫様が色目を使いながらウロウロしていたらキルエルト伯家の恥さらしである。
既にほうぼうで恥をさらしているのだ。これ以上の奇行は避けたい。
ダルナー副伯に目が眩んだ姫様を抑えつつ、陰謀の首謀者を見付けなければならない。
これは難しい仕事になる。
私は気を引き締めた。
って、陰謀の首謀者を探すと言い出したのは姫様ではないか。




