公爵家の肖像
姫様の乱れた髪に櫛を通しながら、一同を見渡した。
まさか、エーメレイア様が参入してくるとは思わなかった。
姫様の奇行が華々しいがゆえに目立たないが、エーメレイア様もそれなりに変人だということをすっかり忘れていた。いや、四姉妹全員がどういうわけか結構「変」と言うべきか。
ダガベは、部屋の隅で小さくなって怯えている。姫様を遙かにしのぐ気品と美しさを備えた真の貴族を目の当たりにして、どうしたらいいのか分からないのだろう。
「姫様とは違う」ということが分かっただけでも褒めてやらねばならない。
やはりサルよりはいくらか賢い。
だが、エーメレイア様のおかげで内部事情の整理は大きく進展した。
改めて整理すると(敬称略)、マイツァーデイン公イルセエルの嫡男が、エーメレイア様の夫でもあるゾルアーデン。二三歳。公位継承者に与えられるカプテディーン伯という儀礼称号を持っている。
次男がシルテン副伯エレアーデン。彼はゾルアーデンの三つ年下で才知はゾルアーデンに一歩譲るといわれている。
三男がダルテルン卿のカルアーデン。ゾルアーデンの五つ年下で、最年少ながら俊才と誉れ高い。
次男には長男への劣等感、三男には長男への秘められた優越感があるのではないか。
長男は嫡子としての余裕か、兄弟たちの感情など意に介さず鷹揚に接しているという。この長男の態度は、次男三男の複雑な感情を刺激しそうだ。
継承順としてはさらに下がるが、マイツァーデイン公には弟君がいる。ダルナー副伯ロルセエルだ。ゾルアーデンら三兄弟にとっては叔父に当たる。
ただ、年齢差はあまりない。長男ゾルアーデンの五歳上でしかない。これは、先代公爵が後室を年老いてから娶ったからである。そのためロルセエルとその兄マイツァーデイン公イルセエルは親子ほどの年の差が生じることになった。見た目だけなら、ロルセエルを長兄とする四兄弟のようであるという。
先代公がなぜその歳で後室を取ることになったのか。下世話な話だが、その後室がこれまた絶世の美女で、その色香に迷ったらしい。イルセエル公は「年甲斐もない」と眉をひそめたそうだが、老後がそれで華やぐならと黙認したという。
まあ、貴族の間ではよく聞く話である。
長男ゾルアーデンさえ排除すれば公位継承者になれる次男エレアーデンはともかく、三男カルアーデンや叔父ロルセエルは排除すべき人数が多い分、難易度が上がる。
排除が困難なだけでなく、排除された人数が増えるほど疑いも濃くなる。ロルセエルよりもさらに継承順位が低い人物は、考慮する必要すらないだろう。
「いや、一気に片付ける方法もあるぜ」
ガンデが面白くなさそうにつぶやいた。
「片付ける方法?」
「公爵が巻き込まれるような戦争をおこしゃいい。一族郎党こぞって参陣すれば、討ち死にするヤツだって出るだろうよ。父を含めて五兄弟全員まとめて死んじまって、外国に嫁いだ娘の息子を連れてきたって話もあっただろう」
「ガンデは、戦が起こると言いたいのか」
フェーンが確認すると、ガンデは顎の髯を抓んで引き抜きながら、あくびをした。
「痛っ。あくまでも可能性だよ。可能性を挙げた上で除外しねえと、想定外の事態に足をすくわれかねねえ」
私は、やはりシルテン副伯が怪しいと踏んでいる。
「可能性とすると、やはり第二位の次男への注意は必要かと。カプテディーン伯さえ排除すればよいという優位性。後は、疑いの目を逸らす手段が加わるだけでよいのです」
エーメレイア様は、皆の発言をにこにこしながら楽しそうに聞いている。自分も当事者であることをお忘れなのではなかろうか。
そのとき、お屋敷の侍従の一人がやって来て、エーメレイア様に何ごとかひそひそと語った。
「もう、秘密にするほど大層な話ではないでしょうに。公爵が三兄弟たちを宮殿に参集させるそうよ。公爵も継承争いが原因だとお考えのようね。みんなもいらっしゃい」
「エーメレイア様、よろしいのですか?」
「知らない。けど押しかけちゃえば追い返されたりはしないわよ。公爵は大雑把な方だから」
公爵の宮殿に移動して、今回名前が挙がった人物が登場します。
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