犯人を見付けます!
貴族と平民の関係――。
リリーメルの中に、まだ明確な答えはない。だが、例えば朝食の際に「彼らを同席させろ」と言うのは「彼らを貴族と同格として扱え」と要求することだ。それは確かに筋違いだ、ということは分かる。
ならばゾルアーデンのように振る舞うべきなのか。それはまた、リリーメルにとって受け入れがたいことであった。
だから、答えはまだない。
だが、やりたいことはあった。
やるべきことがあった。
「姉様たちを狙った犯人を見付けます!」
「えっ!?」「いやそれは……」「何だって!?」「姫さんのためなら何でもやるぜ!」
アディ、フェーン、ガンデ、ダガベは、驚愕し、絶句し、あきれ、思考放棄した。
「姫様、それは伯爵いえ公爵のご家中の問題。我々が介入するのは僭越極まりないと存じます」
フェーンは、リリーメルの奇行を他家に知られては一大事と、諫言に諫言を重ねた。だが、リリーメルは受け入れない。
「公爵家が何だというの。私は姉様を助けるの。やれることをしましょう」
アディは、この状態になったリリーメルを翻意させるのは極めて困難であることを知っている。
無駄に行動力がある姫なのである。
姫様はとにかく変なのだ。
でも、その変な姫様に仕え、支えるのが自分の役目だと心得ている。
「こうなっては是非もなし。フェーン、ガンデ、ダガベ。姫様の命令に従いなさい!」
アディがこの状態になったら、もうリリーメルを止められる者などいない。フェーンは覚悟を決めた。
「では、伯爵を罠にはめて利益を得る方を整理しましょう。ブレンナーレ伯まで巻き込もうとしたところを見ると、事を大きくしようとしていたことは明らかです。以前ポーディレン卿が廃嫡の可能性を指摘していた。まず廃嫡が狙いだったと仮定しましょう」
「伯爵の廃嫡の影響は広範囲に及ぶけれど……単純なのは公位継承権?」
「姫様の案から広げましょう。姫様は、公爵の家系をご存じですか?」
「大体分かる。こんな感じ」
リリーメルは、公爵家の略系図を書き出した。
├イルセエル(マイツァーデイン公)
│ ├──ゾルアーデン(カプテディーン伯)
│ ├──エレアーデン(シルテン副伯)
│ └──カルアーデン(ダルテルン卿)
│
└ロルセエル(ダルナー副伯)
※マイツァーデイン公以外の爵位は全て儀礼称号。
「他家に嫁いだ姫の子とか、継承順が低い人のことまでは分からないけれど」
「まあこれで十分でしょう。伯爵が廃嫡されると、シルテン副伯が一位に繰り上がりますね」
「早速シルテン副伯を締め上げましょう。行きますよガンデ!」
リリーメルが勢いよく立ち上がった。
「リリーじゃないんだから、そんな頭の悪いことはしないでしょう」
「姉様!?」
「皆で集まって何を話しているかと思ったら……面白そうだから仲間に入れていただこうかしら」
伯妃エーメレイアの突然の登場で、一同に緊張感が走った。ダガベは勝手に平伏している。床で平たくなっているダガベを見た彼女は「ぷっ」と吹き出して、「座りなさい。以後は『リリーの姉』として扱うことを命じます」と言った。
「『リリーじゃない』とはどういう意味ですか」
「あなた昔、私の白い服に勝手に押し花をして台無しにしたでしょう」
「あれは私ではないと……」
「あんな真似をする馬鹿が他にいると思っているのですか」
エーメレイアは、両手を拳骨にしてリリーメルの頭を挟んでギリギリと締め上げた。にこにこ笑っているが、こめかみに青筋が浮いている。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私です。私がやりました!」
「全く、お気に入りの服だったのに」
「真っ白では味気ないわ。お花の柄を付けたらかわいいと思ったの」
エーメレイアは残念そうな顔でふーと息を漏らした。
「伯爵を害したら、真っ先に疑われるのはシルテン副伯。もし彼が犯人なら、簡単にはバレないような何かを仕掛けているはず。皆、五歳のときのリリーより賢いの」
「それでは私が馬鹿みたいではないですか」
「『みたい』ではありません。馬鹿だと言っているのです」
「黒幕は誰だ」編の始まりです。
リリーメルが木製の筒を拾ったことから巻き込まれた陰謀の全貌が、いよいよ明らかになります!




