出来損ない貴族
朝食に招かれたリリーメルは、食卓にカプテディーン伯と姉のエーメレイアしかいないことに気付いた。
「あの、アディたちは……」
「騎士殿と侍女殿は、別室でもてなしている。平民たちにも食事は与えているので心配めさるな」
ゾルアーデンは、リリーメルに優しくほほ笑んだ。
「四の姫が無事である旨は、先ほどキルエルト伯に使いを出した。これでお父上も安心されるだろう。姫は姉との再会を心ゆくまで楽しまれるがよい。お帰りの際は、当家が責任を持ってお送り致す」
ゾルアーデンの差配は完璧だった。
自分の窮地を救ってくれたリリーメル一行にいたく感謝しており、悪意は微塵もない。フェーンとアディはキルエルト伯の家臣、ガンデとダガベはリリーメルと契約した傭兵。いずれもここではリリーメルの君主権の庇護下に置かれる。ゾルアーデンはそれを尊重し、侵害する意図はない。リリーメル庇護下の者たちを身分相応に歓待し、ガンデたちには働きに応じた褒美も与えるつもりである。
食後、エーメレイアに説明されてゾルアーデンの振る舞いはむしろ好意的であるということを理解した。理解したが、まだ納得はできなかった。
「良い例えではないけれど、貴賓室は馬にとって居心地が良いのかしら?」
「そんな! ガンデたちは馬では」
「彼の例えを援用したまで。彼は、『自分に相応しい扱いをしてくれ』と言ったのだと私は解釈しました」
「相応しい扱い……」
「リリーは、今すぐ皇帝の養女になって作法を厳しく教えられ、命じられた家に嫁ぐ生き方を強制されたいの?」
「私はそのような……」
リリーメルはそのとき、ベデンズィードの屋敷を訪問した際のことを思い出した。応接室に通されたとき、ガンデたちは着席せずに立っていた。アレナエリンに勧められても謝絶し、リリーメルに促されて渋々着座した。
「あれも、居心地が悪かった……から?」
リリーメルの話を聞いたエーメレイアは、少し目を見開いて驚いたような顔をした後、ふと目を閉じてほほ笑んだ。
――ああ、姉様はますます美しくなられた。見とれてしまう……。
美女と評判の大公女にも絶対負けていないに違いない!
「リリー、あなたは良い人たちに巡り会いましたね」
「はい!」
「私が言った意味が分かっていないようね。ガンデはあなたのために座らなかったということを」
「えっ!?」
「ポーディレン卿の家風は存じ上げないけれど、当家でガンデが座っていたらリリーは『家臣のしつけもできない出来損ない貴族』と見なされたでしょう。そして、あなたは貴族として尊重される資格を失い、嘲笑されることになる」
「……」
「彼は『弁えている』。本当はそれをリリー自身に気付いてほしかったけれど、このままでは彼らを理解する前にリリーと彼らの別れが来てしまう」
「ガンデたちとの別れ……」
「彼らに忠義を求め、彼らの忠義に酬いたいのなら、彼らをどう遇するべきか。後は自分で考えなさい」
「姉様!」
リリーメルは、エーメレイアに抱きついた。エーメレイアは、子供の頃と同じように、強く抱き締めて頭を優しく撫でた。
昨日、馬車の中でそうしたように。
エーメレイアは、いつものように無償の愛情を注いだ。
「いい匂い。アディーメに香油をすり込んでもらったのね。昨日のあなた、臭っていたものね」
「それ、まだ言うの?」
「姉様を救え」編完結!
次回から、「黒幕は誰だ」編です。
姉たちを陥れようとしていたのは誰か?
いよいよ陰謀の核心に迫ります。




