姉はエーメレイア
やつれて汚れて、がさがさの長い髪を振り乱して叫ぶ姿は「すわ狂女か」と皆を困惑させた。
だが、彼女が「私はキルエルト伯の四女ヴァル・サーディバル・リリーメル。カプテディーン伯妃エーメレイアの妹です。エーメレイア姉様に至急会わせてください」と言い出したことで、騒然となった。
彼女は息も絶え絶えで、ここまで意味のある情報を聞き出すのも大変だった。
「伯妃の妹を称する少女の出現」によって、隊列は休止することになった。
次の問題は、この不審な少女を信用するか否か。決定を委ねられた老貴族は、簡単に答えを出した。
「嘘でも誠でも構わぬ。伯妃に確かめていただけばよいではないか。我々が決めたり責任を取る必要などない」
こうして、リリーメルが寝かされている馬車にエーメレイアがやって来た。
彼女は、馬車に入るなり大きな目を見開いて鼻を摘まんだ。
「まあ、リリーではないの。こんなところで一体何をしているの!? というか、あなた臭うわよ?」
「姉様……」
「ああリリー、本当に久しぶり。会いたかった! でも、あなた臭うわよ?」
「ここは? ここはまだ公領ですか?」
「まだ公領よ。あなたが突然現れたから、ブレンナーレ伯領の手前で止まってしまったの。ところで、あなた体洗ってないの? 臭うわよ?」
リリーメルは、体を起こすとエーメレイアに向き合った。優しかった、エーメレイアがそこに居た。
「よかった。姉様……。私、姉様を助けに来たの」
ぼろぼろと涙を流すリリーメルを、エーメレイアは力いっぱい抱き締めて優しく頭を撫でた。いつもそうしていたように。
「分かった。まずはちゃんと話を聞きます。そうしたら、体を洗いましょう。あなた、臭うわよ?」
リリーメルは、カプテディーン伯、エーメレイア、ブレンナーレ伯を前にして、暗号文と媚薬を取り出してこれまでの経緯を説明した。カプテディーン伯もブレンナーレ伯も半信半疑だったが、エーメレイアが「リリーメルは決して嘘をつきません。確かめれば分かります」と主張して荷馬車を改めることになった。
結果、一台の荷馬車から大量の媚薬が発見された。カプテディーン伯とブレンナーレ伯は大いに驚愕したが、エーメレイアは全く驚かなかった。
「姉様はなぜ驚かないのですか?」
「リリーがこんなになってまで知らせてくれたことですもの。絶対にそうだと確信していました」
リリーメルがもたらした物証と証言もあり、これはカプテディーン伯を陥れるための罠であると結論付けられた。罠である以上、当然ながらカプテディーン伯の落ち度ではない。ブレンナーレ伯は「危ないところであったな」と言って大笑いした。
そうしている間に、ガンデたちも追い付いてきた。
フェーンは、街道の真ん中で頭から血を流して倒れているダガベを発見した。彼は自分の馬にダガベを乗せると、手綱を取って歩いた。
「フェーン、アディ、ガンデ、ダガベ。皆のおかげで姉様を救うことができました。改めて、心からの感謝を。この恩は生涯忘れません」
「まあ、この方たちがリリーを連れてきてくれたの? おかげで夫は救われました。私からもそなたたちの献身に感謝を。本当にありがとう」
エーメレイアは、フェーン、アディ、ガンデ、ダガベ一人一人の手を取って感謝の言葉を述べた。
そして最後にこう言った。
「皆、ちょっと臭うわよ?」
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