立派な騎士
一行は、北部に向かって街道をひた走った。リリーメルもアディも馬を操れるが、彼女たちの技量ではフェーンやガンデに追いつけない。そのため二人乗りの態勢は継続した。
速歩で走り続け、馬を替えて再び走る。替え馬を使えるようになったことで、移動速度が大幅に向上した。
そして、フェーンの腰には長剣が下げられている。
「デルバーエル卿は、川に落ちた四の姫様を追う際に剣を失ったとか。ポーディレン卿はそれを見事と申され、私にこれを託されました。ぜひこの剣で四の姫様をお守りください」
ベデンズィードの家臣ベルゲエンは、そう言って一振りの長剣をフェーンに渡した。エルゲーデン家に伝わる剣の一つだという。
「このような名剣を頂くわけには……」
「四の姫様への贈り物と思われよ。四の姫様には使いこなせますまい。代わりに貴公がそれを使ってお守りするがよろしかろう」
まだ硬い表情で判断に困っているフェーンを見て、ベルゲエンは笑った。
「若い割りに融通が利かぬ御仁よ。くれるというのだからもらっておけばよい。良いものをもらったら、小躍りするくらいがかわいげというものぞ」
フェーンは、泣き笑いしながら謝意を述べ、一同を笑わせた。
「長剣を佩いて馬を駆る……。フェーンもようやく騎士として格好が付きましたね」
「格好だけです。中身が伴っておりません」
「あら、中身は既に十分騎士だったではありませんか」
リリーメルは、激しく揺れる馬上でフェーンを見上げてにこりと笑った。
「フェーンは立派な騎士ですよ。それは私が保証します」
「姫様に保証していただけるなら、誰に対しても胸を張れそうです」
「それはよかった」
リリーメルは再びほほ笑むと、揺れた拍子に「きゃっ」と言ってフェーンにしがみついた。
だが、フェーンはもう緊張しない。一刻も早くカプテディーン伯夫妻を見付けること。リリーメルを安全に送り届けること。彼の心は目的に集中している。
雑念が入り込む余地はなかった。
替え馬のおかげで間に合う可能性は高まったが、まだ間に合っていないのだから。
ガンデの馬に揺られるアディは、馬の速さにようやく慣れ、全身に入れていた力を緩めた。
「慣れたか?」
「……ま、まあ」
「強がるな。自分で操るのと人に乗せられるのとでは、怖さも違う。怖ぇのは当たり前だ」
「そういうものですか」
「ガキの頃、オヤジの馬に一緒に乗ったときは死ぬかと思った。怖ぇんだよ、二人乗りは」
「ガンデは、なぜここまで付き合うのですか?」
「あん?」
「ガンデの仕事は、キルエルト伯領に送り届けること。マイツァーデイン公領を走り回るのは契約の範囲外だと思いますが」
「何でなんだろうな」
「答えになっていません」
「俺にも分からねえんだからしょうがねえだろ。そうだな。『まだキルエルト伯領に着いてねえ』からじゃねえか?」
「随分緩い契約ですね」
「これからは『寄り道はなし』って条件を付けるよ」
アディは、「ふふっ」と笑った。
「一つだけ忠告しておきます。あなたのような人は長生きしない。気をつけるべきです」
「喋ってると舌噛むぞ」
「私はあなたの心配イタッ!」
一人乗りゆえに最も速く走れるダガベは、しかし半泣きだった。
「オイラも女と二人乗りしてぇよ!」
彼女たちを待ち受ける意外な落とし穴。
リリーメルたちは間に合うのか?
次回、中盤のクライマックス回「走れ!」です。




