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一目惚れ伯爵令嬢と下僕たち ~イケメンを探していたら陰謀を暴いてしまいました~  作者: 中里勇史
姉様を救え

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時間もない!

 一同が閉じ込められたのは、市庁舎の一角にある部屋。罪人とは断定できない人間を一時的に軟禁するためのものだろう、とガンデは推測した。この部屋を中心とした一定の区画は移動を許されるが、外には出られない。


「どうしよう。もう時間がないというのに」


 リリーメルは、頭を抱えて部屋の中をぐるぐると歩き回っている。アディが何度も着席を促しているが、全く効果がない。

 まだぐるぐる回っている。

 ペルナーデルとポーディレンを往復するだけで二日はかかる。公領の北部に行く時間は残されていない。

 路銀がなくなるどころか時間までなくなるとは!


「いやはや、ついでに可能性までなくなっちまいましたね!」


 ダガベがヒヒヒと笑って、ガンデとフェーンとアディに殴られた。


「ああ、可能性までなくなってしまった!」


 リリーメルの歩みがどんどん加速する。

 アディは、もう一度ダガベの頭を殴った。


 皆、何度も考えたが、この状況の打開策は見いだせない。力づくでここを突破したところで、馬がどこにいるのかも分からない。馬を取り返せなければ、やはり詰みだ。

 何より、既に十一日なのだ。明日には姉夫妻はブレンナーレ伯領に入ってしまう。今すぐ移動を開始したとしても間に合うかどうか分からない。


「もう、姉様を助けられない……」

「姫様……」


 リリーメルは床に崩れ落ちて、大粒の涙をぼたぼたとこぼした。握り締めた両手のひらに爪が食い込み、血が滲んだ。


「アディ、私は泣くことしかできない。無力な自分が情けない」

「無力なのは姫様だけではありません。フェーンもガンデも何もできないのですから」

「フェーンも……」


 リリーメルは、フェーン、ガンデ、ダガベを見回した。皆、リリーメルから視線を外してうつむいている。


 リリーメルは、はっとして袖で目を拭った。何度も何度も、ごしごしとこすった。リリーメルが泣きわめいていたら、皆を苦しませる。最も高貴な生まれの自分が、ここに居る誰よりも劣っている。これはとても恥ずべきことであると知った。


 貴族として崇められなくとも構わない。だが、皆と肩を並べたい。劣った、保護されなければならない存在ではなく、皆と共にあるに相応しい人間になりたい。

 まずは、醜態をさらして皆を苦しめるのをやめることから始めるべきだ。


「不様な姿を見せたことを心から詫びます。間に合わないことが確定した今、次善策としてブレンナーレ伯の怒りを解いてカプテディーン伯夫妻を救う手段を考えるとしましょう」

「姫様……」

「できないことを嘆くより、できることを考える。その方が楽しいでしょう?」

「姫様は強くなられた」と、フェーンは感嘆した。


 ガンデは、「ふん」と言って笑った。

 ダガベはあっけにとられて口を開けたままリリーメルを眺めていた。


 そのとき、区画を区切っていた頑丈な扉が開かれた。


「キルエルト伯の四の姫様とご家臣の皆様を貴賓室にご案内申し上げます」



 市庁舎の貴賓室には、見知らぬ男たちと店の主人が居た。店主は片膝をついてひざまずいていた。


「四の姫様、先ほどはご無礼を致しました」

「一体、何があったのです?」

ポーディレン卿(ベデンズィード)のご家中の方が先ほどお見えになりました」


 すると、見知らぬ男の一人が前に進み出た。


ポーディレン卿(ベデンズィード)の家臣、ベルゲエンと申します。我が主の命にて、四の姫様をご支援申し上げるべく後を追ってまいりました」

「何と」

ポーディレン卿(ベデンズィード)とご内儀様はあの夜襲の折、私と十騎の騎兵に四の姫様をお助けせよと仰せになりました。途中で賊を打ち払っておりましたゆえ、参上が遅れました。申し開きようもございません」

「追っ手がなかったのはそなたたちの働きでしたか。いや、皆が無事にここまでたどり着けたのもそなたたちのおかげ。そなたたちに感謝を」


 リリーメルは、天井を見上げた。

 鼻の奥がツンとする。

 涙がにじんでくるのを、まばたきで散らす。


ポーディレン卿(ベデンズィード)とアレナエリン様には多大な迷惑をかけたにもかかわらずこのご厚情。私は何と恵まれているのか」

「四の姫様がおいでになって、ご内儀様の憂いが和らいだことをポーディレン卿(ベデンズィード)はいたく感謝しております。家臣一同も、ご内儀様の笑顔が増えたことを喜ばしく感じております。当家は四の姫様に恩義を感じているのです」


 リリーメルの目にまた涙が浮かんだ。

 もう、上を向いていても目尻からこぼれ落ちてしまう。

 彼女は再びごしごしごしと目を擦って、赤い目で一同にほほ笑んだ。


「四の姫様、どうぞこちらをお収めください」


 店主が、リリーメルの首飾りを差し出した。


「やはり買い取ってはもらえぬか。残念です」

「この品は、姫様の首を彩ってこそ価値を生むもの。何人たりともこれを身に着ける資格はございますまい」

「ペルナーデル市長のベンベと申します。ベルゲエン卿から、マイツァーデイン公領の安寧に関わる事態を姫様が阻止なさろうとしていると伺いました。子細は分かりかねますが、公領の安寧は当地にとっても一大事。市当局から姫様に、金貨三枚を献上いたします」

「それはかたじけない。無駄遣いはすまいぞ」

「それから、替え馬の利用証もご用意いたしました。この先、宿場町などに用意された替え馬を存分にご利用ください」

「おい姫さん、替え馬が使えりゃ全力で突っ走れるぜ」

「姫様、まだ間に合うかもしれません。いや、間に合わせます!」


 フェーンが力強く請け負った。


「よし、早速出発します。マイツァーデイン公領とブレンナーレ伯領の安寧のために! 何よりもエーメ姉様の幸せのために! できることをしましょう!」

マイツァーデイン公領内でブレンナーレ伯に追いつけるのか?

もうすぐ中盤のクライマックスです。

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