貴族の証し
一行は、中心街で貴族相手に商売をしているという店に入った。店主は、口髭を奇麗に整えた上品な男だった。貴族を相手とするからには、平民とて品格が求められる。
「これはまた、風変わりなご一行様でいらっしゃいますね」
如才ない笑顔をたたえつつ、店主は一行を値踏みした。
一人は貴族の令嬢然としているが、それにしては供が控えめに表現しても「風変わり」過ぎる。要は、珍奇で奇態で異常で不審だった。このような連中が店の戸を出入りするだけで、店の評判はがた落ちである。
だが、客の足元(これまた文字通り汚れている!)を見て態度を変えるなど、二流いや四流のすることだ。一流の店は、大貴族にも奴隷にも等しく最高の接客、最高の商品を提供する。ただし、その商品を買うためには相応の経済力が求められる。
「今日は、何をお求めでございましょうか」
「この首飾りを買い取っていただきたいの」
「ほう、首飾りの買い取りでございますか」
胡乱な連中が偽物を持ち込んでくることも多い。店主は警戒水準を二段階上げた。
だが、偽物なら追い返すだけのことだ。
問題は盗品の場合である。知らずに買い取ると、面倒に巻き込まれる恐れもある。
「拝見致しましょう」
一行の主人らしき娘から首飾りを受け取る。
見た目よりも重い。金が使われている可能性がある。
直径〇・五セルほどの赤い石がはめ込まれている。ただの石か、それなりの宝石なのか。
「……」
「いかがでしょう? 買い取るに値せぬものでしたか?」
「この品をどちらで?」
「これは母上から頂戴したもの。それ以前のことは存じません」
「失礼ながら、お母上とは?」
「我が母はオルドナ伯女にしてキルエルト伯妃なり」
「するとあなた様は……」
「キルエルト伯ゲーメルドの四女リリーメルと申す」
店主の目が、驚きと不審の色を見せたが、すぐに商売人の目に戻った。
「その証しは?」
「ない」
「ない?」
「私は旅の途中で家族とはぐれ、この者たちとキルエルト伯領に戻る途上です」
「キルエルト伯領……ここはマイツァーデイン公領ですぞ?」
「子細あって姉の輿入れ先であるカプテディーン伯をお訪ねするところです」
貴族相手の商売をするに当たり、店主の頭には貴族の系図や所領の位置が入っている。リリーメルと名乗る女性の話は辻褄が合っている。不審な点は何もなかった。
自称リリーメルは、貴族に見える。
だが、見えるだけだ。
金無垢も金メッキも、見た目は同じだ。十八金と二十四金も見ただけでは判別できない。
店主は、自分の鑑定目を信用していない。金剛石であれば硬さ。金であれば比重。その他さまざまな要素を加味して判断する。
見た目だけで、自分の目だけで、判断することはない。
見た目など、どうとでもごまかせるのだから。
店主は眉間を押さえてしばし黙考した。
「これは大変良い品です。金貨五枚に相当するでしょう」
「き、金貨五枚!?」
ダガベが五七セルほど跳び上がった。
「そ、そうですか。それは助か……」
「しかし、盗品であるという疑いが捨て切れないのです」
「それは身の証しを十分に立てられない当方にも責任がある。そなたの責ではない」
「恐縮です。近くに、あなたの身元を保証できる方はいらっしゃいませんか」
「うむ、姉のカプテディーン伯妃か、最近滞在したポーディレン卿ならば……」
「ここからなら、ポーディレンの方が近いですな。当方で確認の使いを出しますので、しばらく当地にご滞在ください」
「いや、そのような時間はないのです」
「ご理解いただきたく存じます」
店主がぱんと手をたたくと、店の奥から屈強な男たちが現れて一同を取り囲んだ。
「身元を確認できるまでのことです。それまで、市当局のお部屋でおくつろぎください」
一同は拘束され、牢獄としてはかなり清潔だが貴族の客間とは言い難い部屋に閉じ込められた。
リリーメルが「我が母はオルドナ伯女」と言っている通り、彼女の母はオルドナ伯女ラーエメルデ。
ちなみに、ラーエメルデの父オルドナ伯(リリーメルの祖父)は『愚者たちの輪舞』第四章に登場します。
第四章のタイトルは「オルドナ戦争」とあるように、オルドナ伯領が舞台となります。




