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一目惚れ伯爵令嬢と下僕たち ~イケメンを探していたら陰謀を暴いてしまいました~  作者: 中里勇史
姉様を救え

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早朝の脱出

 裏口の扉を開けたガンデは、飛んでくる火矢に仰天した。


「なんてこった!」


 ガンデは叫びながら大剣で火矢をなぎ払い、「ダガベ、アディに張り付け!」と命じて飛び出した。

 海千山千のガンデの予想を超える事態だった。まさか、貴族様の屋敷に派手に攻撃を仕掛けてくるとは思わなかった。

 本館に気付かれないように、別館に密かに侵入してくるとふんだのだが……。


「クソ、姫さんごと証拠を焼き尽くすつもりか」


 建物の扉付近に潜んで敵を一人ずつ倒していくつもりだったが、これでは建物から離れるしかない。建物の近くにいたら炎に巻き込まれる恐れがある。


 ベデンズィードに気付かれることも恐れていない。実際、本館にもちらほら明かりがともり始めた。


 完全に読み間違えた。


「兄貴! どうする!?」

「火矢を食らうな! 数は多くねえ。射手を見ろ!」


 東の空がやや明るくなっている。夜襲の定石通りの夜明け直前。火矢の欠点は、矢を射る前に射手の位置が分かることだ。夜は特に分かりやすい。

 これを利用して、まずは粘る。


 証拠ごと焼き尽くすつもりなら、外に出たガンデたちを無視することはできない。彼らは火矢で片を付けるのを諦めて、直接攻め込んで来るしかなくなる。

 ベデンズィードも本館に居る兵を出してくるだろう。

 ここで、ガンデの読み間違いはチャラになる。


 粘れば活路が開ける。


「ダガベ! アディ! 無事か?」

「まだ大丈夫だ!」

「『まだ』とか付けるな馬鹿野郎!」


 ダガベが剣で火矢を弾くのを視界の端に捉えた。ガンデは「ふん」と笑ってさらに前に出る。

 火矢の数から見積もって、敵は一五から二〇人。まだバラけ過ぎている。リリーメルとフェーンの脱出を確実にするためには、敵をこちらにもっと集める必要がある。


 ついでに……。



 細面の男は苛立ちを隠すそぶりもなく唾を吐き捨てた。


「『別棟に火を放って撤退』、失敗だな」

「アレも持ち出された可能性が捨て切れない」

「ラチがあかぬ。兵を突入させろ」

ポーディレン卿(ベデンズィード)も動く。全滅させられるぞ」

「構わん。どうせ、使い捨ての傭兵どもだ」



 別館を囲んでいた敵が、火矢を捨てて敷地内に突入してきた。


「ダガベ、忘れてねえだろうな」

「敵に囲まれるな、一対一でやれ」

「よく覚えてた。賢いぞ」


 ――来た。

 歩兵。

 ハズレだ。


 力任せに大剣を振る。

 敵は剣で受けたが、大剣の重さを殺し切れない。


 ――素人だ。

 速度が乗った大剣をまともに受けるヤツがいるか。


 敵の剣は用をなさず、ガンデの大剣は敵の胴にめり込んだ。

 甲冑が凹む。

 甲冑が体にめり込み、大剣の力を体に伝える。

 敵が吹き飛んだ。


 ――まず一匹。

 騎兵。

 来た!

 とはいえ、勝てばいいという訳ではないので厄介だ。


 さっきの雑魚兵が持っていた剣に飛び付いて拾い上げる。

 馬上から振り下ろされた長剣を大剣で受ける。


 ――片手ではギリギリだ。


 騎兵は定石通り、いったん駆け抜ける。

 少し先で振り向いて、もう一度突っ込んでくる。


 ――だがそうはさせない。


 駆け抜けようとする騎兵に、拾った長剣を投げ付ける。


 ――態勢を崩せれば上出来だが……。


 長剣が敵の左腕を傷つけた。

 手綱を持てなくなり、騎兵は落馬した。


「ダガベ!」


 ダガベがアディを連れてくる。

 ガンデは空馬に取り付いて手綱をつかむと、強引に止まらせて飛び乗った。そのまま、近づいてきたアディの襟首をつかんで鞍の上に引き上げる。布がビリビリと裂ける音がしたが、気にしている場合ではない。


 そのとき、リリーメルとフェーンを乗せた馬が敵をかいくぐって走り去るのが見えた。


「姫様……よかった!」


 アディの涙声が聞こえる。


「アンタは立派な侍女だな」

「え? 何か言いましたか?」

「何でもねえよ」


 ――騎兵、騎兵……。


「兄貴! アディと先に行け!」

「馬鹿野郎。てめえだけで馬が手に入るかよ」

「オイラは自分で何とかすらあ」

「半人前が生意気言ってんじゃねえ!」


 ――とはいえ、長居は禁物だ。ポーディレン卿(ベデンズィード)の兵が圧倒するのが先か、敵に取り囲まれるのが先か。


 ガンデは、軍記物に出てくる一騎当千の英雄豪傑ではない。囲まれたら普通に負ける。一対一でも、それが続けば体力が持たない。勝っている間に逃げるしかない。


「騎兵だ! ダガベ、付いてこい!」


 ガンデは、孤立していた騎兵に一気に近づくと、大剣を片手で振り回した。剣の腹を相手に向けて。

 大剣の重さをそのままぶつけて、馬からはたき落す。だが、今度の敵は大剣を受け流そうとした。対処法としては正しいが、それは刃を向けられた場合だ。

 敵は大剣を受け流すのに失敗して、馬から弾き飛ばされた。


「ダガベ!」

「うぉっしゃあ!」


 ダガベが馬に取り付いて鞍によじ登った。痛めた足首は完治していない。激痛が走ったが、敵に切り刻まれるよりは、多分痛くない。


ポーディレン卿(ベデンズィード)には悪いが、このままずらかるぞ」


 ガンデとダガベは、そのままベデンズィードの屋敷から走り去った。


 ベデンズィードは彼ら見送りつつ、「やれやれ」と言って苦笑すると、家臣に敵の掃討を命じた。


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