気配と別れ
ガンデは、眠りから覚醒すると音もなく起き上がり、横でいびきをかいているダガベの頭を殴った。
「痛てっ」
「起きろ。妙だ」
「何が?」
「……戦場のニオイがする」
ダガベは飛び起きると、防具を着け始めた。
ガンデも立ち上がって大剣を腰の革帯に装着し、防具を着けながら辺りの気配を探った。
――囲まれている……ような気がする。
確信はない。
動物のニオイ。馬、か。二頭や三頭ではない。
緊張、興奮したときに人が発する独特のニオイもする。
「そんなニオイなどしない」という者も多い。だが、ガンデは分かる気がしている。どういうニオイなのか、と問われると答えられないが。
「フェーンを起こしてこい。姫さんたちは騎士殿に任せる」
「ええっ、姫さんの寝所に行ってみてえよ」
ダガベの脳天に拳が振り下ろされる。
ダガベがフェーンの部屋に行くと、フェーンは既に鎖帷子を着ていた。
「何だかザワザワして、目が覚めてしまった。どうやら、勘違いではなかったようだ」
フェーンは笑って、アディの部屋の扉をたたいた。
「アディ。姫様を起こしてほしい。恐らく敵襲だ。明かりはつけないように」
「承知致しました」
フェーンでも、リリーメルの部屋に行くことはできない。リリーメルのことは侍女のアディに任せて、ガンデに合流した。
「外の様子は?」
「分からねえ。囲まれてる、気がする」
「この別棟だけが狙いか。昼間から、いや、もしかしたらそれ以前から監視されていたということか」
「みてえだな」
「……」
「俺たちが敵を引きつける。フェーンは俺の馬で姫さんと逃げろ」
「私も戦う」
「剣もねえだろ。フェーンはまず姫さんの安全を優先しろ。姫付の騎士なんだろ。役目を果たせ」
「しかし」
「俺たちも何とかして後を追う。マイツァーデイン公領に先に行けというだけのことだ」
「本当に、死ぬつもりはないのだな?」
「実はな、秘密にしていたが俺は死ぬのが怖ぇんだ。何が何でも生き残ってやるよ」
フェーンが振り返ると、ダガベが「ヒヒヒ」と笑った。
「オイラも死ぬのはご免だ。絶対逃げてみせらあ」
暗闇の中、二人の存在は大小のぼんやりとした影でしかない。表情は全く見えないが、分かる。
二人は、笑っている。
「分かった。貴公たちとの再会を必ずや。騎士身分として命じる。必ず合流せよ」
フェーンは、部屋から出てきたリリーメルの手を引いて馬小屋に向かった。
「ガンデたちは?」
「彼らは必ず来ます。彼らを信じてください」
ガンデ、ダガベ、アディは離れの裏口に向かった。
「アディには、悪いが少しだけ怖い思いをさせるかもしれねえ。だが、必ずご主人様のところに送り届けてやるよ」
「期待しています。ガンデ、ダガベ」
ガンデとダガベは、アディに向かってうなずくと剣を抜いた。
「さて、派手にやるぞ。アディ、俺たちから離れるなよ」
「姉様を救え」編の始まりです。
が、早速ピンチです。
もし気に入っていただけましたら、ブクマや評価(★)していただけると励みになります!




