炎が鷲を焼き焦がさん
「筒が暗号解読の鍵にもなっていたというわけですか」
フェーンが、「よく気付きましたね」と言ってリリーメルを称賛する。彼女は頬を上気させて、胸を反らした。
「それで、何か分かりましたか」
「さっぱり分かりませんでした」
「え?」
「さっぱり分かりませんでした」
「……」
納品目録を筒に巻き付けると以下のように、約一〇文字ごとに一列に並ぶ。
「『四』番庫への納品目録。荷『の』搬入は、必ず今『月』末までに完了『の』こと。代金として金貨『十』枚、および銀貨『二』枚を支払う。期『日』」
こうして浮かび上がった全文が、
「四の月の十二日、若鷲が炎の門をくぐる。その翼下に紅き蜜を忍ばせり。さすれば炎が鷲を焼き焦がさん」
である。
思わせぶりな表現が羅列されている。
「四月十二日……三日後、ということでしょうか」とフェーン。
「残りは、気取っているだけの下手くそな詩ですね」と、リリーメルが眉をひそめる。
「若さに任せて作った駄作を恥じて、追い掛けてきた……」とアディが天を仰ぐ。
「気持ちは分からなくもないが……」とガンデが腕組みした。
一同は、ヘボい詩作が世に出てしまった気の毒な襲撃者を思って胸を痛めた。襲撃者たちは今頃、夜具の中に頭を突っ込んで足をバタバタさせているのかもしれない。
「いやいやいやいやいや、違うだろ。これも暗号じゃねえんですか?」
妙な雰囲気に一人だけのまれなかったダガベが叫んだ。
「暗号?」
「だって、意味が通らないなら暗号なんだろ? 貴族様が言ってたじゃねえっすか」
「そうか、暗号か」
「いささか身につまされて、襲撃者に寄り添ってしまいました」
「見せたくない詩の一つや二つ、誰にでもあるものね」
「やはりあなたは凄いサルね。もしかして人間の五歳児くらいの知能があるのかもしれない」
「ロレル、でかしたぞ」
「褒めてないのが混ざってますよね?」
暗号解読に進展があったと聞きつけて、ベデンズィードもやって来た。
「ほう、あの文にこのような仕掛けが……。なるほど、この残念な詩文を見られたくなかったということか」
「いえ、その話はもう終わりました」
「左様か」
ベデンズィードは人さし指で机を叩きながら、しばし黙考した。部屋に、彼の指から発するとんとんとんという音だけが響く。
「これは隠語あるいは暗喩ではあるまいか」
「隠語?」
「日付は極めて明確だ。つまり、既に文としては成立しているのだ。分かりにくい単語に置き換えているから理解できないだけで、単語を置き換えることができれば元の文になるのだろう」
「ふむ」と言いながら、リリーメルは自分の額をぺちぺちぺちとたたいた。
「隠語……暗喩……あ! この『紅き蜜』は、あの媚薬のことではないの?」
赤くて、甘ったるいニオイの液体。「蜜」には快楽から得る甘さも含まれるのかもしれない。
「四月十二日に媚薬を忍ばせろ。そうすれば何かが焼き焦がされる」
「それぽい意味が出てきたじゃねえか」
「この方向で、他の単語も考えてみましょう!」
リリーメルは、にこりと笑った。
「なるほど暗喩か……しからば、『鷲』は家紋ではないか? 鷲の家紋といえば、ケールファイン家。マイツァーデイン公だ」
「マイツァーデイン公!? エーメ姉様の輿入れ先じゃない!」
リリーメルの叫びにアディの直感が刺激される。
「『若鷲』というのは、一の姫様が嫁がれた嫡子カプテディーン伯を表しているのかもしれません」
「まさか……姉様の夫が関係しているというの!?」




