解読の第一歩
フェーンとガンデは、早朝から剣を交えていた。
ダガベも、上半身だけでできる修錬をこなしていた。
「朝っぱらから男の子は元気ねえ」
リリーメルは、アレナエリンと食卓を囲んでふふふと笑った。アディの熱は下がり、メリエリナと共に主人たちの世話をしている。
メリエリナは、微笑をたたえながらアレナエリンに食後の茶を差し出した。
彼女の眼差しを眺めていたアディは、脳裡に引っ掛かっていた違和感の正体にようやくたどり着いた。
――姫様を見るエーメレイア様の目にそっくりだ。
その気付きを起点にすると、色々気になる点がある。
アディは、退出するメリエリナの後を追った。
「メリエリナ様、香油をありがとうございました。やっとリリーメル様の御髪を整えることができました。アレナエリン様にもよろしくお伝えください」
「私なら主の髪の手入れをしたいと思うから、あなたもきっとそうだと思ったの」
「差し出がましいことは承知していますが、どうしても腑に落ちません。なぜ姉妹が主人と侍女に別れているのですか?」
「えっ?」
「アレナエリン様は、メリエリナ様の妹ではありませんか?」
「どうしてそのような、荒唐無稽な……」
「だって、お顔がそっくりではありませんか」
――そして、妹に向ける無償の愛情。あの目は主従のそれとは違う。
メリエリナは、表情を消して口をつぐんだ。だが、内心は激しく動揺していた。化粧などで、印象を変えるようにつとめてきた。貴族と侍女という身分差も先入観になって、二人を見比べようと考える者もいなかった。
言い当てられたのは、これが初めてである。いや、口には出さなかったが、二人の関係に気付いた節のある男が一人だけいたが。
アディという女性は、下手に誤魔化そうとすると追及をやめないという雰囲気がある。
――だが、話の分からない女性ではない。
メリエリナは、観念したというようにため息をついてほほ笑んだ。
「異父姉妹、です。私の父は平民。アレナエリン様の父は貴族。私は今の関係を大切に思っています。これでご理解いただけて?」
「あなたが不当に扱われているのではないのであれば、何も申し上げることはありません。余計な詮索でした」
「聡い侍女は嫌われますよ?」
「私も同じことをあなたに申し上げます」
アディとメリエリナは、くすりと笑った。
「ねえアディ、ちょっと来て!」
――あのような大声を出すとははしたない。
アディは眉をひそめつつ食堂に向かった。
「どうしたのです? あのような大声を出して」
小言を続けようとするアディの唇に、リリーメルは人さし指を押し当てて黙らせた。
「調子が戻ってきたのでしょう? 一緒に暗号を解読しましょう」
「……承知致しました」
「私はガンデやフェーンのように戦えない。せめて、襲われる原因は私が突きとめたいのです」
リリーメルはガサゴソと例の紙片を広げた。
――意味があるとは思えない文言。他に変な点は……。
「姫様、変ではありませんか? 例えばここ。文字と文字の間が不自然に開いています。ここは、中途半端なところで改行しています」
「ここも、変な開け方をしていますね」
「この文章が本当に暗号だとしたら、暗号として成立させるために開けた、開けざるを得なかったのでしょう。そうでなければ、不自然な要素は減らしたいはずです」
「だとすると……」
「この不自然な間も何らかの文字を表しているのか……」
「このままの状態で読むのではない、というのはどう?」
「このまま?」
「縦にするとか、どこかで紙を折るとか……」
リリーメルは、元からあった折れ目で紙を半分に畳むと、窓辺で日にすかしてみた。
「おお!」
「何か分かったのですか!?」
「太陽を直接見てしまった。目が、目が!」
リリーメルは紙を放り出して目を押さえた。
「うん?」
「今度は何ですか」
「この紙、丸まるクセがついてる」
「筒の中に入っていたのですから、当たり前でしょう」
「それは畳まれた状態で、でしょう? ほら、広げた状態でも自然な丸みが」
リリーメルは、「ふーむ」と言いながら紙をクルリと丸めて筒状にした。
「まさか」
彼女は、紙片と媚薬が入っていた木の筒に紙を巻き付けた。
少し調整すると、無意味な羅列にしか見えない文字たちの中に、意味のある一文が浮かび上がった。
アレナエリンとメリエリナの関係の詳細については
『居眠り卿と密室の死体と消えた小瓶』
https://ncode.syosetu.com/n2128lt/
をご参照ください。




