媚薬
「で?」
姫様は、眉間に深い皺を刻んで、形の良い眉をひそめ、口を尖らせた。せっかくの美貌が台無しである。
「『で?』とは?」
何が不満なのだろうか。
ああ、頭がくらくらして姫様のお考えが分からない。
熱がないときでさえ、意味不明なことが多いというのに。
姫様は、窓を開けると「もったいないもったいない」と言いつつろうそくを吹き消し、扉を開けて男たちを招き入れた。
ろうそくをケチるのは、伯爵の教えの賜物だ。我が主家は、贅沢を美徳としない。
部屋に入ってきた男たちは、何がどうなったのか分からず怪訝な顔をしている。
それはそうだろう。まだ少しぼう然としているアレナエリン様とメリエリナ、そしてろうそくを手にしたままうっすら得意げな顔の姫様。そしてぼんやりしている私。
どういう状況だ?
「結局、この薬は何なの? だから何? アイツらはこれをどうしたいの?」
姫様の疑問はもっともだ。襲撃の目的は依然として不明なのである。この薬を取り返したいということだろうか。
だが、アレナエリン様もこの薬についてはあまり知らされていないらしい。
私は、男たちにこの赤い液体の正体を端的に伝えた。
「毒薬らしいということしか分かりませんでした」
「『毒薬らしい』? 何だ、まだはっきりしねえのか。おいダガベ、飲め。毒薬かどうかそれで分かる」
「オイラやだよ!」
姫様は、形のいい顎に指を添えて首をかしげてから言った。
「そうね。ダガベ飲みなさい。伯爵家のお金で立派なお墓を作ってあげる」
「そんな!」
「冗談よ」
姫様たちのダガベいじりを見かねて、アレナエリン様が実に建設的な意見を出してくれた。
「あの、夫なら何か知っているかもしれません。ポセワイゼスの薬については、ブレンナーレ伯と共に調査しているので」
やって来たポーディレン卿は、机の上に置かれた赤い薬物を見た瞬間に顔色を変えた。
「そ、それは! 一体どこで?」
「リリーメル様は、これを拾ったために賊に付け狙われているのだそうです」
アレナエリン様の補足を聞いて眉をひそめるポーディレン卿に、姫様が問いを向けた。
「この薬はそれほど珍しいものなのですか?」
「確かに、簡単には入手できぬし高価ではある。街のごろつきどもならば、それくらいはするやもしれぬが……」
「私たちは、ウェスペンから追われ続けているのです」
「しかも馬と長剣を持った手練れだ」
ガンデが、フェーンの話を補足する。
「ウェスペンから!? それは尋常ではないな」
一同は「う~む」と唸った。
「ところで、これは本当に毒薬なのですか?」とフェーンがそもそもの疑問を口にした。
「いや、毒薬ではない。これは媚薬のようなものだ。少量をぶどう酒に混ぜて飲むと、淫靡な気分を高める。だが、大量に摂取すると死に至ることもあるらしい」
「ん?」「あっ!」
姫様と私には、思い当たる節があった。
「姫様、お酒はメルサート副伯に勧められたのでは?」
「そう、彼が杯を持ってきたの」
「だから様子がおかしかったのですね」
普段もうっすら変だから、薬のせいだとは思わなかった。ただ、そういえば姫様は、ぶどう酒を普段から嗜んでいて酒量もわきまえている。ぶどう酒を少しばかり飲んだ程度であれほど変にはならないだろう。
「えっ? 姫様はこの薬を飲んだことがあるのですか?」
フェーンが複雑な表情で姫様を見つめた。どうせ「淫靡な気分になっている姫様」を想像しているのだろう。ある意味、フェーンの期待通りの状態になった。「ヤル気」がやたらとみなぎって、侍女としては頭が痛くなる有様だった。
というか、熱が上がって本当に頭が痛くなってきた。
「フェーン、つまらないことを想像してはいけません」
姫様が珍しくまともなことを言いながら、筒を振ったりのぞき込んだりした。
「あら?」
姫様が素っ頓狂な声を上げた。
「まだ何か入ってる」




