広い背中
ガンデは、
「この先に、ブレンナーレ伯の一門の領地がある。そこまで行けばひとまず安全だろう」
と言って、先を急ぐことにした。さらなる襲撃を警戒しているのだろう。
姫様は、まだ君主状態の高揚感に満たされて機嫌良く歩いている。
フェーンは馬上のダガベと談笑していた。いつの間にか、気安く話す仲になったらしい。男同士で品のない話をしている。
私は……どうも調子がおかしかった。一〇年以上、感じたことのない感覚に襲われていた。何だかふわふわして、地に足が付いていない。ぞくぞくと悪寒がする。
視界が、周りから徐々に暗くなるのを感じた。首を振って、無理やり視界を回復させたら、くらくらしてよろけた。
自分の体が正常でないことは分かる。
だが、先を急ぐ一行の邪魔はできない。
歩かなければ。
歩かなければ。
歩かなけ……。
突然目の前が真っ暗になった。
もう、自分の体がどうなっているのかも分からない。
だめ……だ。
ドサッ。
「アディ、大丈夫か!?」
「え?」
「力が入ってないじゃないか!」
私は倒れたらしい。フェーンが受け止めてくれなかったら、地面に頭を打ちつ……。
「アディ! おい、アディ!」
「アディ、どうしたの!?」
姫さ……。
私はどうやら、フェーンに抱き抱えられているらしい。姫様にまで心配を掛けてしまった。
冷たいものが優しく頬に触れた。これは……手のひら?
「アディ、ひどい熱じゃない! こんなになるまでなぜ黙ってたの?」
「姫様、申しわ……」
「いいの。喋らないで」
「姫様、私が背負います」
「フェーン、お願い」
体がふわりと浮くのを感じた。フェーンの背中か……。
「そんな……自分で歩け……」
「おとなしくフェーンに背負われなさい。キルエルト伯の四女、ヴァル・サーディバル・リリーメルとしての命令です」
ほら、クセになってる……。
「申し訳ありません、フェーン」
「気にするな。甲冑より軽いくらいだ」
歩き出したフェーンの足取りは、私を背負っているというのに全く危なげない。背中も、思っていたよりも広い。
頼りないように見えて、やはり男性なのだな。
子供の頃、こうして父上に背負っていただ……。
「アディ、眠ってしまいましたね」
「フェーンがいてくれて助かりました。アディをよろしくね」
ダガベは、アディを起こさないように黙って手招きした。フェーンは彼の意図を察して、自分とアディの荷物を渡す。ダガベは、受け取った荷物を抱えるように鞍の前に載せた。
ガンデはその様子を最後尾で黙って見守り、「ふん」と笑った。
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