布陣
川で余計なものを拾ったせいで、面倒なことになりやがった。そもそも俺はお貴族様とは関わりたくねえ。それに、俺はそこそこ忙しい。そう、暇じゃねえんだ。
取りあえず、ガキどもの服を乾かして体力が戻るのを待ってから出発することになった。
そして、一歩も進まないうちから一悶着だ。面倒くせえ。
「ちょっと、あなた! ガンデ! 馬を姫様に譲りなさい!」
アディとかいう侍女が、キーキーわめいている。って、こいつまで俺をガンデと呼ぶのか。面倒だからどうでもいいが。
しばらく馬の上からやかましい女を眺めていたが、考えてみれば倍額払ってくれる上客を歩かせるのも確かに忍びない。ここは俺が大人になるとしよう。実際大人だしな。
俺は手を伸ばして、姫さんを俺の前に乗せてやろうとした。すると今度はフェーンが苦情を並べ立てた。
「貴殿が姫様のお体に密着するのはいかがなものか。ならば私が姫様と同乗する」
姫さんはともかく、何でお前が馬に乗るんだ。俺の馬だぞ。
「そりゃずるい。それならオイラが姫さんを乗せるぜ」
ロレル、てめえは一番違うだろ。殺すぞ。
「フェーン、あなたも姫様と同乗することは許可できません」
アディがさらに混ぜ返す。あー面倒くせえ。
お前ら、まだ一メルも進んでねえんだぞ。
「分かった。取りあえず黙れガキども。こうすりゃいいんだろ」
俺は馬から降りると、姫さんだけを鞍に乗せた。
「あんた、馬に乗れるか?」
「ええ、私専用の馬もいるのですよ」
姫さんは、そう言って手綱を自分で握った。さすがお貴族様といったところか。危なげないので、俺は手綱を離して姫さんに委ねた。
「大きい馬ですね。私の馬とは全然違う」
「まあ戦闘用の軍馬だからな。遠乗り用とは馬体が違う」
「でも従順で、乗り手を注意深く観察している。とても賢い子ね」
なるほど、単に頭がおかしいだけじゃねえってことか。
自慢の馬を褒められて、少しいい気分になった。そうなんだよ。俺の馬はでかいだけじゃなくて賢いんだよ。
「では姫様付の騎士として、私が姫様の脇をお守りします」
フェーンが馬の右側にすっと進み出た。右手が自由に動かせる側を自然に選んだか。ガキだが全く心得がないというわけではないらしい。剣も槍も持っていないから、あまり意味はないが。
すると、フェーンに張り合うようにロレルが左側に立った。
「じゃオイラが反対側に付くぜ」
お前、そこで剣を振り回したら姫さんに当たるぞ。まあ姫さんはともかく俺様の馬に傷を付けたら、殺す。
そこにアディが割って入った。
「ダガベは馬の前に行きなさい。敵が来たらあなたが姫様の盾になるのです」
「ひでえ!」
「姫様の代わりに切り刻まれるなら本望でしょう。さあ、早く前に回りなさい」
ダガベが剣を振るうとしたら、馬の前に立った方がいいのは確かだ。ヤツの能力を考えたら、盾代わりにするのが一番役に立ちそうでもある。
そうは考えなかったダガベが不平を垂れ始め、フェーンに「場所を替われ」などと言ってつかみかかっている。
ところで、一メルも進んでねえんだが。




