護衛と案内
リリーメルはしばらく考え込んだ後、ガンデに人さし指を突き付けて言い放った。
「ガンデ、あなたを雇います。私たちをキルエルト伯領まで送り届けなさい」
「ああ?」
「あなた、街道にも通じているようだし、護衛と案内両方できるじゃない。そうしましょう。決めました」
「勝手に決めるな。ガキどものお守りをしてる暇はねえ」
「雇うと言ったでしょう。仕事の話です」
「だから、暇じゃねえんだって」
「兄貴、いいじゃねえか。お姫様と旅ができるんだぜ!」
「てめえは黙ってろ!」
「相場の倍払います。それでもダメですか?」
「倍?」
ガンデもその提示額には心が動いた。
「では、フェーン、アディ。出発の支度を」
意気揚々と指揮を執るリリーメルに背を向けて、ダガベはガンデに小声で話しかけた。
「ちょうどいいじゃないか。キルエルト伯領なら通り道みたいなもんでしょ」
「だがな、ヤツは期日にはうるせえからな」
「どうにかなるって」
「てめえは姫さんとお近づきになりてえだけだろ」
「いいことがあるかもしれねえ」
「うるせえ。この色ガキが!」
ガンデに脳天を殴られて、ダガベはようやく口を閉ざした。
「ところで、この家の人たちにもお礼をしなければなりませんね」
リリーメルは人さし指を顎に当てて首をかしげた。ガンデたちにはキルエルト伯領に着いてからいくらでも報酬を渡せるが、この農家に戻ることはもうないのだ。
そして、平民に施しを受けて対価を与えないなど、貴族の沽券に関わる問題だった。
「この服と私の服を交換するというのはどう?」
リリーメルはぱんと手を打ち鳴らして農婦に提案した。
「姫様の服をもらっても困るがね。着る機会もないし、そもそも私の体じゃ入らないよ」
「確かにそうね」
リリーメルは農婦と自分の体を見較べて、得心したという風情でしみじみとうなずいた。
「失礼な姫さんだよ、全く」
「着られないなら、売ったらいいのでは?」
「平民が貴族の服をどうやって売るのさ。盗んだと思われて打ち首にされるよ」
すると、アディがガンデを見ながら口を開いた。
「ならば仕方がありません。立て替えておいてください」
「何? 俺が!?」
「私たちはお金になるものを持っていません。後でお返します」
「……仕方ねえな」
ガンデは懐から小銭入れを取り出すと、農夫に小銀貨を一〇枚渡した。それを見たダガベが仰天して跳び上がった。
「俺の五日分の賃金じゃないか!」
「うるせえな」
この当時、下級の傭兵の賃金は一日当たり小銀貨三枚。ダガベはまだ見習いなので小銀貨二枚しかもらえない。
「この服は動きやすくていいですね! これを買い取らせてください。ガンデ、よろしく」
リリーメルは当たり前のように支払いの追加を要求すると、農婦の粗末な服のまま腕をぐるぐると回した。野良仕事をすることを前提に仕立てた服なのだから、リリーメルたちが普段来ている服よりも動きやすいのは確かだ。
ただし麻なので肌触りは木綿や絹には劣る。物珍しさも手伝って、リリーメルはあまり気にならないようだった。
ガンデは、何やらぶつぶついいながら小銀貨を取り出した。




