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一目惚れ伯爵令嬢と下僕たち ~イケメンを探していたら陰謀を暴いてしまいました~  作者: 中里勇史
冒険の始まり

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11/27

ブーッ

 奥の部屋で人が動く気配がしてほどなく、農婦の服を着たリリーメルとアディが出てきた。


「あらフェーン、何でこんなところに居るの?」


 リリーメルとアディは、目を丸くして室内を見渡した。彼女たちは、取りあえずフェーンの隣に腰を下ろした。無意識に彼を頼ったことに、二人は気付いていない。


「我々は、この方に救っていただいたのです。オソン・ガンデルブ殿と、えーと、ロレル殿だ」

「ダガベン・ロレルだ」


 リリーメルはオソンとダガベンに向き直ると、姿勢を正した。


「我々をお救いいただいたとのこと。貴殿に感謝を。今は言葉のみであること、ご容赦いただきたい。いずれ形を持って酬いましょう」

「ほんの気紛れだ」


 オソンはそう言って、面白くなさそうに視線を外した。


「まあ……」


 リリーメルは、口元で両手のひらを合わせると、きらきらとした瞳でオソンを見つめた。

 アディがそれを見てぎょっとした顔をする。


「姫様?」

「刈り込んだ髪の毛。武骨だけど整ったお顔。盛り上がった筋肉。日焼けした肌。野卑な殿方も素敵」

「姫様?」

「野蛮に荒々しく蹂躙されるのも悪くないかも。アディもそう思わない?」

「ま、まあ、好いた殿方にされるなら、それもまた良きですね」

「きゃー」「きゃー」

「ちょっ、姫様? アディまで何言ってるんだ?」


 制止役のアディまで妙な状態になってしまい、フェーンは慌てた。

 オソンは怪訝な顔をした。二人の小娘が何を言っているのか理解できない。状況の変化に、混乱しかけている。


「ちょっと、二人とも。今はそういう場合ではないでしょう」

「フェーンは黙ってて。今はそういうときなの」


 リリーメルはぽわんとした表情でオソンを見つめた。耳まで真っ赤にして、視線が泳いでぐるぐる回っている。

 オソンは段々居心地が悪くなってきた。どうにも薄気味悪い雰囲気で、全身がムズムズする。

 リリーメルがずずいとオソンに近づく。オソンはずるずると後ろに下がった。

 リリーメルがぐいぐいとオソンに近づく。オソンはぞろりと後ろに下がった。が、壁が後退を阻む。

 退路を断たれた。

 困ったオソンは、放屁した。


「おっと、失礼」


 リリーメルの顔がスンと虚無になり、前進をやめた。

 リリーメルは、眉間に深い縦皺を刻みつつスルスルと後ろに下がっていった。


「ナイわー。ブーッて……ナイわー」

「姫様……」


 アディは、正常に戻ったリリーメルを見て一安心した。貴族令嬢の基準に照らすとさほど正常ではないのだが、リリーメルとしては正常の範囲内に収まった。


「ところでガンデ」

「ガ、ガンデ?」

「ガンデルブという名なのでしょう。長いからガンデにします。かわいいでしょう?」

「かわいい!?」


 リリーメルはロレルを見た。


ロレル(次男)といいましたか。ロレル……次男ではありふれていて面白くありませんね。ダガベンだからダガベにしましょう。そうしましょう。それがいい」

「一文字しか違わないじゃないですか!」

「何か不満?」

「いえ……別に」

「ところでガンデ。ここはどこですか?」

「だから農家だ」

「そうではなく」

「ブレンナーレ伯領の外れだ」

「ブレンナーレ伯領!?」「ブレンナーレ伯領!?」「ブレンナーレ伯領!?」


 三人は口をそろえて仰天した。キルエルト伯領とは全く別の方向に来てしまった。位置関係はおおよそ見当が付くが、キルエルト伯領への帰り道は全く分からない。


「そういえば、キルエルト伯の姫と家臣だと言っていたな。なぜキルエルト伯の者がブレンナーレ伯領で溺れてるんだ」

「我々はウグナペリン伯領からキルエルト伯領への帰路、宿場町の外れの川に転落したのです」

「ウグナペリン伯領からキルエルト伯領……ああ、ウェスペンって町がこの上流にあるな。随分流されたものだ」


 ――あの水温の中で、よく丸太にしがみつき続けられたものだ。


 リリーメルの小枝のような腕を眺めながら、ガンデは根性と悪運に感心した。



「面倒なことになった」

「どういう意味だ」

「あの入水姫(じゅすいひめ)、あの筒を握り締めていた」

「何だと? ってここから見えるのか」

「俺は遠目が利くんだよ」

「つまらない特技だな」

「だが役に立った」


 川沿いに馬を走らせてきた二人の男は、リリーメルたちがガンデに救出されているところを茂みから眺めていた。


「あの大男、傭兵だろう」

「一緒に流されたガキも甲冑を着ていたところを見ると騎士階級か。我々だけでは手出しできんな」

「二人じゃ手勢も呼べん」

「しばらく様子を見る。そのうち付け入る隙も出るだろう」

ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。

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