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一目惚れ伯爵令嬢と下僕たち ~イケメンを探していたら陰謀を暴いてしまいました~  作者: 中里勇史
冒険の始まり

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10/26

傭兵オソン

 三人は、意識はないが生きている。だが、このまま放っておいたら体温が下がり過ぎて死に至る。


「ん?」


 男は、貴族の娘が木の筒を握っていることに気付いた。何かの入れ物らしい。松脂で封がしてある。


 ――いや、これは後回しでいい。


「ロレル、どうだ」

「丸太しか流れてこねえ」

「もういい。あそこの農家に戻るぞ」


 男は、小麦の袋でも載せるかのように二人の女をどさりと馬に積んだ。鎖帷子を着た男は自ら背負い、馬の手綱を引いて歩き出す。


 昨夜宿泊した農家に三人を連れていった。濡れた服を脱がせて体を温める必要がある。女二人は農婦に任せ、自分は男の鎖帷子と服を脱がせることにした。


 ――あの貴族の娘の護衛係……。川に落ちた貴族の娘を追って、川に飛び込んだか。

 鎖帷子を着たまま。

 ふん。


「ロレル、こいつの体を拭いてやれ」

「あっちの部屋に姫さんたちいるのかな」

「だろうな」

「オイラ、服脱がすの手伝ってくる」

「てめえはこのガキの世話だ」


 男は、ロレルの頭を鷲掴みにして強引に座らせた。


「ぎゃぁあ、頭が頭が!」

「んくっ……」


 フェーンの口から声が漏れ出た。顔に赤みが差している。体温が上がって、体が機能し始めたのだろう。


「おい、小僧。分かるか。おい」

「うっ、くう……」

「オイラ、姫さんたちの方を……」

「てめえはじっとしてろ!」


 男の怒鳴り声に、フェーンが反応して目を開けた。


「ここは……」

「農家だ」

「……姫様。姫様は? 姫様が!」

「落ち着け。栗色の髪の、棒きれみたいな小娘のことか」

「そう、そうそうそう。それです」

「コイツ、主君をそれ呼ばわりしてるぜ」

「ロレルは黙ってろ」

「それで、姫様たちは?」

「向こうの部屋で、この家の女房が面倒見てる」

「何と!」


 フェーンは立ち上がると、二人が居るという部屋に飛び込んでいった。


「おい、小僧! 待て!」


 男は止めたが、間に合わなかった。


「アンタ、素っ裸で女の部屋に入ってくんじゃないよ!」


 農婦の怒鳴り声と、鈍い打撃音が鳴り響いた。

 股間を両手で隠しながら、フェーンが戻ってきた。


「な、なぜ私は裸なんです?」


 農婦に鍋を投げ付けられたのだという。右の鼻の穴から血をだらだらと流していた。


「だから待てと言っただろう。で、お前ら何者だ」


 男は顔をしかめながらボロ切れをフェーンに手渡した。フェーンはボロ切れを腰に巻きつつ床に腰を下ろした。


「私はソド・デルバーエル・フェーンエルと申す。キルエルト伯にお仕えし、四女リリーメル様の護衛を拝命している。リリーメル様が川に落ち、侍女と共に後を追ったものの、何もできませんでした。どうやら貴公に救われたようだ。礼を申し上げる」


 男は口をひん曲げてフェーンエルと名乗った小僧を眺めた。


 ――簡にして要。状況把握も早い。だが……。


「敵か味方かも分からん相手に情報を与え過ぎだ」

「すると貴公は敵……」

「敵でも味方でもねえよ。敵になるつもりもねえ。だが、話によっては味方になってやってもいい」

「傭兵か」

「ふん、聡いガキだ」

「ところで……」

「俺はオソン。オソン・ガンデルブ。コイツはロレルだ」

「オソン殿にロレル殿か。とにかく改めて礼を言う」


 そこに、農夫が服を持ってきた。フェーンは礼を言って農夫の服を着た。裸よりははるかにマシである。


「そうだ。これを返しておこう」


 オソンは、木製の筒をフェーンに手渡した。


「これは?」

「知らんのか。ご令嬢が握り締めていた」

「姫様が?」

「とにかく、返したからな。後で盗ったなどと言いがかりを付けられてはかなわぬ」

「承知した。では確かに私が受け取った」


 フェーンは、松脂で厳重に密閉された筒をしげしげと眺め続けた。


 ――松脂の状態は今日昨日のものではない。オソン殿は触れていない。だが、姫様がこんなものを持っているとは思えないが……。

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