傭兵オソン
三人は、意識はないが生きている。だが、このまま放っておいたら体温が下がり過ぎて死に至る。
「ん?」
男は、貴族の娘が木の筒を握っていることに気付いた。何かの入れ物らしい。松脂で封がしてある。
――いや、これは後回しでいい。
「ロレル、どうだ」
「丸太しか流れてこねえ」
「もういい。あそこの農家に戻るぞ」
男は、小麦の袋でも載せるかのように二人の女をどさりと馬に積んだ。鎖帷子を着た男は自ら背負い、馬の手綱を引いて歩き出す。
昨夜宿泊した農家に三人を連れていった。濡れた服を脱がせて体を温める必要がある。女二人は農婦に任せ、自分は男の鎖帷子と服を脱がせることにした。
――あの貴族の娘の護衛係……。川に落ちた貴族の娘を追って、川に飛び込んだか。
鎖帷子を着たまま。
ふん。
「ロレル、こいつの体を拭いてやれ」
「あっちの部屋に姫さんたちいるのかな」
「だろうな」
「オイラ、服脱がすの手伝ってくる」
「てめえはこのガキの世話だ」
男は、ロレルの頭を鷲掴みにして強引に座らせた。
「ぎゃぁあ、頭が頭が!」
「んくっ……」
フェーンの口から声が漏れ出た。顔に赤みが差している。体温が上がって、体が機能し始めたのだろう。
「おい、小僧。分かるか。おい」
「うっ、くう……」
「オイラ、姫さんたちの方を……」
「てめえはじっとしてろ!」
男の怒鳴り声に、フェーンが反応して目を開けた。
「ここは……」
「農家だ」
「……姫様。姫様は? 姫様が!」
「落ち着け。栗色の髪の、棒きれみたいな小娘のことか」
「そう、そうそうそう。それです」
「コイツ、主君をそれ呼ばわりしてるぜ」
「ロレルは黙ってろ」
「それで、姫様たちは?」
「向こうの部屋で、この家の女房が面倒見てる」
「何と!」
フェーンは立ち上がると、二人が居るという部屋に飛び込んでいった。
「おい、小僧! 待て!」
男は止めたが、間に合わなかった。
「アンタ、素っ裸で女の部屋に入ってくんじゃないよ!」
農婦の怒鳴り声と、鈍い打撃音が鳴り響いた。
股間を両手で隠しながら、フェーンが戻ってきた。
「な、なぜ私は裸なんです?」
農婦に鍋を投げ付けられたのだという。右の鼻の穴から血をだらだらと流していた。
「だから待てと言っただろう。で、お前ら何者だ」
男は顔をしかめながらボロ切れをフェーンに手渡した。フェーンはボロ切れを腰に巻きつつ床に腰を下ろした。
「私はソド・デルバーエル・フェーンエルと申す。キルエルト伯にお仕えし、四女リリーメル様の護衛を拝命している。リリーメル様が川に落ち、侍女と共に後を追ったものの、何もできませんでした。どうやら貴公に救われたようだ。礼を申し上げる」
男は口をひん曲げてフェーンエルと名乗った小僧を眺めた。
――簡にして要。状況把握も早い。だが……。
「敵か味方かも分からん相手に情報を与え過ぎだ」
「すると貴公は敵……」
「敵でも味方でもねえよ。敵になるつもりもねえ。だが、話によっては味方になってやってもいい」
「傭兵か」
「ふん、聡いガキだ」
「ところで……」
「俺はオソン。オソン・ガンデルブ。コイツはロレルだ」
「オソン殿にロレル殿か。とにかく改めて礼を言う」
そこに、農夫が服を持ってきた。フェーンは礼を言って農夫の服を着た。裸よりははるかにマシである。
「そうだ。これを返しておこう」
オソンは、木製の筒をフェーンに手渡した。
「これは?」
「知らんのか。ご令嬢が握り締めていた」
「姫様が?」
「とにかく、返したからな。後で盗ったなどと言いがかりを付けられてはかなわぬ」
「承知した。では確かに私が受け取った」
フェーンは、松脂で厳重に密閉された筒をしげしげと眺め続けた。
――松脂の状態は今日昨日のものではない。オソン殿は触れていない。だが、姫様がこんなものを持っているとは思えないが……。




