空挺団7
王太子レナードがロゴスに案内されて訓練場に着いた。
レナードの視線は自然とサンダリアを探してしまう。
だが、皆同じ制服の群れで、サンダリアを見つけられない。見分けがつくのは、正装姿のロゴスだけ。
「殿下、まずは主力部隊の第一班を視察ください」
ロゴスがスタックに目配せする。
「第一班班長を任されております、スタックです! いやあ、王太子殿下直々のお越し、実力披露の機会をいただきまして恐悦至極にございます!」
スタックがノリノリでレナードの視線を第一班に向けさせる。
貴族嫌いのスタックは、貴族最高峰の王族を謀れるのが嬉しいのだろう。
そのスタックの案内に、レナードも応じざるをえない。
視察の足先が、一番にサンダリアへ向いては体面が悪い。
王太子が空挺団まで視察に来て、公爵令嬢へ真っ先に向かうというのは。
空挺団の面目を潰す行為だ。
「殿下、ご存じかと思いますが、空挺団の活動では、落下傘を背負い、加えて攻防戦のための武器防具、陣地を作るための道具類、数日分の食料も装備してドラゴンに乗ります。総重量五十から六十キロになりましょう。ご覧ください」
スタック率いる第一班が全荷物を装着する。背中の落下傘、前には大荷物、脇鞄含め、かなりの見た目だ。
それが整列するとまさに壁。
奥のサンダリアは見えない。
「どうか、殿下もご体験ください」
「えっ!?」
思ってもいなかっただろう提案に、レナードが引いている。
「いやあ、冗談です。まあ、ただ女性一人ほど抱えている感じと言えば、実感できましょうか?」
これが、貴族から出た言葉なら、女性一人ぐらい抱えられないのか? との嫌みになる。
レナードの頬が引きつった。
「失礼のないようにお願いします」
レナードのお供が苦言を呈した。
レナードには側近三名が随行している。幼い頃からの従者と、警護担当の近衛だ。そして、もう一人が魔法使いだろう。ローブ姿で控えている。
スタックが言葉を発した従者に向く。
「お耳を汚しすみませんねえ、まさか冗談を本気に受け取られるとは思ってもおりませんでした」
「スタック」
スタックと従者が険悪な雰囲気になる前に、ロゴスが注意した。
スタックが軽く頭を下げる。
スタックと従者に視線が集まる中、レナードに魔法使いがコソッと何か囁いた。
瞬間、レナードの視線が訓練場の奥へ移る。
第一班の整列壁越し、団員らの肩と肩の隙間から遠く奥、ドラゴンが頭を下げ、小さな団員がその頭を撫でているのが見えた。
レナードが目を細めて、線の細い団員に注視する。
だが、一瞬でその姿は第三班の訓練行動で隠れた。
魔法使いがスッと下がる。
どうやら、魔法使いがサンダリアの居場所を魔法で探っていたようだ。
いわゆる、千里眼の魔法だろう。
レナードが訓練場を見回す。
「ドラゴンを見ても?」
レナードの足が一歩踏み出すより先に、ロゴスが第四班へ合図を出した。
「どうぞ、ご覧あれ」
ドラゴンたちが訓練場からいっせいに空に飛び立った。
レナード含め側近の視線は、上空へと移る。
空挺団の見事な連携である。
もちろん、サンダリアもギルバートと一緒に片目ドラゴンに乗り、上空へと飛び立った。
それも打ち合わせ済み。
上空に行けば、レナードにはサンダリアを目視できないから。
「第四班のデモンストレーションです」
ドラゴンから団員二名が飛び下りる。空中で落下傘を開いた。
ゆっくりと降下してくる。
「先ほど第一班が背負っていたリュックが落下傘になります」
ロゴスが説明すると、スタックが背中のリュックを下ろし、レナードに差し出した。
従者が眉間にしわを寄せる。
レナードに持たせようとするスタックの思惑にだろう。
そこで、近衛が進み出て、リュックを手に取った。
鍛練した近衛が持てぬはずはない。
「そこまで重くありません」
「でしょうね」
ロゴスが同意する。
「じゃあ、背負ってみてくださいよ」
スタックが挑発するように言った。
近衛はフッと笑ってリュックに腕を通……せない。
鎧が邪魔をするからだ。
そこで、鎧を脱ぎリュックを背負った。
「鎧がない分全然余裕です」
「でしょうね」
ロゴスがまた同意する。
そこで、スタックが落下傘以外の装備荷物を差し出した。
スタックの意図を察した近衛が、それらも装備する。
「まあ、動きづらさはありますが、言うほど大変ではっ! っ、何をする!?」
『大変ではない』と言う前に、スタックが拳を近衛に向けてきたのだ。
近衛が一歩後ずさると同時に体勢を崩した。
「落下した瞬間に、こうやって魔族や魔物から攻撃されるんです」
ロゴスがスタックの行動の意味を説明した。
「鎧なく大荷物で開いた落下傘を引きずって、いきなりの交戦となります。空挺団は落下後が本番ですから」
レナードがこの一連の行動に頷いた。
近衛も頷かざるをえない。
従者はフッと鼻を鳴らす。
「空挺団の予算はバカになりませんがね。落下するたびに補給しますから。大変だというなら、身軽にしてみては?」
従者が落下傘のリュックを一瞥する。
「俺らに落下傘だけで飛び下りろってのかよ!?」
従者の発言にスタックが噛みついた。
「落ち着け、スタック」
ロゴスがスタックを制する。
「補給で済むならいいのです。団員の命が失われるのに比べたら。失った命の補給はできません。団員は使い捨てじゃあありませんので。貴殿の……その程度の嫌みなら、いくらでも私が受け持ちますよ。ですが、命をかける団員に聞かせないでいただきたい!」
ロゴスが従者を睨んだ。
従者がグッと喉を詰まらせる。
「予算を減らすための粗探しが目的の視察に来たのですか?」
ロゴスがレナードに静かに訊いた。
「ロゴス団長、この者が失礼な発言をした。謝罪する」
レナードが謝った。
従者も頭を下げる。
「ここ最近、高貴な方々の狩り場を安全にするための任務が続いております。休憩場所やら野営設備まで空挺団が担っておりまして、補給品がなければ設営などできません」
ロゴスがレナードに最近立て続けに出動した任務を説明した。
「ああ、その報告は届いている。今まで安全だった狩り場が、魔物に侵されいると」
レナードが続ける。
「魔物の侵略をいち早く止めるため、空挺団に出動してもらっている」
大きな侵略になる前に止めておきたいからだ。
大きな侵略が続き群れが形成され、魔物の暴走まで起これば大事になる。
魔物に侵略された領域を奪い返すには多大な労力と時間がかかる。最初に潰しておくことが肝心なのだ。
「このところ、魔物の活動が活発ですからね。魔族が裏で操っているのでしょう」
「ああ、他国でも同じようだ」
ロゴスの発言にレナードが付け加えた。
「コヨンテ国は空挺団を有しており、他国に比べその侵略を抑制できている。今後、他国からの要請があるかもしれない」
「それで突然視察を?」
ロゴスが探りを入れた。
「まあ、そんなところだ」
レナードがまた訓練場を見やる。
第四班はレナードらとのやり取りの間に、訓練場に下り立っている。
「ご安心を。補給さえ続けていただけてば、全力を尽くし魔族、魔物の侵略を止めますので。では、本部屋敷の方へどうぞ」
ロゴス促した。
「いや、もう少し。確か、空挺団は第一班から第四班まであったと記憶している」
レナードが他の班も視察したい旨を告げた。
「何か、空挺団に不安要素でもあるのですか?」
普通なら、さっきまでの内容で、視察を終えてもいいはずだから。
あとは、それこそ予算のことだ。要望をくみ取ってもらうためのやりとりになるはず。
「いや、そうではないが」
レナードの視線がやはり訓練場を向く。
「第二班と第三班の様子も、それにドラゴンにも接してみたい」
レナードが今度こそ訓練場に一歩踏み出した。
流石にロゴスもレナードの行動を止めることはできない。
横並びで訓練場を歩く。
第三班の方へ迷いなく進んでいる。その先には第二班、そして、奥に片目ドラゴンとサンダリア、ギルバートがいる。
「彼らが第三班です」
ロゴスが案内した。
「入団試験に合格し、候補生として実践遠征を終えたばかり。今後、順次主力の第一班と第二班に振り分けられます」
「新人ということか」
レナードが期待を含んだ目で、第三班の面々を食い入るように見回す。
そこで、またローブの魔法使いがレナードにコソッと何か囁いた。
その瞬間、レナードの視線が第三班の奥へ向く。
ここまでの言動で、ロゴスは視察の目的がサンダリアにあると確信した。
空挺団視察は、体のいい建前にされたようだ、と。
スタックではないが腹立たしい気持ちが込み上げる。
「第二班は『新入り』の警護をしてます」
「そうか! 案内してくれ」
今までになく張りのいい声だった。
もう第三班には用はないと言わんばかりに、声かけさえしなかった。
ロゴスの腹奥に沸々と澱みができるが、平静を装いながら口にする。
「ドラゴンの『新入り』ですよ」と。
「え?」
レナードがホゲッとした声を出す。
「現状一番危険なドラゴンです。だから、主力第二班が周囲を固めています。いつ暴れ出すかわかりませんので。もちろん、王太子殿下を危険にさらすわけにはいきません」
ロゴスが今度こそ本部屋敷へと促す。
「危険な『新入り』ドラゴンに、『新入り』団員が接しているようですが」
レナードの背後に控えるローブの魔法使いが言った。
「魔法使い殿は、よーく視えるようですね」
ロゴスがニヤリと笑う。
「空挺団に例外は作りません。目的の『新入り』の方は空挺団の入団試験を合格しました。ドラゴンとの対峙耐性、ドラゴン飛翔で高度耐性、荷物を背負っての一刻走」
「サンダリア嬢に、そんなことを課したのか!?」
レナードが発した。
「視察目的はサンことサンダリアでしたか、殿下」
ロゴスがレナード含め側近三人を見据えて言った。
「命を張る空挺団の視察など、二の次だったのですね」
とんでもなく冷ややかにロゴスが続けた。
「ご、誤解をしないでいただきたい!」
レナードが狼狽えながら答えた。
その狼狽えこそが、答えだとわかる。
従者がレナードを庇うように、ロゴスの前に出る。
「空挺団の視察が第一目的です。第二の目的も同じく王命で配属された『新入り』に殿下から」
従者が振り向き、レナードに続きを促した。
レナードが頷く。
「私から直々に、空挺団の正装を手渡すためなのだ」
「……ご案内致します」
ロゴスはサンダリアに会わせるしかなくなった。
サンダリアは自分がご機嫌だとわかっている。
空挺団に来てまだ四日めだというのに、居心地の良さにびっくりしている。
自然の中より、人の中が良かったことなど一度だってないから。
「サン、名は決めたのか?」
隣のギルバートがサンダリアに訊いた。
「うん! ジュテ、にした」
「ジュテか……いいと思う。ドラゴンにお伺いを立ててみろ」
「わかった」
サンダリアは片目ドラゴンの前に立って、手を伸ばす。
「お前は、ジュテ。私に……空挺団に尽くしてほしい」
片目ドラゴンがゆっくりと頭を下げる。
サンダリアは片目ドラゴンの頭を撫でた。
グルルルゥゥとドラゴンの喉が鳴る。どうやら、気に入ったようだ。
「今日は、一緒にドラゴンに乗るからな」
ギルバートが念を押した。
昨日のあれが尾を引いているようだ。
「わかったよー。置いてかないよー。ぜってー離れないよー」
サンダリアはニヒッと笑う。
ギルバートがギロッと睨み返した。
そんなやりとりが、サンダリアをご機嫌にさせる。
ギルバートとのかけ合いは、心地よい。
今までの側仕えとは違う温もりがある。
ルデンヌ公爵が雇っていた側仕えでは、どうしても主従関係が先にあって、サンダリアを公爵令嬢として接するものだった。
その点、ギルバートは違う。
空挺団の面々も違う。
初見のように、どんなに嫌がられようが、小馬鹿にされようが、そっちの方がサンダリアにとって望ましかった。新鮮だったのだ。
公爵令嬢でなく、小娘と見られることが。
特にギルバートはサンダリアを小脇に抱えるほど距離感がない。
人の温もりを知った。
膨大な魔力のせいで、サンダリアは生まれてすぐに人と離されてしまったから、温もりの経験がないのだ。
母親にさえ抱かれた記憶はない。
物心つき、公爵邸へ月一で訪れるようになっても、皆がサンダリアを恐れていて触れ合おうとしなかったから。
側仕えでさえも、一度被害に合うと遠巻きにしていたし。辞めてはまた新たな者が入るの繰り返し。
その側仕えも、サンダリアが単独で外暮らしができる力がついてからはいなくなった。
「ギルはね、なーんか特別」
「な、なんだよ、いきなり」
サンダリアは思ったままを口にする。
「ジュテも特別」
サンダリアは片目ドラゴンーージュテを撫でる。
ジュテが乗れと言わんばかりに、サンダリアに頭を押しつける。
「ジュテ、待ってね。合図がきてからだよ」
と、そのとき、独特の視線を感じた。
「……ギル、傍に来て」
サンダリアの警戒する声に、ギルバートがすぐにサンダリアと距離をなくした。
「ジュテも」
サンダリアは、ギルバートとジュテを近くにしてから口を開く。
「魔法だわ、誰かが視てる。たぶん、千里眼」
ギルバートがすぐに周囲を警戒する。その反応に、第二班と第三班が動いた。
王太子レナードのサンダリアへの視界を奪う。
すると、すぐにロゴスからの合図が出た。
「サン、ジュテ、行くぞ」
ギルバートに促され、サンダリアはジュテに飛び乗る。ギルバートもサンダリアに続いた。
ジュテが一気に空へと羽ばたく。
「ジュテ、すごいわ!」
サンダリアはジュテを褒めた。昨日の荒れた飛翔でなく、水平を保つ安定感のあるものだった。
「サン、その調子だ、いいぞ」
ギルバートがドラゴンの扱いをサンダリアに教える。
耳元でギルバートの声が響く。
首筋が暖かい。いや、背中の温もりにサンダリアはフフッと笑みが漏れた。
「そろそろ、下りるぞ」
サンダリアはギルバートの指導の元、ジュテを降下させて訓練場に戻った。
ギルバートが視察一行の動きを確認している。
サンダリアは、第四班から事前に渡されていたご褒美の干し肉をジュテにあげた。
「サン、視察一行が動いた。……こっちに歩いてくるぞ」
「まだ、終わんないんだ」
サンダリアはこちらに向かってくる視察一行を目視する。
知っている顔ぶれだ。
レナードと側近三人。王城詣で三回全部に控えていたから。
その後の空挺団配属王命の現場にも。
「ああ……そのようだな」
ギルバートが険しい視線で視察一行を見ている。
「なんか、変だね」
第三班越しにロゴスの表情を覗う。ギルバート以上に険しく、鋭く、圧のある顔つきになっている。
瞬間、また独特の視線が這った。
「ギル、まただ」
サンダリアは小声でギルバートの腕を引っ張った。
ギルバートもすぐにサンダリアを視察一行から隠すように、ジュテの側面に促す。
ジュテの大きな体で、視察一行から見えなくなっただけでなく、周囲の第二班団員にも見えない死角に入った。
「なあ、サン……」
「ん?」
「訊いちゃいけねえかもしれねえが……」
ギルバートが言い淀む。
「何?」
サンダリアは言葉出しをあぐねているギルバートに小首を傾げた。
「そのー、だな。……なんで空挺団配属になった?」
ギルバートがやっと問うた。
「んっとね。王太子妃打診を断ったら、代わりに貴族としての役割を果たせって、空挺団配属王命を賜ったの!」
サンダリアは爽快にして軽快に答えた。
「即効で『ハイ、喜んで!』って答えたわ」
その躊躇ない発言と内容に、ギルバートが頭を抱えた。
とそこで、足音が近づく。
サンダリアとギルバートはジュテの死角から顔を出して確認する。
「あ、いた」
ハイクがやってきて、ギルバートの耳元に告げる。
「ロゴス団長がお呼びです」
「だろうな」
ギルバートが目を細めた。
サンダリアを真っ直ぐに見つめる王太子レナードの視線が確認できる。
「視察目的はやっぱサンか」
「正装を手渡すそうっすよ、王太子殿下直々に」
ハイクがニッと笑った。
サンダリアの入団が正式に決まったと思っているから。
「空挺団活動視察とサンに正装を授与するって目的だったみたいです」
ギルバートが首を横に振る。
サンダリアのさっきの発言から導けば、この正装授与は……コヨンテ国王の策だろう。
サンダリアには二つの王命が下された。
王太子妃か空挺団か。
これは最後の決断を迫るものだ。
救いの手と見るか、脅しと取るか。
「普通の貴族令嬢なら、正装は選ばない」
空挺団の正装は死装束だと陰では言われている。
「サン、行くぞ」
「ジュテも連れていっていい?」
サンダリアはどこまでもマイペースである。
ギルバートがフッと笑った。
「お前、普通の貴族令嬢じゃなくて、野生令嬢だったよな」と。
サンダリアはジュテを引き連れて、ロゴスのところに向かう。
「サンダリア嬢!」
誰よりも先に声を上げたのは、王太子レナードだ。
軽く手を挙げて応えておいた。
面倒くっさ、と思いながら。
ジュテに乗りたいのにさ、落下傘だってしてないし、こんな広い訓練場なら魔法陣だって展開できたのに、視察のせいで魔力使えないなんて、ほんっとーに迷惑、などと内心で不満たらたらである。
「こんちわー」
サンダリアは軽く挨拶した。
そのまま通り過ぎて行きそうなほど。
到底王太子に使うような言葉遣いではない。
ギルバート含め、周囲の団員らが唖然とする。
「あなたは、相変わらず失礼だ!」
従者がサンダリアを注意した。
「待て、いいんだ」
レナードが従者をなだめる。
「サンダリア嬢」
レナードがサンダリアに向く。
「あなたに、空挺団の正装を授与するために来た」
サンダリアはギルバートに視線を投げた。
ギルバートが憮然として立っている。
あんな機能的じゃない服いらないんだけどな、と思う。ドレスみたいで嫌いだ、とも。
仕立て直そう、そうしよう、とサンダリアは決めた。
「じゃあ、いただきまーす」
「本部屋敷に運んである。私との話の後で、授与しよう」
サンダリアは首を傾げた。
「話すことなんてないけど」
「私にはある」
レナードが手を差し出した。
サンダリアをエスコートするためだろう。
「ロゴス団長、サンダリア嬢と二人だけにしていただきたい」
ギルバートの両手がギュッと拳を作る。
周囲の団員もその要望には眉をひそめた。
「空挺団を預かる私も遠ざけるということでしょうか?」
ロゴスが言った。
「ああ。サンダリア嬢の本心を確認するには、二人だけが好ましい」
「本心とは?」
ロゴスが怪訝そうに訊く。
今、レナード側以外で、ギルバートしかサンダリアの空挺団配属の背景を知らない。
ギルバートがギリッと歯を噛み締める。
「初の女性空挺団配属、それも貴族令嬢だ。王命と言えど、彼女の意向を尊重したいのだ」
団員がいたら本心は言えないだろう、との言葉が隠されている。
「サンダリア嬢以外、下がれ!」
それは明確な命令だった。
王太子の命令に逆らえる者はいない。
皆、引かざるを得ない。
ギルバートが両手の拳を強く握ったまま、ロゴスとハイクと一緒にサンダリアから離れるしかなかった。
「サンダリア嬢、エスコートさせてほしい」
「嫌なんだけど」
やはり、サンダリアである。
その断りに、スカッとしたのは空挺団全員だろう。
「不敬にも程がある!」
従者が吠えた。
「だって、ほら。ジュテ(ドラゴン)の涎いっぱいの手なんだよ」
サンダリアは涎ダラベチャの手を従者に見せたかと思うと、その従者の肩をガシッと掴み、涎をなすりつける。
「何しやがる!」
「えー、公爵令嬢にその言葉遣いは、失礼にも程があるよねー」
「あっ」
従者の口を止めるには十分な発言だった。
サンダリアはレナードに向き直る。
「エスコートなんて要りません。だって、空挺団団員ですよ、私。誰かに支えてもらわなきゃ歩けない者が、空挺団団員だなんて、お笑い種だもん」
そのとおり過ぎて、レナードが差し出した手を口元にあて、クッと笑った。
サンダリアは思う。
手を預けるなら、ギルバートがいいと。
「確かに。では、ともに並んで行こうか」
「うん、その方がいい」
サンダリアはレナードとともに歩き出した。
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