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ドラゴン空挺団のお嬢様  作者: 桃巴


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2/10

空挺団2

「ギルバートだから、ギルでいい?」

「あん?」


 うわー、めっちゃ睨まれた。

 まあ、ピチ服で不機嫌なのはわかるけどさ。こっちに八つ当たりしないでよ。

 サンダリアは、ギルバートの詰襟に手を伸ばす。


「お、おい、何を……」


 ギルバートが後ずさる。


「詰襟外せばいいじゃん」

「そういうわけには」


「もう、父上いないよ」


 ギルバートが戸惑っている。

 サンダリアは躊躇なく一歩踏み出すと同時に、ギルバートの詰襟を解放してあげた。


「はい、これで苦しくないでしょ」

「ま、まあ……」


 ギルバートが解いた襟を触りながら、仏頂面でサンダリアを見下ろすが、耳が少し赤くなっている。

 サンダリアはパッと笑みを浮かべた。


「ギル、行こうよ」

「お前、その口調を改めろ。仮にも俺は上官だぞ」


「お前じゃなくて、サンって呼んでよ。じゃなくって、サンと呼んで遊ばせ? これで合ってる?」

「チッ」


 舌打ちされたーー!

 やっば、初っ端からまずったか!?

「やっば、初っ端からまずったか!? そだ、ピチ服は正装! ドレスの口調が正解?」


 声に出していたわけ。


「かしこまりましたわ」


 軽く膝まで折ってあげた。


「お前……チッ。もういい。サン、ついてこい」

「ほーい……じゃなくって、はい、上官!」


 ギルバートの冷ややかに細められた瞳に気づき、サンダリアは返事を改めた。


 ギルバートが踵を返す。


 サンダリアは大股歩きのギルバートについていく。普通の令嬢なら確実においてけぼりだが、動きやすい服装のサンダリアには問題ない。


「あれが、空挺団本部」


 離れた先にある建物をギルバートが指さす。

 いわゆる屋敷仕様の建物である。

 ここには、ドラゴン空挺団の基地しかない。


「その奥横が寄宿舎」


 サンダリアはギルバートの案内に頷く。

 本部屋敷とは外通路で繋がった細長い長方形の建物だ。均等に窓があり、内部はきっと同じ造りの部屋だろうとわかる。まさに寄宿舎だ。


「他の建物は倉庫」


 大小様々な倉庫群は、空挺団の装備品やら武器庫やらと思われる。


 ここまで、簡潔すぎる案内なのは、詳しくする必要がないと、ギルバートが思っているから。サンダリアが空挺団に長居することはないだろうからと。

 

「奥が訓練場」


 空気にのって、かすかに団員の声が聞こえてくる。


「本来なら、空挺団は入団試験をクリアしないと入団はできない決まりがある」


 ギルバートが冷たく言った。


「それなら、入団試験を受けますわ」

「フン」


 今、鼻で笑われた?

 サンダリアは、ギルバートの口元が嘲笑のように上がっているのを見た。

 いけ好かないオホホホ令嬢の顔に似てるな。と、サンダリアは思った。


「ならば、すぐにルデンヌ公を呼び戻した方がいいだろうなあ。おっと、失礼、口が滑ったようだ」


 その言い様もオホホホ令嬢っぽい、とサンダリアは思う。

 貴族的なあれ。

 不合格を暗に言い回したわけ。


「ケッ、遠回しなイヤーミかよ。あっ、と……失礼、お気遣い感謝致しますわ」


 サンダリアはそう言い返して、ギルバートの先を歩く。ギルバートがまた大股で、サンダリアを抜かす。

 サンダリアも負けてはいない。すぐにギルバートを追い抜かし……そうして二人は、負けじと先に進んだ。


 で、


 バリッ


 破裂音のようだった。

 その音に、サンダリアは歩を止める。ギルバートもその大股のまま固まる。

 ゆーっくりと、二人の視線が重なった。


 サンダリアはヒクヒクと頬を引きつらせながら、口を開く。


「ワタクシ、ナニモ、ミテナイデスヨー」


 見事なまでの棒読みであったが……、うん、私ってば素敵な言い回しができたわ。と、サンダリアは自身に言い聞かせた。


 ギルバートのピチ服が裂けたのだ……大股のせいでズボンが、パックリと。


「私、先に行きますわ」


 サンダリアは余裕の笑みを見せ、優雅に歩き出した。

 令嬢の歩幅というやつで。


「あらあ、てふてふがあー」


 などと視線をギルバートから避けて。


 ダダダダダダダー


 ギルバートが駆けていく足音をサンダリアは耳にした。

 きっと、正装から制服に着替えてくるはず。


「フフフ、貴族的言い回しも役に立つものね」


 そこで、本当に時間を費やしたなら、気遣い令嬢だろう。ギルバートもサンダリアが優雅に待っていると思っているはずだ。

 だが、サンダリアは違う。ニヤリと笑うと、本部屋敷に向かったパックリズボンのギルバートを追うように走り出したのだった。


 で、


「おい、コラ、待ちやがれーー」


 本部屋敷横を通り過ぎると、ギルバートの怒声がサンダリアに届くがどこ吹く風。

 

「ギル! なあにー?」


 サンダリアは本部に向かって手を振る。

 ギルバートがもぞもぞと動きながら、二階の窓から顔を出している。着替えているのだろう。

 あそこが、ギルバートの部屋か。とサンダリアは認識した。

 副団長ともなれば、寄宿舎でなく本部の部屋付きは当然だろう。


「先に行ってるって言ったじゃーん」


 サンダリアは嘘は言っていない。


「そ、こ、で、ま、てっ!」


 一言一句で区切ってギルバートが発した。

 サンダリアは両手を両耳に添え、コテンと首を傾げる。いわゆる聞こえないフリというやつである。

 両手の指をヒラヒラとさせる挑発ぶりまで披露して。


 ギルバートのこめかみにはきっと青筋を浮かんでいよう。


「あらぁー、てふてふがぁー、あっちにもぉー」


 独り言のような発言内容とは裏腹に、ギルバートに聞こえる声量だった。

 サンダリアは訓練場の方へと向かう。

 訓練場からハッキリと聞こえてくる野太い声と、背後からの鬼気迫る気配。


 サンダリアは訓練場を視界に入れた。

 となると、訓練場の者たちもサンダリアが視界に入る。


 一人だけ違ういわゆる上官服を纏った男がいち早くサンダリアに気づいた。

 眉間にシワを寄せ、鋭い視線をサンダリアに向けている。


 その視線に物怖じせず、サンダリアは足取り軽く訓練場に入った。


「誰だ!?」


 高圧的で重い声がサンダリアに放たれた。


「あんたこそ、誰だよ、ウグッ、ウゲッ」


 サンダリアは口元を押さえられ、かつ、胴体を抱えられた。小脇に抱えた手荷物のように。


「団長、失礼しました!」


 ギルバートが追いついたのだ。


「悪ガキのお守りも大変でして」


 サンダリアはジタバタと暴れる。

 しかし、ギルバートがガッチリとサンダリアを固定していた。


「……ああ、それが、あの?」


 信じられないと言わんばかりの視線が、サンダリアに向けられた。


「ルデンヌ公は?」

「お帰りになられました、残念ながら」


 嘘だろ? そう表情が物語っている。団長が目頭を抑えた。


「一報入れれば、すぐに駆けつけると。(たぶん、王命はそういうしつけ? なのかもしれません。ご覧のような令嬢らしからぬ令嬢ですから)」


 ギルバートが、そっと小声でつけ足した。


「なるほど、そうか……。だが、ギルバート、そろそろ解放しろ。公爵令嬢だぞ」


 ギルバートがハッとして、サンダリアの口元を押さえていた手を離した。

 それでも、小脇に抱えたままなのは、突拍子のない行動をするサンダリアへの警戒心からか。


「サンダリアですわ。サンと呼んで遊ばせ」


 小脇に抱えられながらの挨拶という奇妙な光景である。

 だが、サンダリアは気にも留めない。


「……団長のロゴスだ」


 空挺団団長のロゴスがサンダリアを細い目をして観察する。

 やはり、令嬢の男装は、目を引くのだろう。

 初見のギルバートと同じ視線だ。サンダリアは辟易した。


「団長、よろしくでーす。それで、入団試験を受けたいんですけど。ねえ、ギル、下ろしてよ」


 そこまで様子を窺っていた団員らが顔を見合わせている。


「ロゴス団長」


 団員の一人が声を上げた。

 説明を求めるものだろう。

 ロゴスが頷く。


「昨日、王命で新入りの配属が決まった。ルデンヌ公爵がご息女サンダリア嬢だ。異例中の異例だから、ギルバートに対応を任せることにした」


 ロゴスの視線がギルバートに移ると、全員がいっせいに小脇に抱えられたサンダリアへ向いた。

 サンダリアは下ろせとばかりに、ギルバートの腕を叩く。


 ギルバートが渋々サンダリアを下ろす。


「ご紹介にあずかりました、サンダリアですわ」


 サンダリアは団員らに膝を折る。


「どうか、サンと呼んでくださいまし」


 それはそれは丁寧に挨拶をした。

 横の存在(ギルバート)から、何やら不穏な雰囲気を感じるが、澄ました顔でやり過ごす。

 なぜ、こうも態度が自分(ギルバート)と違うんだ? との圧だろう。


「皆様と同じく入団試験を受けますわ」

「いい心がけだ」


 ロゴスが答えた。

 何やら含んでいる表情だ。無謀な挑戦への意気込みだけは認めるといった感じだろうか。

 それとも、ギルバート同様に不合格を予想してのものか。お子様相手の感じとも言おうか。


 つまりは、上から目線のあれ。

 王城でのあれこれと一緒だな、とサンダリアは感じている。

 だから、ニーッコリと笑ってみせた。


「ええ、王命に従うなんて『クソ喰らえ』ですものね!」


 それはそれは、爽快明瞭に言い切る。

 さてさて、初手からかましたサンダリアに、皆絶句した。


「クックックッ、ならば、試験に受からねば、入団を辞退してもらうぞ、お嬢ちゃん」


 王命クソ喰らえ発言で静まった場の中で、ロゴスが真っ先に口を開いた。

 その口調は、公爵令嬢に対するものではない。サンダリアの奔放な発言に合わせたようだ。


 サンダリアはニッと口角を上げる。


「ええ、もちろん!」


 ロゴスとギルバートが小さく頷く。

 言質は取ったと、二人は思っているのだろう。

 団員らもそこには気づいている。


 今までだって威勢のいい入団希望者はいたのだ。そういう奴に限って、ドラゴンをひと目見て腰を抜かしていたわけで。


 だから、この状況も世間知らずの鼻っ柱の高い公爵令嬢、そんな認識に違いない。


「まずは、ドラゴンをご覧いただこうか」


 ロゴスが言った。

 サンダリアは目を輝かせる。


「ギルバート」


 ロゴスがギルバートに目配せする。

 ギルバートがドラゴンを喚ぶのだろう。

 ギルバートが腰から下げていた龍笛を手に取る。笛といっても、吹いて鳴らすものでない。

 指輪のような輪っかが紐に通っており、それを振り回せば龍にだけ聴こえる鳴り物だ。

 振り方の違いで、ドラゴンへの指示になる。


「第一試験は簡単だ。ドラゴンに恐れ慄かないこと。基本中の基本だろ?」


 ロゴスが言った。

 内心、厄介事がこれで一発解決だと思っていよう。


 山から無数の飛翔体が向かってくる。

 サンダリアは空を見上げた。

 徐々に近づき大きくなっていく存在感に、サンダリアの胸は躍った。


 辺りが陰る。

 上空のそれらは、バサンバサンと翼を雄大に動かし、訓練場に着地した。

 数十体のドラゴンが訓練場にいる圧巻の光景である。


「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」


 サンダリアは喜声を上げた。

 だが、周囲は悲鳴だと思うわけ。


「大丈夫だ、落ち着け」


 ギルバートがサンダリアの背後で手を広げ構える。

 気を失うと判断しての対処だろう。


「ドラゴンちゃーーん!」


 サンダリアはドラゴン目がけてピューンと駆け出した。


 ギルバートのみならず、ロゴスも団員らもサンダリアのドラゴンへの突進に唖然とした。

 それも手を広げ、ドラゴンのボスへと真っしぐらだ。


「ギ、ギルバート、捕まえろ!」


 ロゴスが命じて、ギルバートがハッとする。

 すぐさま、全速力で追いかけサンダリアを捕獲すると、小脇に抱えて戻ってきた。


 サンダリアは不服そうに頬を膨らませる。


「せっかく、ドラゴンちゃんに会えたのにさ。勿体ぶっちゃって、やーね。減るもんじゃあるまいしー」

「俺の神経がすり減るんじゃ!」


「脆弱な神経ですこと」

「なんだとおっ!?」


「え、うっそー、聞こえなかったの?」

「聞こえとるに決まってんだろ!」


「あー、良かった。鼓膜まで、や、ぶ、れ、ちゃったかと、心配しちゃったわあ」

「破れ……お、お前、なあ」


 見事ギルバートの動揺を誘い、サンダリアはフフッと笑う。


「コホン。サン、第一試験は合格だ」


 そこで、ロゴスが割って入った。

 

「え? これで? ドラゴンと対峙もしてないのに? 咆哮ぐらい浴びせてもいいと思うけどなあ」


 サンダリアはロゴスに向かって薄ら笑いを浮かべて言った。


 ロゴスが作り笑いを顔に張り付けているものの、うーっすらこめかみに青筋が浮かんでいる。


「お嬢ちゃん、威勢のいいのはここまでだ。第二試験はドラゴン飛翔。高所が駄目な者は空挺団に入団できるわけがないだろ?」


 ドラゴンの背に乗り、高所から落下する落下傘部隊が空挺団だからである。

 腕っぷしが強く期待の持てる者でも、これで脱落することが多い。


「それこそ、基本中の基本ですわね。ねえ、ギル、そろそろ下ろしてよ」

「ギルバート、そのまま拘束して連れていけ」


 ロゴスが命じる。

 今度は下ろせとは言わないようだ。ここまでの言動で拘束必須と理解したのだろう。


「はっ」

「げっ」


 ギルバートの返事とサンダリアの声が重なった。


「なら、あの子がいい! ぜーったいに、あの子!」


 サンダリアはギルバートに小脇に抱えられてもまだ、自由になる口で主張した。


 あの子ーードラゴンのボスを指名したのだ。


「なぜ、あのドラゴンがいいと?」


 ロゴスがボスを指さしながら訊く。

 ボスだと知らないはずのサンダリアが、指名した理由を知りたいのだろう。


「あの子が一番魔力持ちのドラゴンでしょ? オーラが違うわ、すごく綺麗な虹色を纏っているもん」


 サンダリアはそのドラゴンをうっとり見ながら言った。

 ざわりとした空気が流れる。

 団員らの表情が、目が、真剣になる。


「……お嬢ちゃんは、魔力持ちか?」


 ロゴスが確認した。

 空挺団は、王城には幾度と魔力持ちーー魔法使いの派遣を依頼してきたが、叶っていない。


 空挺団入りを希望する奇特な魔法使いはいなかったわけ。

 魔力持ちーー魔法使いの貴族は、王家の庇護下に置かれるのがほとんど。

 ある意味、保障された生活から、空挺団という僻地生活を望む者はいないだろう。


 何より、入団試験をクリアできるほど、ドラゴンに物怖じせず背に乗り、活動できる肝の据わった魔法使いなどいないのだ。


「そ。魔力持ち生まれで、産声一発で屋敷の全窓ガラスを吹っ飛ばしたっていうらしいから、田舎で育てられたの。だから、私、最初っから外暮らしだったって。魔力調整できる物心つくまでは領内の人里離れた森で野営暮らし。本当に大自然で育った『野生令嬢』なんだ。あ、ヤベ、魔力のあれこれ、内緒だったんだった! ここだけの話ってことで、よろしくー」


 シーン


 ざわめきは霧散し、奇妙な静けさが漂っていた。


「ねえ、第二試験しないの?」


 サンダリアはおかしな雰囲気にキョトンとしながら訊く。


「入団を許可する。異議はないな?」


 ロゴスがギルバートと団員らを見回し視線で問うた。

 団員らの心は一致団結する。この逸材をみすみす手放すものか、と頷いた。

 魔力を視れる魔力持ちは珍しい。

 それだけでも、空挺団にとって手放したくない存在だ。


「異議ありあり! ()だあぁぁ、ドラゴンに乗せてよぉぉぉぉー、第二試験しよーよぉぉぉぉーー」


 ただ一人サンダリアを除いては。

 

 こうして、初見は終わったのだった。




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