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ドラゴン空挺団のお嬢様  作者: 桃巴


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1/9

空挺団1

 ()なこった。


 それが率直な感想。

 でも、そのまま告げるわけにはいかないよね?

 チラッと父上を見る。

 瞬き一つせずのガン飛ばし。

 うん、わかったよ、父上。


 私めサンダリアはそれなりの口調で陛下に返答するわ。


「お断り致しますわ」


 自分でもわかるほどの爽やかスマイルで、明瞭に言ったわ。


「……我の耳には聞こえなんだ。もしや、サンダリアの耳にも我の言葉がわからなかったのかもしれんな。再度言おうか。我が息子である王太子レナードを支え、国を慈しむ王太子妃になってもらいたい」

「お断り致します」


 間髪入れずの即答よ。

 本当は『ケッ、()なこった』て言いたいのを堪えるためにすかさず返答したのだけど、陛下ってお耳が遠いのかしら?


「サンダリアよ。何を話しているのか、わかっているのか?」


 コヨンテ国王がジッとサンダリアを見つめてくる。


 眼圧? 顔圧? かましてきますが、まあ、特に気にしませんけどぉ。


「はい。王太子妃になってもらいたいとの陛下の望みに、お断りの返答を致しましたわ」


 絶句、であーる。

 そりゃあそうだろう。望みと言えど、一国の王が口にしたことは、王命と他ならないわけで。それに背いちゃったわけで。

 王間は静かな時が流れた。


 サンダリアはコテンと小首を傾げる。


 なんだか、変な空気感だわ。

 うん、こういうときは確か『エヘ』と笑ってごまかすんだったっけ。


「エヘヘ」


「陛下、我が娘サンダリアは田舎生まれの田舎育ちでして、こういう場でもこの通りの、まあなんと言いましょうか、世間知らずでございます。つまり、王太子妃の任を全うできるような器ではないことが明らかでございましょう。早急に領地に引っ込ませます」


 父上、ナーイスアシスト。

 私、さっさと領地に戻りたいの。王命だからって、仕方なーく王城に参内しましたけれど、もうよろしいでしょ?

 超絶動きにくいボワンとしたヒーラヒラドレスだって我慢して着てさ、王太子と愉快な令嬢たちとの趣旨のよくわからない『お(ほほほ)会』に三回参加して、令嬢(オホホホ)話っていう拷問を終えたのだから、領地に帰らせてよ。


 父上とは王城に三回行って、問題を起こさなければ領地に即戻るって話だったから、私サンダリアはグッと我慢してたのに。


 広い庭園だったから、駆け回りたかったし、落とし穴とか掘ってみたかったし、魔力放出とか魔法陣展開しても面白かったかも。

 高い木に登ってイヤッホーしても楽しかったはず。


 それをグッと我慢したのは、ご褒美になんでも買ってくれるっていうからで。


「サンダリア嬢、なぜ?」


 今度は、王太子レナードか。


「総じて『嫌』だから」


 面倒くさくなって、短く答えたわ。

 父上が険しい眼を向けてくるけど、()なもんは嫌なんだって。これ以上言いようがないもん。


「総じて……か……」


 レナードがどんよりと呟いた。

 そりゃあ、総じてって全てひっくるめて嫌なわけだしね。


 王太子妃にも興味はねえ。

 王太子にも惹かれねえ。

 次期王妃にもなりたかねえ。

 玉座なんて要らねえ。

 権力もクソ喰らえ。

 諸々、総じてって言われちゃえば、攻めようもないでしょ。


 だいたい、会って三回しか経ってない田舎娘を王太子妃に所望するって、正気の沙汰じゃないって。

 オホホホ嬢たちの方が、乗り気だったじゃん。


 そこで、コヨンテ国王が玉座のひじ掛けをコツコツと指で叩きながら口を開く。


「サンダリアよ。君は貴族令嬢だ」

「はい」


「貴族というのは、国を支える存在だ」

「はい」


「王太子妃の任ができぬというなら、別の任務を果たしてもらわなければな」


 コヨンテ国王は口角を上げながらも、細い目をして言った。妙案を思いついた表情である。


「ルデンヌ公爵が娘サンダリアよ。『ドラゴン空挺団』へ配属とする。それが嫌なら」

「ハイ、喜んで!」


『それが嫌なら、王太子妃の話を受けることだな。アッハッハ』と悦に入ろうとした国王の口は、サンダリアのせっかちな返答で中座した。


「コ、コホン」


 サンダリアの父、ルデンヌ公爵が咳払いして、国王を一瞥した。

 本人(サンダリア)が了承したのだから、何か言葉がけをしなければいけないのが国王なのだ。


「……ん、んっ、まあ励め。うん」


 どうせ、三日も持たぬ、と国王は予想した。

 すぐに音を上げ『どうか、王太子妃にならせてくれ』とサンダリアの方から懇願してくるだろうと。


 当のサンダリアはというと……


『ラッキー』と心躍らせていた。

 なぜなら、ご褒美に欲しかったのは、パラグライダーだったから。





 コヨンテ国、ドラゴン空挺団。魔族、魔物はびこる敵陣に降下して、陣地を作る命知らずの落下傘部隊である。

 魔族の企みや、魔物が群れ化する兆候をいち早く察知して、即座に潰す役割も持つ。

 いわゆる先陣、初動を担う部隊になる。


 活動拠点ーー基地は、ドラゴンが棲む山を背にする開けた地にあり、王城から馬車で数日かかるほど離れた場所だ。

 だが、ドラゴンが飛翔すれば、王城まではあっという間だろう。


「ギルバート副団長!」

「なんだ?」


「団長がお呼びです!」

「ああ、わかった」


 訓練中に呼び出しとは珍しいな。

 ギルバートはすぐに支度をして、団長室へと向かった。


 コンコン


「失礼します。お呼びだと」

「ああ、そうだ」


「どうしました? すごく気難しい顔をしていますが」

「まあ……な。さっき、王城から知らせが入った。空挺団に新たにひとり配属される」


「配属? ちょっと、待ってください。ドラゴン空挺団は、入団試験をクリアしないと入れないはずでは?」

「そうなのだが……例外中の例外というやつだ」


「ドラゴン空挺団に例外は作らないはずです! どこぞのお貴族坊ちゃんの我が儘かは存じませんが、お断りするべきです。なんだったら、陛下にお伝えし」

「無理だ。その王命なんだ」


「王命!?」

「そうだ……これを」


 団長がギルバートに文を手渡す。


「……ルデンヌ公爵のご息女サンダリア?」

「お貴族嬢ちゃんだ」


「いやいやいやいや。冗談なら、もっとましなのにしてくださいよ」

「冗談じゃない、マジだ。それで、この嬢ちゃんのお守りをよろしくな、ギルバート」


「は?」

「ギルバートはドラゴン空挺団で唯一の高位貴族なんだから、頼んだぞ」


 ポンポンと肩を叩かれて、団長にニーッコリ笑みを向けられた。


「ちょ、待ってください! 頭が追いついてませんって!」

「どうせ、ドラゴンをひと目見て気を失うだろうよ。そん時に、ギルバート以外が嬢ちゃんに触れたら問題になってしまうわけ」


 わからないでもない。

 だからって、俺だって問題になるさ。触れた責任を取らされでもしたら……最悪なんだけど。


「音を上げて、早々に入団辞退するさ。いいか、傷ひとつつけられない。ちゃんとお守りしてくれよ。それで、問題なくお帰りいただこう」

「……わかりました」


 渋々だけど。

 ちょー()だけど。

 マジ勘弁してほしいけど!


「明日の午後、ルデンヌ公爵と一緒にやって来るから、出迎え諸々任せた」


 解せぬ。

 団長は悩みのタネをまるっとギルバートに押しつけて、スッキリした表情になっている。

 損な役回りだよな、副団長ってさ。

 ギルバートはブツブツと言いながら、退室したのだった。





 翌日、ルデンヌ家の馬車が到着した。


 で、来ちまったか……。

 ギルバートは詰襟を触る。首周りが少し苦しい。上着もズボンもパッツパツ。

 筋肉がついた分、正装がきつくなっている。相手は公爵家、正装でのお出迎えなのだ。

 サイズアップした物を作り直したいのはやまやまだが、ドラゴン空挺団で正装を着る機会なんて稀。こんな例外なことがない限り、着用するのは入団式と……殉死し棺に入るときぐらいだろうな、とギルバートは苦笑した。


 馬車の扉が開き恰幅のいい男が降りる。

 ギルバートは姿勢を正した。


「出迎えかな? すまないね」

「お待ちしておりました、ルデンヌ公。私はドラゴン空挺団副団長ギルバート・サモンズです」


「よろしく頼むよ」


 差し出されたルデンヌ公爵の手と握手した。


「サンダリア、出ておいで」


 ギルバートは馬車に視線を移す。

 エスコート必須だよな、公爵令嬢だし、と開けられた馬車の扉横で手を上げた。


「はーい!」


 勢いよくジャンプして出てきた女性の姿に、ギルバートは固まった。


 は?

 差し出した手は全く意味もなさず。


「あ、ああ……すまないね、ギルバート君」


 宙に浮いたギルバートの手を、ルデンヌ公爵がポンポンと労う。


 俺の手……虚しいじゃねえかよ。なんとか笑みを作るが、引きつっていることだろう。


「……はい」


 ギルバートは手を引っ込めて、ルデンヌ公爵と視線を交わした。


「紹介しよう。我が娘サンダリアだ。気兼ねなくサンと呼んでやってくれ。まあ、見ての通りのお転婆……いや、じゃじゃ馬? 違うな、珍獣ともいえるか? そんな優しいもんじゃない。風変わりな破天荒ちゃんかな。ちゃんと手綱を引いておかなきゃ、何をしでかすか……」


 ルデンヌ公爵が若干遠い目になる。


「は、はあ……」


 ギルバートはサンダリアを見た。

 令嬢らしからぬ姿である。

 いわゆる男装というやつだ。だが、通常の貴族風男装とは違う。華美さは全くない。


 ゆとりのあるズボンで、左右太もも部に大きめの四角いポケットあり。腰回りの幅を広くしたハイウエストで、裾はきっちりとハーフブーツに入れ込んでいる。 

 上半身は装飾が全くない簡易な長袖。

 指だけ出したグローブも特注だろう。手の甲側にはルデンヌ公爵家の家紋入り。

 髪は一纏めにしたポニーテール。


 動きやすさが一見でわかるスタイルだった。


 ……俺の正装が反対に浮いてるじゃーん、とギルバートは思っていた。


 とそこで、そのサンダリアが口を開く。


「はあ……、ピチ服が制服なのか……ヤダな。こんなの、締め付けドレスと変わんないじゃん」


 ギルバート同様にサンダリアもギルバートを観察していたわけ。


「活動的じゃないよね。機能的にも思えないし」

「ピチ服じゃねえ、正装だ! 制服は別にあるに決まってるだろ! あ、っと」


 ギルバートは思わず反応していた。

 野郎ばかりの空挺団では通常反応である。がしかし、相手は公爵令嬢だとすぐに気づき、グッと喉を抑えた。


 いや、だいたいサンダリアの出で立ちや口調が令嬢のものでないから、ギルバートは口が滑ったのだろう。


「これこれ、サンや。私(公爵)を出迎えるから正装なのだよ。貴族とはそういう礼節が基本だしね。それこそサンだって口にしたように、陛下と王太子殿下の前でドレス着たでしょ」

「なるほど、このピチ服はドレス。納得よ。大変ね、ギルバート」


 なんで、同情されてんの、俺。哀れんだようなサンダリアの視線に、ギルバートはヒクヒクと頬を引きつらせる。


「すまないね、ギルバート君。この通り、サンは疎い。田舎育ちの『野生令嬢』でねえ。貴族的感覚を持ち合わせていないのだよ」

「……野生令嬢」


 ルデンヌ公爵から紡がれたパワーワードに、ギルバートは思わず復唱する。


「そうそう。養殖オホホホ令嬢じゃないんだ」

「養殖……オホホホ……?」


 ギルバートはまたも復唱した。

 つまり、田舎で好き勝手わがままに育てられた手のかかる令嬢ってことかよ!? と、ギルバートは察する。

 これは、さっさとお帰りいただく案件だと、ギルバートは判断した。元よりその予定であるが。


「ギルバート君、サンはそんじょそこらの令嬢とはひと味もふた味も違うから、煮るなり焼くなり、好きなようにやってくれ給え。ま、じゃ、そういうことで」


 そう言って、ルデンヌ公爵が馬車の手すりに手をかけた。


「サン、ギルバート君に迷惑をかけないように頑張りなさい」

「うん、了解!」


 令嬢らしからぬ調子のいい返事をサンダリアが返した。

 それで焦ったのはギルバートだ。


「ちょちょちょちょ、ちょっと、待ってください!」

「何かね?」


 馬車に乗り込む寸前のルデンヌ公爵が振り返る。


「いや、お帰りにならないでいただけませんか。せっかくなので、ドラゴン空挺団を見学してはどうかと」


 ギルバートはサンダリアを軽く一瞥してから、ルデンヌ公爵に近寄る。


『ドラゴン一目失神には、お帰りの馬車が必要になりましょう』


 コソッとルデンヌ公爵の耳元にギルバートが告げた。


「ないない、絶対ない」


 ルデンヌ公爵が首を横に振って言った。ギルバートの発言など意に介さずに、馬車に乗り込む。


「いや、ですが!」


 ギルバートが必死に留めようとするが、馬車の扉は閉まる。


「大丈夫、大丈夫。手に負えないなら、一報くれたまえ。すぐに駆けつけるから。じゃあね」


 窓から顔を出したルデンヌ公爵が、ギルバートをなだめるように言った。


「ちょ、え、あっ……待っ……」


 ルデンヌ公爵を乗せた馬車は、去っていく。


「父上ーー、バイバーイ!」


 サンダリアの令嬢らしからぬ見送りを横目に、ギルバートは頭を抱えそうになるのだった。






(1/14)

完結読みしたい読者様、二週間後に再来くださいませ。

追っていただける読者様、二週間よろしくお願いします。


桃巴。

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