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ドラゴン空挺団のお嬢様  作者: 桃巴


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14/16

空挺団14

「……マジかよ」

「ウフフ」


 転移魔法に衝撃を受けているギルバートに、サンダリアは笑う。

 そのサンダリアにジュテが鼻先を寄せる。


「くすぐったいわ」


 サンダリアはジュテの顔を両手で包んだ。

 両目が揃ったジュテを。


「綺麗な瞳」


 金色の双眼がサンダリアをジッと見ている。


「ジュテ、良かったな」


 ギルバートもサンダリアに寄り添って、ジュテに手を伸ばした。

 ジュテがより一層頭を下げる。

 さっさと乗れと言わんばかりに。


 サンダリアとギルバートは頷き合う。


「帰ろう、空挺団に」

「ああ、帰ろう。皆、待ってるぞ」


 ギルバートが手慣れた感じでサンダリアを抱え、ジュテに乗った。

 ジュテが翼を一振りしながら、丘から飛び立つ。

 それは、サンダリアがハンググライダーで飛び出したときの景色と同じなのに、背中の温もりが特別な時間に変えていた。


 この景色を誰かと一緒に眺めることが、こんなにも心躍るものなのか、とサンダリアは心地よい。

 心地よい以外に言い表す言葉を知らない。


「……ふ、ふぁ」


 心地よすぎて、あくびが出た。


「浄化で疲れたんだろ? 寝てていいぞ」

「うん……そうする……」


 サンダリアは背中をギルバートに預けた。

 ギルバートの筋肉質の腕と胸がサンダリアをしっかり包み込む。

 サンダリアはその安心感に、小さく息を吐き出すとフッと力が抜けた。


 頬を撫でる風と、背中の温もり、サンダリアはスーッと眠りについた。




 落ち着いたのに落ち着かない。

 やっと、サンダリアを捉えホッとした感情と、ドクンドクンと胸が主張する矛盾に戸惑う。

 だが、戸惑っているのに……心地よい。


 サンダリアという存在がギルバートに与えた何か。

 明確な言葉はまだ要らない。

 ギルバートは、少しだけ腕に力を込めた。


 一週間以上離れていた温もりがそこにある。


「サン」


 名を呼んだ。

 反応はない。スースーと気持ち良さそうに寝ている。

 ……ギルバートの胸の中で、ギルバートの片腕の中で。


 首元にはギルバートが作った龍笛がかかっている。


『君はサンダリアを纏い、サンダリアは君をつけている』


 イシルヴェの言葉が頭に浮かぶ。


「サンが制服になれば……」


 サンダリアもギルバートを纏う。サンダリアの制服は元々ギルバートのお古だから。

 その思考は男の浪漫だよな……。


「何、考えてんだ、俺」


 ギルバートは頭を振る。


「ってか、お前さあ……男の腕の中で、安心しすぎだろ」


 ギルバートは呟いた。

 モゾッとサンダリアが動く。

 ギルバートの袖をギュッと握って『ギル』と漏らした。


 その破壊力たるや、ギルバートは大きな深呼吸を余儀なくされる。

 ギルバートは深呼吸後、グッと腹に力を込めた。

 その瞳に……覚悟が宿る。


「ぜってー離れねえ」


 今はこの言葉が全てだ。

 他は考えるな。


 ギルバートはサンダリアの漏らした寝言に、そう応じたのだった。




 空挺団にいつもの朝が訪れる。


「どぉーっこ、行きやがったああぁぁーー!」


 ギルバートはダッダッダッと階段を上り下りする。

 隣室にサンダリアがいないから。


「ギルバート副団長!」


 当直が声をかける。


「サン嬢は訓練場でジュテに包まって寝ています!」

「はあっ!?」


 ギルバートは訓練場へ駆け出す。


「守り役はジュテに譲ったのか、ギルバート?」


 本部屋敷を出てすぐに、井戸で顔を洗っているロゴスに声をかけられる。


「お、れ、が、サンの守り役です!」


 ロゴスが肩をすくめる。


「ブッハッ、ドラゴンと張り合ってやんの」


 そんなロゴスに言い返す言葉なく、ギルバートは訓練場に走っていく。


 訓練場の中央を陣取って、ジュテが丸まって寝ている。

 ジュテは自由気ままなドラゴンだ。


 空挺団のドラゴンは棲み家の山や、山の麓の世話場に落ち着くのだが、サンダリアが空挺団に来てから、ジュテだけは訓練場に身を置いていることが多い。

 サンダリアと離れたくないようだ。


 そのあたりも、ギルバートとジュテは似ているのかもしれない。


 離さない、じゃない。

 離れない、だ。


 サンダリアを離さず留めることなんて不可能だから。そんな窮屈なことをサンダリアに求めていない。


 だから、ぜってー離れねえ。


 ギルバートはジュテに駆け寄った。

 ジュテの翼に包まれて、サンダリアは寝ている。


「ったく」


 ギルバートはフッと息を吐き出す。

 目が離せないとはこのことか、と。

 いっそのこと、寄宿舎のように同室にしたい気分だ。


「……いや、俺が無理か。起きろ、サン」


 ギルバートはサンダリアの肩を軽く揺する。


「ぅ……んっ……」


 ギルバートはスッとサンダリアの口元に手を添えるが、特に魔力の影響はなかった。

 浄化を終えた昨日の今日だから、当たり前か。ギルバートはその手で、サンダリアの顔にかかった髪を掬った。


「起きろよ、お嬢様」

「……ふふ」


 サンダリアが笑った。


「チッ、狸寝入りかよ」

「お嬢様は抱っこを要求します」


「ああん!? 都合のいいお嬢様だな、おい」


 ギルバートはそう言いながらも、サンダリアを抱える。

 それに合わせて、ジュテが翼をたたんだ。


 ギルバートはサンダリアを抱えて立ち上がる。


「うん。ギル……ううん、ギルバート・サモンズ」


 ギルバートがお嬢様と呼んだからだろう。

 ギルバートもサンダリアのそれに応える。


「なんだよ、サンダリア・ルデンヌ」


 二人の視線は自然と交わった。

 

「私、サンダリア・ルデンヌはギルバート・サモンズから『ぜってー離れねえ』からご覚悟あそばせ。ふふ」

「っ! 望むところだ」


 貴族名としても。

 ドラゴン空挺団団員としても。


 サンダリアが求めたものに、ギルバートは応える。


「ドラゴン空挺団のお嬢様の仰せのままに」と。


 心地よい風が吹いていた。




(14/14)


心地よく完結。

おまけ2話あります。

本日中公開予定。

もう少しお付き合いくださいませ。

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