空挺団14
「……マジかよ」
「ウフフ」
転移魔法に衝撃を受けているギルバートに、サンダリアは笑う。
そのサンダリアにジュテが鼻先を寄せる。
「くすぐったいわ」
サンダリアはジュテの顔を両手で包んだ。
両目が揃ったジュテを。
「綺麗な瞳」
金色の双眼がサンダリアをジッと見ている。
「ジュテ、良かったな」
ギルバートもサンダリアに寄り添って、ジュテに手を伸ばした。
ジュテがより一層頭を下げる。
さっさと乗れと言わんばかりに。
サンダリアとギルバートは頷き合う。
「帰ろう、空挺団に」
「ああ、帰ろう。皆、待ってるぞ」
ギルバートが手慣れた感じでサンダリアを抱え、ジュテに乗った。
ジュテが翼を一振りしながら、丘から飛び立つ。
それは、サンダリアがハンググライダーで飛び出したときの景色と同じなのに、背中の温もりが特別な時間に変えていた。
この景色を誰かと一緒に眺めることが、こんなにも心躍るものなのか、とサンダリアは心地よい。
心地よい以外に言い表す言葉を知らない。
「……ふ、ふぁ」
心地よすぎて、あくびが出た。
「浄化で疲れたんだろ? 寝てていいぞ」
「うん……そうする……」
サンダリアは背中をギルバートに預けた。
ギルバートの筋肉質の腕と胸がサンダリアをしっかり包み込む。
サンダリアはその安心感に、小さく息を吐き出すとフッと力が抜けた。
頬を撫でる風と、背中の温もり、サンダリアはスーッと眠りについた。
落ち着いたのに落ち着かない。
やっと、サンダリアを捉えホッとした感情と、ドクンドクンと胸が主張する矛盾に戸惑う。
だが、戸惑っているのに……心地よい。
サンダリアという存在がギルバートに与えた何か。
明確な言葉はまだ要らない。
ギルバートは、少しだけ腕に力を込めた。
一週間以上離れていた温もりがそこにある。
「サン」
名を呼んだ。
反応はない。スースーと気持ち良さそうに寝ている。
……ギルバートの胸の中で、ギルバートの片腕の中で。
首元にはギルバートが作った龍笛がかかっている。
『君はサンダリアを纏い、サンダリアは君をつけている』
イシルヴェの言葉が頭に浮かぶ。
「サンが制服になれば……」
サンダリアもギルバートを纏う。サンダリアの制服は元々ギルバートのお古だから。
その思考は男の浪漫だよな……。
「何、考えてんだ、俺」
ギルバートは頭を振る。
「ってか、お前さあ……男の腕の中で、安心しすぎだろ」
ギルバートは呟いた。
モゾッとサンダリアが動く。
ギルバートの袖をギュッと握って『ギル』と漏らした。
その破壊力たるや、ギルバートは大きな深呼吸を余儀なくされる。
ギルバートは深呼吸後、グッと腹に力を込めた。
その瞳に……覚悟が宿る。
「ぜってー離れねえ」
今はこの言葉が全てだ。
他は考えるな。
ギルバートはサンダリアの漏らした寝言に、そう応じたのだった。
空挺団にいつもの朝が訪れる。
「どぉーっこ、行きやがったああぁぁーー!」
ギルバートはダッダッダッと階段を上り下りする。
隣室にサンダリアがいないから。
「ギルバート副団長!」
当直が声をかける。
「サン嬢は訓練場でジュテに包まって寝ています!」
「はあっ!?」
ギルバートは訓練場へ駆け出す。
「守り役はジュテに譲ったのか、ギルバート?」
本部屋敷を出てすぐに、井戸で顔を洗っているロゴスに声をかけられる。
「お、れ、が、サンの守り役です!」
ロゴスが肩をすくめる。
「ブッハッ、ドラゴンと張り合ってやんの」
そんなロゴスに言い返す言葉なく、ギルバートは訓練場に走っていく。
訓練場の中央を陣取って、ジュテが丸まって寝ている。
ジュテは自由気ままなドラゴンだ。
空挺団のドラゴンは棲み家の山や、山の麓の世話場に落ち着くのだが、サンダリアが空挺団に来てから、ジュテだけは訓練場に身を置いていることが多い。
サンダリアと離れたくないようだ。
そのあたりも、ギルバートとジュテは似ているのかもしれない。
離さない、じゃない。
離れない、だ。
サンダリアを離さず留めることなんて不可能だから。そんな窮屈なことをサンダリアに求めていない。
だから、ぜってー離れねえ。
ギルバートはジュテに駆け寄った。
ジュテの翼に包まれて、サンダリアは寝ている。
「ったく」
ギルバートはフッと息を吐き出す。
目が離せないとはこのことか、と。
いっそのこと、寄宿舎のように同室にしたい気分だ。
「……いや、俺が無理か。起きろ、サン」
ギルバートはサンダリアの肩を軽く揺する。
「ぅ……んっ……」
ギルバートはスッとサンダリアの口元に手を添えるが、特に魔力の影響はなかった。
浄化を終えた昨日の今日だから、当たり前か。ギルバートはその手で、サンダリアの顔にかかった髪を掬った。
「起きろよ、お嬢様」
「……ふふ」
サンダリアが笑った。
「チッ、狸寝入りかよ」
「お嬢様は抱っこを要求します」
「ああん!? 都合のいいお嬢様だな、おい」
ギルバートはそう言いながらも、サンダリアを抱える。
それに合わせて、ジュテが翼をたたんだ。
ギルバートはサンダリアを抱えて立ち上がる。
「うん。ギル……ううん、ギルバート・サモンズ」
ギルバートがお嬢様と呼んだからだろう。
ギルバートもサンダリアのそれに応える。
「なんだよ、サンダリア・ルデンヌ」
二人の視線は自然と交わった。
「私、サンダリア・ルデンヌはギルバート・サモンズから『ぜってー離れねえ』からご覚悟あそばせ。ふふ」
「っ! 望むところだ」
貴族名としても。
ドラゴン空挺団団員としても。
サンダリアが求めたものに、ギルバートは応える。
「ドラゴン空挺団のお嬢様の仰せのままに」と。
心地よい風が吹いていた。
(14/14)
心地よく完結。
おまけ2話あります。
本日中公開予定。
もう少しお付き合いくださいませ。




