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朝は寝させろ

 朝、ドアを開けるとそれと同時に隣の部屋も開いた。そこから出てきたのはフェアロ。暗い顔、いやそんなものではなく、何か複雑でそこ知れぬ闇を感じさせる顔をしている。だが、僕に気づくとフェアロは何事もなかったように、笑顔を作った。


「おお、見事に被ったね」


「あ、うん」


 すると、一緒に登校する流れになってしまったので、しぶしぶながらフェアロの跡を追う。一緒に登校かぁ、どうせなら女の子としたかったな。まず、男と登校して何になるのって話だよね。


 フェアロが僕の隣に来るように歩くペースを落としたので、僕もそれに合わせてペースを落とす。そこで違和感に気づいたフェアロは立ち止まって振り返った。


「なんでそんな離れるのさ」


「これが僕のパーソナルスペースなんだ」


「なにそれっ」


 フェアロは一瞬戸惑ったような顔をすると、笑い始めた。パーソナルスペースって伝わったのか、これ? それともよく分からなくて笑ってるだけ?


「いやー、やっぱりミノルくんは面白いね」


 流れてはいないが、涙を拭くような動作をするフェアロ。だが、その目の奥は笑っているようには見えなかった。なんだこいつ、作り笑いのプロですか。陽キャ業界の必須技術だからか? それにしては異質すぎるけど。


「そうか?」


「うん。いつも予想外の返答が来るからさ」


 まあ、僕はこの世界でいう異世界人だし。この世界の人々にとって少し変な行動や、言動は多いのかも知れないな。世界によって考え方とかも全然違うだろうし。どこかには人殺しが正義の世界もあるだろう。結局のところは正解はないから、日本の常識なんてものは通用しないことも多い。


「おはよう!」


「おはよー」


 僕は教室に足を踏み入れる。自然と視線が僕の方に集まるが、今日はフェアロが居るからか、その視線の数も多かった。やっぱりフェアロ人気なんだね。この世界ではあんな珍しくないんだけど、黒髪だし、それにイケメンだ。


 黒髪が多いのは嬉しいんだけど、僕の存在感が薄れそうだなぁ。デウスモードの時は白髪に染めたりしようかな? いやそれペルソナと被るわ。


「おはよ〜、フェアロ。それにミノルも」


 いつも元気なミュトだが、朝には弱いのか今日は眠そうに机に頬をくっつけていた。


「おはよ」


 おはようっておはよって言っちゃうよね。大学の教室に似た部屋だが、席はきっちり決められているので、自然な流れでフェアロから離れた。うん、朝から人と喋るのは疲れるよ。朝をもう頭回らないからさ、話しかけられても、うんとかすんとかしか言えないのよ。


 そんな言葉を飲み込んで、僕は席に座ってすぐに睡眠体制へと移行した。そんな中、隣で1人教科書を読み込むヒュブリスが目に入り、横に首を曲げて視線を移す。


「おはよ」


「んぁ? おはよ」


 一瞬なんとも言えない返事をしてこちらを見ると、興味なさげに教科書に視線を落とした。そっけない態度だ。なんか不機嫌のようだ。まあヒュブリスいつも勉強してるからストレスが溜まっているのだろう。見た目とのギャップがえぐいな。まあ中身とのギャップも凄いのだが。


「若いうちはね〜、遊んでおかないと」


「は? 何急に」


 ヒュブリスは露骨に嫌そうな顔をして、僕から少し距離をとった。いやいや人生の先輩としてのアドバイスをね? まあ同い年だけどさ。


「ていうか前から気になってたんだけど、なんでそんなに勉強してるの?」


「勉強に理由がいるの?」


 ヒュブリスは横目に僕を睨んだ。こりゃ相当不機嫌だ。


「いや、いらないけどさ。お前の場合はなんか訳がありそうだから」


 僕が食い下がらない意志を見せると、ヒュブリスは大袈裟に息を吐いて、諦めたように話し始めた。


「恩返しよ。今まで何不自由なく育ててもらったんだもの。良い学校を卒業して、お金もたくさん稼いで、恩返ししたいの」


 なにそれ素敵。まさかこんな綺麗な心をヒュブリスが持っているなんて……。


「ま、まじか……」


 なんかだんだんヒュブリスが大きく見えてきたんだが。友達も作らず勉強して、しかも理由が恩返しって、なんて良い子なのかしら。


「まあ、なんだ。ほどほどにね」


 ヒュブリスは僕の言葉を聞いて驚いたように頬を赤く染める。そのまま無理やり照れを隠すように、そっぽを向いた。


「ふ、ふんっ」


 うんうん、平和だね。ってめっちゃフラグじゃん!

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