地震は自身の自信で乗り切る。
この男、ミノルはおかしな人だ。弱っちいのに態度がデカくて、落ち着きと余裕がある。
「ねえねえ、ねえねえってば!」
「うっさい!」
私が勢いよく怒ると、ミノルは小さい子供を見るように微笑む。こんなところも。私がどれだけ強く当たっても、嫌わないでくれる。素直になれなくてどれだけあしらっても、ずっと話しかけてくれる。
「ていうかさ、最近当たり前のように普通に授業してるよね?」
「最初の試験が潰れたのは私たちが思っている以上に、学校側にとって障害だったんでしょ」
おそらくちゃんと時間をかけて、どんな試験が生徒に成長を与えるのかを考え、準備した重要なものだったってこと。
すると驚いたような意外そうな瞳で、ミノルは私を見る。
「へえー、ちゃんと考えてるんだ」
そんな不意に見せた優しい笑顔に思わず、心臓が跳ねた。聞こえるわけもない鼓動の音を、掻き消すみたいに私は立ち上がって声を出した。
「当たり前でしょ! そしてそろそろ学校側も代わりを用意してくる頃よ!!」
まるで自慢するみたいに言って見せると、思った以上にミノルは感心してきて、誰か入ってくるのを期待するみたいにドアを見つめた。そんな顔を見て我に帰り、適当な言葉を口走ったことを今に後悔する。
「まあ流石に今急に始まりはしないか…」
「そ、そうね」
そうね、なんて実のない返事を返すと、会話が途切れて沈黙が訪れる。特に気にすることでもないとも思ったけど、まるで騙しているようで居心地が悪く、勇気を出して口を開ける。
「ま、まあ、なんていうか、今のは……」
その時は視界がぐんっとブレた。何が起こったのかまるでわからなくて混乱している間に、目の前には地面があった。そしてぶつかる直前に自分が倒れてしまっていたことに気づく。遅れて恐怖が体を支配し、思わず目を閉じた。
「うっ……」
だけど、顔に衝撃が来ることはなく、なんとなく浮遊感を感じる。ゆっくりと目を開けて見ると、地面スレスレでミノルが私をキャッチしていた。
「危なかった」
ミノルは安心したようにふっと息を吐くと、私をお姫様のように抱っこした。
「今のなんーーうわっ!」
安心したのも束の間、またもや視界がブレるような感覚に襲われる。でも今度はちゃんと目を開けて状況を見定めた。こ、これは大地が、揺れてる?
「地震だ! これ」
ミノルは情けない声を出しながらも、足をパタパタと動かしステップして、倒れないようバランスをとっていた。情けないはずなのに、ミノルに包まれていると不思議と心が落ち着いた。
「地震?」
地震と言えば、おとぎ話などでよく出てくる魔力暴走の災害の一つだ。地域によっては神の怒りを買った時に起こるなんてことも言われている。
「な、なにこれ〜!」
少し落ち着いたせいか、周りのざわざわを耳が拾う。確かティアラとかいう女。風魔法で咄嗟に自分の周りの人を宙に浮かして、脅威ではないと判断したのか、今は興味深そうに揺れる地面を見つめている。
「……へえー、この世界では地震がそれほどの脅威ではないのか」
ミノルが落ち着いた様子でゴニョゴニョと何かを呟くのを見て、自分たちが風魔法によって浮かされているということに気づいた。
「試験を開始する」
突然そんな声が学校内に響いた。魔導スピーカーか。そしてそんな言葉と同時に私たちは床に激突した。
「ぐへっ」
私はミノルをクッションのようにして、衝撃を抑え立ち上がった。そして気づいた。
「魔法が使えない…」
体に纏わせることはできる、だけど飛ばしたり、状態変化させたりができない。何か吸い取られているわけではなく、その場で分散してしまう。無理やり魔力を出せば自分ごと爆発することになる。
「いてて〜、魔法が使えないってマジ?」
間抜けな顔でのそのそと起き上がるミノルを見て、その危機感の無さに逆に安心を覚えてしまう私はおかしいのだろう。
「てか地震収まってるね」
「はいはい、ちゅうもーく!! 多分さっきの揺れはまた来るし、とりあえず安全な外に出よう!」
透き通るような綺麗で聞き取りやすい声。こんな状況では通りやすい声でいることはとても重要だ。ティアラは落ち着いた様子で、割れた窓からみんなを外に誘導する。
「ま、魔法が使えないなんて、やばくない?」
怯えた声でクラスの陰キャがミノルに呟く。なんなのあいつ? 陰キャのくせにミノルに話しかけて。
「ボクモトッテモコワイナ」
ついに恐怖でバグってしまったのか、なぜか感情のこもっていないロボットのような声で、ミノルは返答するのだった。




