ツンデレ
「いやー、なんだかんだ今考えると楽しかったな」
まだ、日にちは残っているが僕はそんなことを口に出す。
だが、返事が来ないので横を見ると、みんな「こいつ何言ってんの?」と言わんばかりの顔でこちらを見ていた。
「ま、まあ、楽しいこともあったねっ」
セリウスが苦笑いを浮かべ、カバーするように言う。
「いやいや、全然一ミリも楽しくなんてないわよ!」
ヒュブリスは眉間にしわを寄せ、手を広げながら怒鳴る。
「お腹は減るし、魔物しか食べられないし、あんた頭逝っちゃってんの! ドMですか?」
ひどい言いようだ。
まあ、僕ほどではないけども。
「僕はキャンプみたいで楽しく感じたんだよっ」
僕は口を尖らせ、ヒュブリスの真似をしてツンデレっぽく言う。
「ああ、あんた頭逝っちゃってんのね」
ヒュブリスはため息をつき、肩を落としながら納得したような様子を見せた。
「そういや、あと何日くらいなんだろう?」
僕は唐突に疑問を口にする。
「今日合わして二日じゃないかな? ここに来てから五回夜が明けてるからね」
セリウスは指を折りながら数え、真剣な表情で優しく答える。
「まあ、気を抜くな。でも二日なら最悪何も食べなくても問題なさそうだな」
カルコスが重い口を開いた。
炎に照らされたその顔には、気まずさと、何もできなかったことへの悔しさが浮かんでいた。
「正直、僕としてはみんなには何も食べないでほしい」
セリウスは唇を引き結び、視線を落として言う。
「なにも食べなければ生き残れるのに、何かを食べることでリスクが生まれる」
「確かにセリウスの言う通りだ」
僕がうなずくと、セリウスはほっとしたように表情をゆるめた。
「だが、それはこの場の人間全員が強い精神力を持っていた場合だけ」
僕が続けると、セリウスは驚いたように目を瞬かせ、複雑な顔をする。
「このただでさえ精神的にきつい状況で、食事を二日抜きはかなりきついと思うぞ。それに魔物も襲ってくるかもしれないし、その時ただでさえ弱い僕たちが空腹でどうする」
「でも、今、食べられるのは伝承に伝わる伝説の生物、タラクスだけなんだよ?」
セリウスは眉を寄せ、声を震わせながら言う。
「それでも、リスクを犯さなきゃ成長できないしね」
「多分腕くらいは食えるよ!」
呑気に言う。
「でも、それはリスクがーー」
「みんなは好きにしな、僕は食う。お腹減るだろうし、僕は食う」
「でも、一応僕が食えたらみんなも食えるってことだから、その時は分けてあげる」
僕がそう言うとセリウスは笑顔を見せる。
さっきツンをやってしまってので、ここでデレをやっておこう。
これでツンデレだ。




