肉
「やったわね!」
「あいつ、死体に手をつけずどっか行ったみたいだわ!」
空腹なこともあってヒュブリスは満面の笑みで喜ぶ。
お腹がぐうと鳴り、僕もつられて口元がゆるんだ。
だが、なんとなくこの静かさから嫌な予感を感じる。
森の奥から鳥の声ひとつせず、風の音だけが耳に届いた。
「うん、これでとりあえず食料をゲットしたわけだけど、伝承に伝わる生物なんて食べられるのかな?」
「食うしかないだろ」
まあそりゃ、伝承に伝わる生物とか食いたくないわな。
日本で言うなら鬼食うみたいなことかな?
もしくは桃太郎…。
それは流石にきめぇ!
「まあ、とりあえず僕が味見してあげるよ」
どっちかと言うと毒味か。
「いや、それは僕にやらせてほしい」
それはまずい。
もしここで毒があってセリウスが倒れると、とても気まずい!
僕が「勇気だせよ」みたいな感じですかしてかっこよく連れてきたのに…。
「いや、僕がやる」
ここは譲れない。
「本当に君は優しんだね、でもここで君に毒味をさせる訳にはいかない」
「君にたくさん助けられて、これ以上助けられるなんてカッコ悪すぎてできないよ」
「今だって、おんぶされているしね」
セリウスは頬を掻いて少し照れながら言う。
その横顔に火の明かりがちらついて、ほんの少し赤く見えた。
やめろ、そんな言い方されたら断れない!
「わ、わかった」
僕がしぶしぶOKすると、セリウスは優しい笑みを見せた。
「大抵足に毒はないから、足を食べてみようか」
僕はセリウスに足の部分に、ヒュブリスが魔術で作ったナイフのような物で刃を通した。
「っ!?」
あ、やべ。
「どうかした?」
セリウスが僕に純粋な顔で質問する。
「い、いや、なんでもない…」
セリウスの中で少し疑問点が残ったのか、考えるような顔をした。
「まあ、困ったことがあれば遠慮なく言ってね」
そう言ってセリウスは優しく笑う。
ふう、僕はやってしまった…。
力加減を間違えた。
この鱗みたいなやつ、めっちゃ硬い!
常人では絶対に切れないような硬さしてるっ。
それを当たり前のように切ってしまったのだ…。
もし他の人がこのタラクスの解体をすることになれば、実力がバレる!
絶対に阻止しなければ…!
「き、切れたよ」
そう言って僕はデカめの肉の塊をセリウスに渡す。
そうするとセリウスは魔法を使い、少し雑な土台を作った。
土の台座がごつごつと地面からせり上がり、そこに影が落ちる。
「とりゃ!」
すると、そこに肉を置き炎魔法で加熱した。
ぱちぱちと音を立て、香ばしい匂いが鼻を刺激する。
「それじゃあ、食べてみるね」
セリウスの顎から汗が垂れる。
火の光で光ったその汗が、不安を物語っていた。
顔に余裕はなさそうだ。
頼む、毒あるなよ。
「はむっ」
セリウスは豪快に肉にかぶりつく。
肉汁がじゅわっとあふれ、湯気が立った。
そのまま肉をもぐもぐし、飲み込んだ。
「うん、美味しい!」
「今のところは何もないよ!」
セリウスはそう言って、安堵の表現を浮かべる。
胸をなでおろすようにして笑った。
ふう、よかった。
これでひとまず大丈夫そう。
「その肉美味しいの? 早くよこしない!」
そうして、その後僕たちは肉にかぶりついた。
焼けた匂いと肉汁の温かさが、ようやく生き延びた実感をくれた。




