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入学式

「い、いやー」


焦ってそんなことしか返せず、変な空気になっているところで救世主が登場した。


そう、先生だ。


ガラッ、と教室のドアが開く音が響き、ピリついた空気に風が吹き込むような感覚が走る。


「はい、おはようー」


「今日からこの教室の担任になる、ビノラだ」


一見穏やかそうな口調だが、その目は鋭く、場を支配する威圧感がある。


まるで、空気が一気に引き締まったようだった。


「突然だが、この学校は何故作られたか知っているか? そう、魔王を倒すためだ。だがな、伝説の英雄、デウスによって魔王は既に討伐されている」


その呼び方をするということは、こいつは僕の宗教に入っていないということだ。


別にいいけどさっ! 教師が宗教に入ってたらもうちょっと面白い展開になってたかもしれないのにさっ!


「だからこの学校は目標を変えた。次なる目標は…デウスの討伐だ!!」


「は?…」


教室が凍りつく。


生徒たちは目を見合わせ、戸惑いと動揺と怒りが入り混じった表情を浮かべていた。


一部の生徒は唇を噛み、何かを堪えているようだった。


「確かにデウスは魔王を倒し、人間に平和をもたらした。だがな、あいつのせいで不幸になった人間もいるのだ!」


「それだけじゃない! あいつのせいでこの国は狂った! 国民のために一生懸命働いていた王は、デウスのためだけに働くようになった!そして一生懸命自分のために家族のために生きていた国民は、デウスのために生きるようになった!」


その時、一人の生徒がしびれを切らした。


「黙って聞いてりゃぁー! ふざけたこと言ってんじゃねーぞ!! 教師だからってその発言は見逃せねぇ!」


「そうだ! そうだ! ふざけんな! デウス様は魔王を倒したんだ! 平和をもたらしたんだ!」


怒号が飛び交う。机を叩く音、椅子を引きずる音が一斉に鳴り、教室が騒然とする。


だが、ビノラは何も言わなかった。表情すら変えない。


呆れて家に帰る生徒もいた。それでもビノラは、ピクリとも動かない。


それにしても、そんなに恨まれてたんだ…。そして絶対に来る学校間違えた…。


これで本当に絶対バラせなくなったな。


その後、教師は三十分間、一言も発さず座っていた。


暴力を振るう生徒もいたが、それも予想していたのか、教師の周りには淡い光をまとったバリアのようなものが張られていた。


拳が触れる寸前に弾かれ、ドンという鈍い音が空気を揺らす。


「よし、それでは話を続けようか」


教師は無表情のまま、淡々と話し始める。


暴れる生徒や文句を言う生徒が去ったあと、教室には静寂が戻った。


「君たちの中に、納得できない生徒がいることは知っている」


「別に強要しているわけじゃない。だから、そういう奴はすぐに帰れ」


だが、帰る生徒はいなかった。


重い沈黙の中で、生徒たちは互いに視線を交わしながら、小さくうなずいた。


「つまり、ここにいる生徒は、私の考えに納得しているということかな?」


教室に残ったのは10人ほど。


あれ、思ったよりも多くね? 普通に悲しい。


「それなら、これで入学式を終わる」


え、いやこれが入学式かよ!?


これ、多分各教室で行われてるんだろうな。教師も大変だな。


体育館みたいな場所に集めて一気にやればいいのに…。


いや、そしたらもっと大変なことになりそうか。


まぁいいや、とりあえず入学できたし……そうだ、前向きに考えよう。


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