2話、拝啓 早川絵梨様
景色が歪むと目の前には見たことのある家の前に、とても親しみ深かった男が立っていた。
「おっと、先客がいたか。誰だ?」
「あれは…光秋?」
やっぱりそうだ!
原 光秋。
僕らは小学校からずっと高校まで一緒だった。
この前結婚したとか言ってたな…誰とだっけな?
光秋がインターホンを押してしばらくすると絵梨が嬉しそうに出て来た。
「あっきーじゃん!久しぶり〜!」
「お、おう。元気そうで何よりだよ」
「さ、遠慮せずに上がって上がって!」
光秋は照れながら家に入って行った。昔あいつも絵梨のこと好きだったからな…
それにしても絵梨が元気でよかった。とは言えもう少し今の状況を見ておきたいような。
「どうする?もう少し見て行くか?」
「これが最後だから…もう少し」
じゃあ、と自称天使は壁に向かって歩き出した。
ぶつかる!、と思った時に吸い込まれるように壁の中に消えた。早く来いという声が聞こえる。
そっか…もう死んでるんだから壁通り抜けるなんて簡単だよな。
塀に向かって手を突き出すと何の感触もなしに貫通した。これはスゴイ…
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家の壁を抜けると座っていた光秋に絵梨がお茶を出すところだった。
「最近調子はどうだ?」
「悪くないよ!仕事も結構順調かな?」
絵梨はたしか子会社で社長秘書をやってたはず。
「あいつが死んでからもう半年か…早いも――」
光秋は『あっ、』という顔をして言葉を止めた。
「気にしないでいいよ!もう大丈夫だから」
「ゴメンな。あれ以来他の男との付き合いは?」
「ないかな…そんなにすぐ気変わりしたら涼介に悪いからね〜!」
二人で軽く笑ってお茶をすすっていた。
信じてはいたけど、正直少し安心した。
「無神経な男だ、まったく」
「光秋なりの優しさなんだ。話したら楽になるだろ?」
「掘り下げ過ぎなんだよバーカ!」
自称天使は光秋の耳元で言うが、もちろん聞こえてはいない。
「それにカラ元気、だ」
自称天使は呆れた顔をしながら言った。
「お前はそんなことも分からないでよく女性と付き合えたもんだ」
常日頃、鈍感だと言われるので何も言い返せなかった。
「彼女は誰にも本当の悲しみを見せることをしようとしない、あの元気はただの強がりだ」
「幼なじみにも見せられないって?」
自称天使はため息をついてイスに座った。
「幼なじみだから見せられないんだよバカ!」
「バカとは何だ!」
「心配かけたくないから弱い部分を見せられない訳だ」
そう言われればそうかもしれない。学生時代も絵梨はどんな時でも周りに気を配ることを欠かさない人だった。
「しかも死んだ人間をいつまでも想うつもりだ」
「なんで分かる?」
「天使だからだ」
ちょっと反応に困った返事だった。それはさておき、と自称天使はゆっくり僕に近づいてきて囁いた。
「今彼女に対して思うこと、伝えたいことを頭に浮かべろ」
「どうして?」
「いいから思い浮かべろ!」
自称天使今までにない真剣な顔で言ってきた。
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―――――
―――
まず絵梨には僕を忘れてもら――
そうだ、でも僕はもう死んでるんだ…絵梨は生きてるんだから幸せになっ――
「そろそろいくぞ…」
自称天使は僕の左のこめかみに指をあてた。
「何を…?」
「いいから真剣に考えてろ」
バンッ!
一瞬光ったかと思った瞬間、自称天使は僕のこめかみから手紙を引き抜いた!
「え?今のどうやったんだ!?」
「だからオレは天使だって言ったろう?」
得意気に手紙を叩くと玄関方面に歩き出した。
「何をするつもりなんだ?」
「お前は死んでるんだから手紙を渡せない」
自称天使が消えたかと思うとインターホンが鳴った。
「誰かしら…?」
絵梨が玄関を開けると一人の女性が立っていた。
「嘘…いづみ!?」
「久しぶりやないの!」
「遅かったじゃんか」
そうだ…原いづみ。
5年前に光秋と結婚したんだ!
彼女も僕らの幼なじみで昔から光秋に思いを寄せていた。
「仕方あらへんのよ、秋美が遅れてん」
「絵梨姉ちゃんだ!」
えーっと確か…原 秋美ちゃんだっけな?二人の名前を入れてんだよね。
結婚したころ生まれたから5歳?まだ小さな女の子だ。
「そういえば…喪服っぽいの着た男の人が」
いづみは手紙を取り出した。あれはさっきの?
「これ私宛て?」
「そう言ってた」
手紙の裏側には薄い字で『野上涼介』と書いてあるみたいだ。
一瞬全ての音が止まった。
「そんな訳はないだろ、誰かのイタズラだ」
「絵梨、見てみいな」
手紙を開くとさっき僕が考えていたことが見事に僕の字体で書いてある。ある。
やっぱりあいつはスゴイ…
『絵梨へ。
まず言っておくと僕は君の幸せを願っている。
僕が死んでしまったのは君のせいなんかじゃないし、誰が悪い訳でもない。
絵梨には幸せになってほしいから僕を忘れてくれて構わない。
君の幸せだけを祈り続けてい――』
僕は頭が悪いからまとまりきらなかったんだろうな。文がめちゃくちゃだ。
ふと顔を上げると絵梨は声を漏らして泣いていた。
いづみが抱きついて、
「好きなだけ泣きや」と呟いていた。
「お父さん、お父さん」
「今姉ちゃん泣いてるんだから静かにしてなさい秋美」
「でも…涼兄がそこにいるんだよ」
何!?僕が見える訳がない…でも秋美は明らかに僕を指差している。
「そんな冗談は言っちゃダメだぞ」
「でも、でも!」
秋美は泣きそうだが、顔をうつむいた瞬間を見計らって壁を通り抜けた。
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涼介が消えた後
「あれ?いなくなっちゃった?」
「いづみ、その喪服の男はどこに行った?」
「駅のほうかな…?」




