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15話 幼馴染じゃないけど、友達

麗華はシルヴァに導かれ、眩しい木漏れ日が差し込む庭先へと足を踏み出す。

大きな木陰の下には荒削りな木製のテーブルが置かれ、朝食の名残りである空の器が無造作に転がっていた。


「ご飯取ってくるね!」


振り返りざまに声を弾ませ、シルヴァは家の方へと小走りで駆け戻っていく。

「ちょうどお昼の時間だし、レイカもいいタイミングで起きてきてラッキーだった! ちょっと二人で待っててね~!」


パタパタと走り去る背中を見送りながら、麗華はくすっと小さく笑って風化したテーブルに両肘をつく。


(……偶然ね、まったく)


小さく少女は呟きを零した。


対面の席では、シンがぴくりとも動かずに座っていた。

部屋を出てから一言も発さず、重苦しい沈黙を平然と守り続けている。

頬杖をつきながら、木製の柵や生い茂る木立へと鋭い視線を巡らせる少年の様子を、麗華は横目で見つめた。


(あちこちキョロキョロ見渡して……まるで警戒中の見張り番みたいだな)


独自の奇妙な振る舞いに慣れてはいるものの、丸二日間も意識を失っていた身としては、麗華は一応彼のことを気にかけておきたかった。


「ねえ、シン……体調、大丈夫?」


生い茂る木々からシンの視線がパッと外れ、冷ややかな黒曜石のような目が真正面から麗華を捉える。


「問題ない」


「……」


思わず飲み込んだ溜息を胸の奥にしまい込み、麗華は木製の椅子にぐっと深くもたれかかった。


(うわ、見事に会話が途切れた……)


気まずさに視線を逸らし、微風に揺れるまばゆい芝生を眺めながら、気を取り直して麗華はもう一度声を張る。


「……そういえばさ。目が覚めた時、すぐ隣にいたよね」


チラリと横目を向け、含みを持たせて問いかける。


「もしかして……麗華が起きるまで、ずっと待っててくれたわけ?」


「ああ」


短く素っ気ない返事。


「めずらしいこともあるもんだね」


首をこてんと傾げ、麗華はそのぶっきらぼうな答えに疑問を浮かべた。


「いったいどうして?」


今度は目を逸らさず、シンは瞬きもせずにじっと麗華を見据えた。

その真っすぐな熱い視線に、麗華は思わず息が喉につかえる。


「……あのシルヴァという娘に、お前が目覚めるまで見張っていろと命じられたのでな」


「見張り、か……」


苦笑いを浮かべ、麗華は家の方へと視線を流した。


静寂が再び落ちるより早く、勝手口の扉が勢いよく開いた。

湯気を上げる重い木製の盆を抱え、シルヴァが庭へと戻ってくる。

濃厚な肉の煮込みの香ばしい匂いが風に乗って漂い、麗華の空っぽの胃袋が再び盛大な音を立てて鳴り響いた。

笑顔を浮かべて器を並べるのを手伝い、シンも静かに席につく。


両手を合わせて満面の笑みを浮かべたシルヴァが、ぱんと音を立てた。


「それじゃあ、いただきまーす!」


木製のスプーンが器を叩く小気味いい音を響かせながら、三人は穏やかな木陰で食事を口に運ぶ。

スプーンを動かしながら、シルヴァは興味津々といった様子でじっと視線を往復させた。


「二人って、どういう知り合いなの?」


もぐもぐと口を動かしていた麗華は、慌てて一口飲み込んでから喉を潤す。


「えっと……こう見えて、出会ったのは今年に入ってからだよ」


「えっ、そうなの!? すっかり幼馴染みか何かだと思ってた……」


「ううん、全然」


袖口で軽く口元を拭いながら、麗華は首を横に振った。


「そんな風に見える……?」


「うん」


シルヴァは目を細め、納得がいかないように首をかしげる。


「息がぴったりだし、お互いの足りないところを補い合ってる。見ていてすごく自然なんだもん」


「へえ……」


土製のカップを傾け、冷たい水を麗華はぐっと飲み干した。


「まあ、お互いの考えてることはなんとなく通じ合ってるからね。性格は全然違うけどさ」


「阿吽の呼吸ってやつね……」


急にシルヴァの目が妖しく光り、身を乗り出してきた。


「ねえ、それってさ……ひょっとして、そういう関係だったりするわけ?」


シルヴァの斜め上をいく直球すぎる問いかけに、見事に虚を突かれる。

飲みかけの水が綺麗に気管を塞ぎ、口から盛大に水を吹き飛ばしながら激しく咽せ返った。


「ゲホッ……! な、なに言って――っ!?」


真っ赤に染まった顔を押さえ、ひどく苦しそうに喉をかきむしる。

隣に座るシン君は微動だにせず、袖口を伝う冷たい水滴をただ静かに眺めていた。


「ん? 違ったの?」

きょとんと首を傾げるシルヴァ。

「ち、違う違う! 全然そんなんじゃないから!」

慌てて袖口で顎についた水を拭い、必死に手を振って否定する。

「ただの知り合い……っていうか、友達だから!」


テーブルにこぼれた水を二人で黙々と拭き取る様子を、シルヴァは興味深そうに見つめる。

あんなきわどい話を振ったというのに、当の本人たちはどちらもこれといって動揺していない。

(ふうん……変なの。フメイロウなんて恋バナを振るだけで茹でダコみたいになるのに。)


「へえ……面白いね」

意味ありげな笑みを浮かべ、シルヴァは小さく呟いた。


食事が終わると、ガチャガチャと音を立てて空の器をまとめ上げる。

「あ、そうそう。サイラス老人のところに行ってあげてよ。何日もすごく心配してたしさ」

「起きた顔を見せてあげたら、きっと安心すると思うんだ」


「わかった、行ってみるね」


シルヴァに別れを告げ、レイカとシン君は再び村の中心部へと歩き出した。

村の中心へと続く土の道を、二人は並んで歩いていく。

足元で乾いた土がサクサクとリズミカルな音を立てた。


視線の先には、災厄竜の襲撃が残していった生々しい爪痕が広がっている。

黒焦げになった梁、崩れかけた柵の残骸――あの時、シンが素早く動いてくれなければ、この集落は一瞬で地図から消え去っていただろう。


すれ違う村人たちの目はどこか暗く重かったが、それでも誰もが手を止めていなかった。

壊れた屋根板を直し、玄関先に積もった黒い灰を黙々と掃き出す。


(みんな……必死に日常を取り戻そうとしているんだ……)


麗華の胸の奥で、じんわりと熱いものが広がる。

どんなに残酷な災いに踏みにじられようとも、命さえあれば、人はこうして歩き続けるのだ。


(麗華だって、いつまでも立ち止まってなんかいられない……)


ぎゅっと拳を握りしめ、麗華は前を向く。

サイラスの家へと続く道を、二人は静かに進んでいった。


前方で、村の共同井戸から木桶がきしむ音がコトコトと響く。

顔を上げたサイラスの皺だらけの顔に、二人を見た瞬間、ほっと安堵の色が浮かんだ。


「おお、レイカ嬢! ようやく目を覚ましたんだね!」


小高い丘を早足でサイラスが駆け下りてくる。


「心配かけてごめんなさい、サイラスさん」


小さく、礼儀正しく麗華は頭を下げる。


「なに、気にしないでくれ、お嬢さん」


サイラスは柔らかく笑いながら手をひらひらと振った。


「うちの大切な客人なんだから、心配するのは当たり前さ」


三人は並んでメインストリートを進む。

小さな小屋の脇を通り過ぎる時、一列になって静かに歩く村人たちの姿が目に入った。

色とりどりの野花を抱えた者や、焼きたてのパン、小さな木彫りの小物を籠に入れた者たちがいる。


「村の外れにある墓地へ向かうところさね」


木立へと続く細道を指差し、サイラスが静かに説明する。


「みんな、毎日花や食べ物を手向けに通っているんだよ」


行き交う背中を見送りながら、麗華の胸の奥がキュッと締め付けられるような切なさを覚える。


「あたしも……お墓参りに行きたいです」


「おや、そうかい。なら案内しよう」


村人たちの少し後ろにつれだって、麗華は木陰に包まれた土道を歩いていく。

やがて木々が途切れ、村の外れの静かな空き地へと視界が開けた。


そこには、掘り起こされたばかりの真新しい土盛りが整然と並んでいた。

それぞれの墓標には素朴な石碑が立てられ、色鮮やかな野花や、食べ物の入った小さな木椀がそっと添えられている。

一帯には、重く冷たい静寂がずっしりと澱んでいた。


サイラスの隣に並び、静かに頭を垂れて麗華は犠牲者たちの冥福を祈る。

長い沈黙ののち、ゆっくりと麗華は瞼を開けた。


「どうか、安らかに眠ってください……」


静寂のなかでそっと呟き、何気なく振り返った瞬間――麗華は驚愕のあまり、その場で凍りついた。


数歩後ろに控えていたシンの腕に、包みに入った干し果物や塩漬け肉が山のように積み上げられていたのだ。

さらに、その口の端には固いハードパンが一本、行儀悪くくわえられている。


「は……? いったいどこからそんなに集めてきたの……?」


麗華はパチクリと目をしばたたかせた。


「やれやれ、あんなに物をあげちゃいかんと言ったのに……!」


ため息をつきながら、サイラスは両手を差し出して歩み寄る。

シンは無言のまま山盛りの食料を老人へと渡し、もぐもぐとゆっくり口を動かし続けた。


「どうしてまた、村の人たちがこんなにたくさんの食料を……?」


抱えきれずに苦労している老人の姿を見て、麗華は首をかしげる。


「シン君が災厄竜を討伐したっていう噂が広まってね。命を救ってくれたお礼にと、村人たちが次々に差し入れを持ってくるんだよ……」


ずっしりと重い荷物を抱え直し、サイラスはやれやれといったふうに首を横に振った。


再びメインストリートへと歩き出しながら、サイラスが小さく苦笑する。


「一度受け取っちまった以上、今さら突き返すのもかえって失礼になるしねえ」


「それにシン君、もう自分から食べちゃってるし。つまり喜んで受け取ったってことだよ」


口についたパンくずを平然と拭い取るシンを横目でチラリと見やりながら、麗華は得意げに頷いた。


「たしかに、おっしゃる通りだね、レイカ嬢……」

老人は小さく微笑んで頷いた。


村の中心部へと戻る道すがら、後ろをついてくるシンの姿を見つけた村人たちが何人か足を止めた。

家に戻ってさらなる差し入れを取ってこようとした者たちは、その隣に苦い顔のサイラスが歩いていることに気づき、ピタリと動きを凍りつかせる。

そして、気まずそうにそそくさと後ずさっていくのだった。


そっとサイラスに寄り添い、声をひそめて麗華は耳打ちする。


「……もしかして、村の人たちには事前に『物をあげないで』って言ってなかったんですか?」


荷物を抱え直しながら、サイラスが深々と息を吐き出す。


「言ったとも、レイカ嬢。噂が広まるのまで止めるわけにはいかんから、あれが精一杯さ。なのに……」


老人は弱り切った様子で頭を振った。


「シン君が一人でフラッと出歩くたびに、みんなコソコソと食べ物を押し付けちまうんだよ」


なるほどと納得し、麗華はトコトコと再び歩調を合わせる。


(そういえば、シンってハッキリ言わないと断らないタイプだったっけ……)


一時間ほど村の様子を見て回ったあと、サイラスの家へと戻る。

シンが集めてくれた大量の食料のおかげで、少し早めの夕食を済ませることができた。

サイラスに案内された小さな部屋には藁のベッドが敷かれており、老人が最後の見回りに外へ出たことで、室内には静けさが戻る。


静まり返った部屋で藁の寝具に身を横たえたものの、麗華はどうにも頭が冴えて眠気がやってこない。

気になって体を横向きにし、まだ起きているかを確かめようと麗華は呟いた。


「ねえ、シン――」


返ってきたのは、すーすーという穏やかで規則正しい寝息だけだった。

枕に頭をつけた瞬間から爆睡していたらしい。


「……」


(寝落ちするの、早すぎでしょ……)






ステータス

 名前:真 ソル

 種族:人間

 称号:なし

 能力:『???』




ステータス

 名前:三葉 麗華

 種族:人間

 称号:なし

 能力:『契約』

     さぶあびりて『拘束の鎖』

     さぶあびりて『主観的支配』

     さぶあびりて『主観的接続』

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